2012年 1月11日掲載

タバコ製品の有害性に関する世界医師会声明
http://www.wma.net/en/30publications/10policies/h4/
第40回世界医師会総会(1988年9月オーストリア、ウィーン)で採択、第49回世界医師会総会(1997年11月ドイツ、ハンブルク)、第58回世界医師会総会(2007年10月デンマーク、コペンハーゲン)、第62回世界医師会総会(2011年10月ウルグアイ、モンテビデオ)で修正 (翻訳:松崎道幸 2012年1月10日)

前文

世界中の大人の3人にひとり(11億人以上)は喫煙者である。彼らの80%は低所得~中所得国に住んでいる。喫煙をはじめとしたタバコ使用は体全体に有害な影響をもたらし、ガン、心臓病、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、周産期疾患など様々な病気の主要原因となっている。毎年世界中でタバコ使用によって500万人が命を奪われている。このままでは、2020年には1千万人がタバコ病で死亡し、その70%は発展途上国の住民となるだろう。20世紀にタバコ使用によって死亡した人数は1億人だったが、有効な対策を講じなければ、21世紀中のタバコ使用による死亡者は10億人に達する恐れがある。
そればかりでなく、4000種以上の化学物質、50種以上の発ガン物質など多くの有害成分を含む副流煙によって、非喫煙者が肺ガンや心臓病になる危険がある。

世界中の健康増進諸団体は、世界保健機関を通じて、タバコ使用とタバコ関連疾患が激増していることを憂慮していると表明してきた。2007年9月20日までに150カ国がタバコ規制枠組み条約(FCTC)を批准した。この条約は、タバコ税増税、タバコの宣伝販売促進禁止、一般市民の利用する施設と職場の喫煙禁止、パッケージへの効果的な有害警告表示、禁煙治療がたやすく受けられる措置、タバコ製品の密輸と不法取引の廃絶などの強力な対策を講ずることを締約国に義務付けている。

喫煙が行われている家庭、職場など公衆の利用するあらゆる場所で受動喫煙が生じている。世界保健機関の調査によれば、毎年職場の受動喫煙で20万人の労働者の命が奪われ、世界のこどもの半数、およそ7億人が家庭で受動喫煙にさらされている。世界保健機関は、2007年5月29日に、当時発表されていた3つの包括的報告書(IARCモノグラフ第83集、米国公衆衛生長官報告書「タバコ煙と受動喫煙」、カリフォルニア州環境保護局報告書)に基づき、職場と公衆の利用する建物内の喫煙を世界全体で禁止するよう呼びかけた。

タバコ産業は、会社内の研究と社外の研究への資金援助を通じて、タバコの健康影響の解明を真剣に行っていると主張してきた。しかし、タバコ産業は、喫煙の有害性についての情報を否定し、隠匿し、公表を妨害し続けている。タバコ産業は長年にわたり、喫煙がガンや心臓病を起こすかどうかについての結論は出ていないと言い続けてきた。また、ニコチンには依存性はないと主張してきた。これらの主張は、世界中の医学専門家から繰り返し論破されてきた。医学専門家達は、タバコ産業の膨大な宣伝キャンペーンに断固として対峙し、医師会こそがタバコに反対するキャンペーンで強固なリーダーシップを発揮すべきであるという信念に基づいて行動してきた。

タバコ産業とその関連子会社は、長年タバコと健康に関する様々な報告書の作成に資金を出してきた。このような研究者あるいは研究組織の活動は、その「研究成果」を直接タバコの売り込みに役立てることができない場合でも、タバコ産業の主張に信頼性を与える役割を果たしてきた。また、このようなタバコ会社とのつながりは、健康増進という目標に対して大きな利害相反となっている。

タバコ製品の有害性に関する世界医師会声明
(PDF版4ページ、236KB)

