禁煙タクシーに関する7月12日毎日新聞記事に対する抗議
毎日新聞からの回答(7月19日付)
2007年7月13日
毎日新聞社
 北村正任社長様
 堀智行 記者様
 池田知広記者様
                                         新宿区市谷薬王寺町30-5-201
                                        NPO法人 日本禁煙学会 理事長
                                                 作田 学

毎日新聞2記者の非常識を怒る

 毎日新聞によれば、神奈川県においてタクシーが完全禁煙になった7月11日に堀智行、池田知広の二記者がむりやりタクシー内で喫煙をしようとして、それを記事にしたという。
 これは(1)タクシー乗務員の受動喫煙をなくすという本来の趣旨をまったく理解していない (2)天下の毎日新聞記者ともあろうものが、社会の木鐸としての自身の責務をまったく理解していない ところから出たもので、言語道断のおこないである。日本禁煙学会は断固としてこの2記者の横暴に反対し、責任ある回答を求めるものである。

 タクシー乗務員の立場は非常に弱いものである。吸って良いですかと言われると、断れないことも多い。そこで一律にすべて禁煙として、タクシー乗務員の健康を守ろう、同時に次に乗る乗客の受動喫煙もあわせて防止しようというのが今回のタクシー禁煙化の趣旨である。タクシーのような狭い閉鎖空間での受動喫煙の被害は非常に深刻である。
窓を閉め切ったタクシーで乗客1人がたばこを吸うと車内の粉じん濃度が、国の環境基準の12倍になり、1時間以上元に戻らないことが確かめられている。
実際にタクシー乗務員は肺癌、喉頭癌、心筋梗塞、脳梗塞になることが多く、最近でも喉頭癌と診断された東京のYさんがタクシー会社を訴えている。また先進諸国はもちろんのこと、開発途上国でもタイ、香港、マレーシアなどタクシー車内を禁煙としている国が大部分である。ただ日本だけが非常に遅れているのである。
 つい先月6月29日から7月6日までタイのバンコクの国際連合ビルでタバコ規制枠組み条約の第2回締約国会議が開かれ、全世界から142か国、20団体あわせて約600人が参加してタバコ問題のあらゆる事を話し合った。その中でもとりわけ重要視されたことに、受動喫煙の問題がある。
結局、
(1) 受動喫煙は健康に重大な影響を与える
(2) 受動喫煙に安全といえる量はない
(3) 公衆の集まる場と職場・交通機関の完全禁煙以外の対策はありえない
(4) 空調・空気清浄機・分煙によって受動喫煙の害をなくすことはできない
(5) いかなる人々も受動喫煙の害を受けることのないよう対策を行なわなければならない
(6) すべての労働者は完全禁煙の場で働く権利と自由がある
(7) 人々を受動喫煙から守るには、一切の例外を認めない法的規制が必要である
(8) 実効のある受動喫煙防止法には、実効のある強制条項、施行措置条項、モニタリング条項が不可欠である

 という十分なエビデンスに基づき、ガイドラインが制定された。これは受動喫煙禁止条約とも言える内容になっている。またILOとも連動し、まもなくジュネーブのILO本部からの声明も出される予定である。世界中で日本政府だけがこれに反対したが、多勢に無勢、結局自分の主張は引き下げた。したがって、世界に追随して、受動喫煙禁止法令を整備する事が当然の事として要請されている。それもbest practiceとしておこなわなければならない。つまり、サボタージュや無視はできないということである。
このガイドラインの邦訳はまもなく日本禁煙学会のホームページに掲載する事になろう。
 また受動喫煙禁止条約以外にも、5条3項(タバコ会社の利益に反しても、禁煙政策を守ること)、9条・10条(タバコに含まれる内容物ならびに排出煙の分析)、11条(タバコのパッケージ、ラベル)、12条(禁煙教育)についてもいくつかのグループを定め、1年後の2008年に南アフリカでおこなわれる第3回の締約国会議の2ヶ月前に各国に対しガイドラインを示すことが決まっている。この間の事情は共同通信あるいは毎日新聞のバンコク支局が当然の事ながらフォローしていると思うので、確かめられたらよいだろう。同じ記事にするなら、世界中が賛成しているのになぜ日本政府代表団だけが異様とも言える強硬さで文面削除など3カ所もの訂正を申し入れたのかを記事にするべきだっただろう。

7月20日までに毎日新聞社から誠意ある回答を求めるものである。

該当記事
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/kanagawa/news/20070712ddlk14040322000c.html

