2011年12月12日記事 2011年12月20日掲載

JTインターナショナル(JTI)のオリンパス型スキャンダル
ジャパンインクというウェブサイトhttp://www.japaninc.com/jpに掲載されたJTIの密輸問題に関する記事を翻訳しました。(翻訳:松崎道幸)
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JTインターナショナル(JTI)のオリンパス型スキャンダル
http://www.japaninc.com/tt_another-Olympus-style-scandal-JTI
2011年12月12日
JTインターナショナル(JTI)のオリンパス型スキャンダル 2,3週間前にオリンパスのスキャンダル発覚についてスリラー小説のような感覚で記事を書いたが、そのすぐ後に一人の読者から、もっと悪質と思われる日本たばこ産業の海外事業部門であるJTIという日本企業のスキャンダルが進行中だと教えられた。われわれは最初その情報を真に受けなかった。というのは、この件を速報したレポーターグループがベオグラードを拠点としていること、そして密輸とか、偽造工場とか、シリアのアサド大統領政府に間接的キックバックという形の資金提供をしたなどというすぐには信じがたい内容の告発を行っていたからである。

 この見方は11月4日のロイター社の提供したニュースで裏付けられたように思えた。それによれば、JTIを告発したのはOrganized Crime and Corruption Reporting Project (OCCRP)というレポーターグループであり、ロイターはJTIから次のようなコメントを受け取っていた。「この件については、不正取引を許さないという全体的なスタンスに沿って、JTIにおいて適切に対応がなされ処理された。JTIに関する限り、この件は完全に対策が取られ解決されたと認識している。」東京のJT本社のスポークスマン、ヒデユキ・ヤマモト氏は、OCCRPレポートの情報は、JTIから不当に解雇されたと主張している人々が2年以上前から言い続けているものであると述べて、この告発の信ぴょう性を否定した。

 ヤマモト氏がロイターへのコメントの冒頭で、解雇された従業員の負け惜しみであると述べたように、このレポートはすべてでっち上げにすぎないと言うことになるはずだった。ところが、JTIから解雇された社員の中に、社内調査チームのシニア・マネジャーだったデイブ・レイノルズ氏が含まれていた。しかも、「公表された」情報はレイノルズ氏がJTの東京本社に2010年4月に提出した報告書そのものだった。その報告書の中でレイノルズ氏は、自分の率いた調査チームがJTIの首脳経営陣が雇ったグループから嫌がらせや電子メールのハッキングを受けたことを明らかにした。つまり、自分を雇っている会社の首脳陣が彼の調査活動を妨害しようとしたのである。レイノルズ氏は東京本社のハルヒコ・ヤマダ氏にあてた手紙の中で、事態は深刻でありこの不正行為を働いているJTの子会社に対して適切な措置を講ずるように請願している。

 レイノルズ氏はJTIの国際的ブランド信頼性向上部門の副責任者だったが、この報告書の提出から数日も経たないうちに解雇された。オリンパスとよく似ているではないか。彼が「小物」でないのは明らかだ。オリンパスのマイケル・ウッドフォード氏と同じく、彼の経歴は重量級である。彼は現在FBIのシニア・インテリジェンス・オフィサー(情報高官)となっている(われわれは彼とLinkedInというソーシャルネットワークを通じてアクセスし電子メールで連絡を取っている)。彼は、JTIに入社する前には、米国国務省外務職員だったがそれ以前はCIAの情報高官をつとめている。

 レイノルズ氏のような人物は、彼の報告書の中で述べているように、でっち上げをする必要はないと考えられる。この内容についてはOCCRPのウェブサイトhttp://www.reportingproject.net/のStory Documents tab の#10PDF文書を参照されたい。