タバコ製品の有害性に関する世界医師会声明



勧告

世界医師会は、各国の医師会とすべての医師に対して、タバコ使用がもたらす健康被害の低減を目指して、以下の行動を勧告する。

  1. 喫煙とタバコ製品の使用に明確に反対する方針を確立し、そのことを広く市民に知らせること。
  2. 世界医師会にならい、各国医師会は事業、社会、学術、式典等あらゆる会合における喫煙と無煙タバコ使用を禁止する事。
  3. 専門家と一般市民に対して、タバコ使用(依存性の問題を含む)と受動喫煙の危険性を教育するプログラムを開発し、発展させ、そのプログラムへの参加を促す事。喫煙者(無煙タバコ使用者)に禁煙(タバコ離脱)を促すプログラムも重要だが、非喫煙者(非無煙タバコ使用者)がタバコに手を出さないように呼びかけるプログラムもまた重要である。
  4. すべての医師が禁煙とタバコ製品非使用のロールモデルとなり、一般市民にタバコ使用の有害性と、タバコ使用中止のメリットを伝える語り部となるよう激励すること。
  5. すべての医学生と臨床医がタバコ依存の診断と治療が出来るように教育プログラムを組むこと。
  6. 個々面接、集団禁煙教室、禁煙テレフォンライン、インターネットによる禁煙サービスなど適切な手法による証拠に基づくカウンセリングおよび薬物治療を学ぶことが可能となるよう支援すること。
  7. タバコ依存の治療に関する臨床実地ガイドラインを作成すること。
  8. 世界保健機関がタバコ使用中止のための薬物療法を世界保健機関必須医薬品モデルリストに加えるよう、世界医師会とともに働きかけを行うこと。
  9. タバコ産業の信頼性増加を阻むために、タバコ産業からいかなる資金も教育アイテムも受け取らないこと。医学校、研究所、個々の研究者に対しても同様に呼びかけること。
  10. 自国政府に対し、公衆の保健を守るために、FCTCを批准し、しっかり実施することを呼びかけること。
  11. 発展途上国へのタバコ製品売り込みに反対し、自国政府に対しても同様の態度をとるよう要求すること。
  12. 以下の法律を制定し施行すること。
    • タバコおよびタバコ派生商品の製造、販売、流通、販売促進に関する包括的規制をおこなうこと。以下に示す条項を含むものとする。
    • タバコ製品のすべてのパッケージと広告に有害警告を文字と画像で表示することを義務付けること。この表示は視認性が高いものでなければならない。また電話あるいはインターネットなどを通じた禁煙サポート情報を希望者に伝えるようにすること。
    • すべての屋内施設(医療機関、学校、教育施設なども含む)、職場(レストラン・バイ・ナイトクラブも含む)、交通機関を禁煙とすること。メンタルヘルスと薬物依存症治療施設も禁煙とすること。刑務所内の喫煙も許可すべきでない。
    • タバコとタバコ派生製品の宣伝・販売促進の完全禁止。
    • タバコ製品のプレインパッケージ化(注:ロゴ、デザイン、配色なしの「地味な」パッケージ)法制の推進。
    • こどもと若者に対するタバコ製品の販売を禁止し、入手困難とさせる対策の実施。タバコに似せた飴や菓子の製造販売も禁止。
    • 国内便、国際便を問わずすべての商業的航空便を禁煙とすること。空港などでの免税タバコ販売の禁止。
    • タバコおよびタバコ派生商品に対する国の補助金の全廃。
    • タバコ使用率とタバコがもたらす健康影響の研究調査。
    • 新たなタバコ製品の販促、流通、販売の禁止。
    • タバコ税の増税。税収をタバコ使用予防、中止等の保健プログラムに充てること。
    • タバコの不法取引と密輸タバコの販売の低減ならびに禁止。
    • タバコ農家の転業支援。
    • 国際貿易協定の対象品目からタバコ製品を除外すること。
  13. タバコ使用と受動喫煙が小児に有害であること、すなわち小児のタバコ使用と大人の喫煙に起因する受動喫煙が病気を起こす事を認識し、かつ、タバコ使用をなくす効果的な対策が存在することを認識すること。臨床医には以下の役割が期待される。
    • こどもを受動喫煙から守ること。
    • 喫煙する親に禁煙治療を勧める。
    • 若者の喫煙開始予防と禁煙治療の推進。
    • 若者へのタバコ売り込みとタバコ入手のブロック。
    • 小児の喫煙予防に関する研究の優先的推進。
  14. タバコ製品の製造販売に関わる企業への投資を拒否すること。
以上
(翻訳:松崎道幸 2012年1月10日)