禁煙タクシー:県内、全面始動 毎日新聞2記者が試乗 /神奈川

 県内のタクシーが11日、首都圏で初めて全面禁煙化された。「きれいな空気で過ごせる」と歓迎する人。「乗客とのトラブルが心配」と不安顔の運転手。受け止めはさまざまだ。1万4000台の禁煙タクシー始動で、サービスはどう変わったのか。同僚の池田知広記者=1日喫煙本数15〜20本、25歳=と乗車してみた。【堀智行】
 ◇携帯灰皿渡し「車外で」/断りきれない運転手も
 池田記者はタクシーに乗ると、ついたばこを吸ってしまう。禁煙タクシーについて「人目につかず、運転手がいいと言ってくれればリラックスして吸える。いきなり、全面禁煙はちょっとやりすぎかも」とちょっぴり不満顔だ。
 11日正午、横浜市中区の県庁前からタクシーに乗った。ハンドルを握るのはドライバー歴7年という男性運転手(59)。車内の灰皿は「禁煙」と書かれたシールが張られた上、接着材で密閉されていた。
 乗車5分後、JR桜木町駅前に差し掛かったところで、池田記者がポケットからたばこをつかみ切り出した。
 「たばこ吸ってもいいですか」
 「今日から禁煙になったんです」
 落ち着いた口調で答える運転手。
 「どうしてもだめですか」
 池田記者も粘る。
 だが運転手は「条例で決まったんで」とやんわり断ると、水色の携帯灰皿を取り出した。
 「外で吸ってもらうことになったんですよ」
   ◆  ◆
 続いて横浜駅から個人タクシーに乗車した。男性運転手(67)は最初は申し訳なさそうに断っていたものの、頼み込むと「そんなに吸いたいの」とあっさりと了解。
 県タクシー協会では、乗客とのトラブルを避けるため想定問答集を作成し、喫煙の申し出があった場合は携帯灰皿を渡して車外で吸ってもらうようにしたが、運転手はこう言った。
 「料金メーターは回っているのに外でとは言えない。トラブルになるくらいなら吸わせちゃう」
 20分後、目的地の横浜市役所に到着。運転手は「夜の酔った乗客とのトラブルが一番心配だよ」と話して走り去った。
 初めての禁煙タクシーの乗り心地はどうだったのか。池田記者は言う。「運転手のほうも断りにくそうなので、こっちも頼みにくかったですね」
毎日新聞 2007年7月12日

 

 

毎日新聞からの回答
NPO法人 日本禁煙学会
理事長   作田 学様
2007年7月19日
  毎日新聞横浜支局
支局長 寺田浩章

ご回答

 作田様名の文書「毎日新聞2記者の非常識を怒る」を拝読いたしました。弊社社長・北村正任社長および弊支局・堀智行、池田知宏両名あてではありましたが、担務上、横浜支局長の寺田より回答させていただきます。

 7月12日朝刊の毎日新聞神奈川面の記事「県内タクシー全面禁煙始動 本誌2記者が試乗」に対して、貴学会をはじめ読者の皆様から抗議や批判をいただきました。記事に説明不足の面があり、誤解を招いたことを反省しております。このため、同19日朝刊の神奈川面に横浜市局長名で次の文章を掲載いたしました。

◇12日の記事、趣旨を説明します
 県内タクシーの全面禁煙化を受けて12日の神奈川面に掲載した記事「県内タクシー全面禁煙始動 本誌2記者が試乗」に対し、禁煙を推進する団体や読者の皆様から抗議や批判をいただきました。
 記事はタクシーに乗った記者が、運転手に「たばこを吸ってもいいですか」と問いかけるものでした。スタートしたばかりの現場から、運転手の肉声や苦労を報告することが狙いでした。
 タクシー全面禁煙の取り組みが運転手の受動喫煙被害を防止し、利用者の健康も守るという趣旨は十分承知しています。今回の取材でも、運転手が問いかけに了解した場合であっても記者は喫煙しておらず、取材への理解も得ました。ただ説明不足の面があり、誤解を招いたことは反省しています。
 タクシー全面禁煙の取り組みをはじめ、喫煙の問題は今後ともさまざまな形で取り上げていきたいと考えています。
横浜支局長・寺田浩章

 この文章は、タクシー禁煙化訴訟の元原告、平田信夫さんが18日に横浜市内で行った講演の記事とともに掲載しました。コピーではありますが、当該紙面を同封いたします。またこの記事と文章は弊社のニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」の地域ニュース・神奈川にも掲載しています。

 支局長名文章にありますように、今後ともタクシー全面禁煙の取り組みをはじめ、喫煙の問題を紙面で取り上げていきたいと考えています。ご理解をいただくよう、よろしくお願いいたします。
 以上、回答とさせていただきます。

毎日新聞横浜支局
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横浜市中区本町1-3
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