 レイノルズ氏の4月10日付の報告書は、密輸、脅迫、偽造の見逃し、リベート、ロシア人ギャングの介在などの恐るべき不正行為を彼のチームが調査してJTIの経営首脳陣に報告した多くのレポートの中で最重要のものだった。彼はJT本社あての最後の手紙の中で、JTI内の(非日本人)複数の経営首脳部の行為が不法なものであり、発覚した密輸事案をすべて報告する義務がJTIにある事を定めた欧州連合とJTIの2007年の協定に違反しているに等しいと強調している。罪は極めて重い。

 OCCRPは、レイノルズ氏の解雇後も、この不正が引き続き行われていることを暴露した最新の資料が本年3~5月の時期に発見されていると述べている。中東におけるJTIのビジネスパートナーIBCSはRami Makhloufという人物が経営しているが、この会社はシリア政府と大きな取引をしている。欧州連合の報告書によれば、彼は自分の活動を通じて(シリア政府に:訳注)資金を提供している。IBCSは欧州連合の制裁措置など意に介していないように見える。制裁措置が発令された4日後に、シリアに向けて9千万本の紙巻タバコを船便で発送したという事例もある。それだけでなく、5月27日には、JTI自身がシリア政府所有のGeneral Organization of Tobacco に8万4千ケースの紙巻タバコ(うち2万ケースは無料)を船便で発送している。JTIは、売れば1500万ドルのポケットマネーが得られる200万本の紙巻タバコをシリア政府に無料で供与した理由を申し開きできるのだろうか? さらに、親会社であるJTは、子会社の首脳陣がそのような非合法行為を行った事に対して何の懲戒措置も実行しなかった理由を合理的に説明できるだろうか?

 われわれは、この件が日本の報道機関から報道されていないことに驚いている。おそらく、OCCRPが遠く東ヨーロッパにあり、東京に本社のあるJTが問題のはぐらかしに長けているからかもしれない。JTにとって運の悪いことに、OCCRPは、本件に関する明らかに信頼のおける証拠資料を沢山つかんでおり、欧州連合のタバコ産業査察機関OLAFがしっかり活動しているとは言えないにしても、東京のJTには、経営首脳が違法行為を認識していながら何ら対策を講じなかった事を問う訴訟が待ち受けている。

 OCCRPに問い合わせ、レイノルズ氏にこれらの証拠資料が信頼のおけるものであることを確認したわれわれとしては、調査委員会を作り、JTIの首脳が何を行い、何を隠しているのかを明らかにする義務がJTにあると考える。もしOCCRPの主張が正しければ、ヨーロッパにおいて、JTIは、法的責任を問われることになる。(参照:http://ec.europa.eu/anti_fraud/budget/cig_smug/2007_en.html)

 それだけにとどまらず、東京地検はOCCRPの多数の証拠資料を精査して、日本の法律に対する違反がないかどうかを調査すべきである。少なくとも、JTIの経営管理に責任を負う幹部に対して何らかのアクションを行うべきである。

 今回のJTIの事案が示しているのは、オリンパスのスキャンダルが、たまたま起きたのでなく、氷山の一角であると言うことである。内輪の秘密を隠し通してきた日本企業が国際社会で活動するには、抗うことのできないルールと思い通りに動かす事の出来ない人々が存在していることをしっかり認識する必要がある。そして、物事が収拾不能になる事はよくあることだということも思い知る必要がある。

 今回のJTIの事案はまた、多くの国外株主に、日本企業がコーポレートガバナンスに対して不誠実であることを思い知らせた。また最終的には日本政府自身の問題であることを思い知らせた。言うまでもなく、JTIのケースはオリンパスのケースよりも日本政府の責任が大きいと言える。なぜなら、JTの株式の50%は日本政府が所有しているからである。そうなのだから、政権党である民主党はJTの経営者に対して、オリンパス問題以上に、国民が恥ずかしい思いをしないよう、この問題を速やかに収拾せよと宣告すべきである。
以上


【原文】
http://www.japaninc.com/tt_another-Olympus-style-scandal-JTI