2012年 5月14日

若者と若年成人のタバコ使用を防ぐために
(2012年、米国公衆衛生長官報告)
Preventing Tobacco Use Among Youth and Young Adults
A Report of the Surgeon General Executive Summary
若者と若年成人(10代から20代半ば)のタバコ使用を防ぐために 米国公衆衛生長官報告 2012
U.S. DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES
Public Health Service Office of the Surgeon General
http://www.surgeongeneral.gov/library/reports/preventing-youth-tobacco-use/exec-summary.pdf
訳注
1. このSGRでは、youthとは12~18才、young adultとは18~24才までの年齢層を指しているようである。Prefaceに「This Surgeon General’s report examines in detail the epidemiology, health effects, and causes of tobacco use among youth ages 12 through 17 and young adults ages 18 through 25.」と言う記述があることからそう類推できる。とりあえずyouthを「若者」、young adultを「若年成人」と訳した。日本ではyouthは中高生、young adultは大学生の年代に当たる
2. Master Settlement Agreement:1998年米国でタバコによる超過医療費請求と製造物責任訴訟を取り下げる代わりに、広告販促活動の制限、25年間に2000億ドル余の資金提供などを4大タバコ会社に認めさせた合意。
(松崎道幸)

止まらないタバコの蔓延:
若者たちは引き続き紙巻タバコと無煙タバコに手を出し止められなくなっている


 米国でも世界中でも、タバコがこどもに広がっている。しかし1964年の最初米国公衆衛生局長官報告発表以来前進的解決が図られてきた。米国のハイスクール生徒の4人に1人が常習喫煙者である(Youth Risk Behavior Survey [YRBS] 2009, Chap¬ter 3)。ニコチンの強力な依存形成作用から若者が自力で抜け出すことは難しく、80%は大人になっても吸い続けている。喫煙を続けた者の半数は、タバコによって13年寿命が短くなる(Fagerström 2002; Doll et al. 2004)。
 若者に広がっているのは紙巻きタバコだけではない。白人の若者(12~17才)の5人に1人が無煙タバコを使用しており(YRBS 2009, Chapter 3)、18才から25才の若者の10人に1人が葉巻を吸っている(National Survey on Drug Use and Health [NSDUH] 2010, Chapter 3)。複数の種類のタバコ製品を使用していることも多く、白人とヒスパニック系男性の半数以上が複数のタバコ製品使用者である(YRBS 2009, see Chapter 3)。これほどの高率であることは驚くべきことである。米国だけで毎年100万人以上の新規タバコ使用者が生まれていることになる。しかし、次世代の若者がタバコ禍に襲われないようにする、試され済みの方法をわれわれは手に入れている。あとは、米国のすべての州と地域でこの対策を実行する意志があるかどうかにかかっている。
 タバコ使用が始まるのは小児期から思春期にかけてである。毎日タバコを吸う大人の88%は、18歳までに喫煙を始めたと回答している(NSDUH 2010, Chapter 3)。この年代の若者は、自分の周囲からの影響をとても受けやすい。雑誌のしゃれた広告やソーシャルネットワーキングサイトの若者向け投稿、映画の喫煙場面など社会にあふれるタバコ売込み情報が、タバコ使用が魅力的であるというメッセージを子供や若者に注入している。
 1994年に若者のタバコ使用に関してPreventing Tobacco Use Among Young People(若者のタバコ使用予防のために)と題した最初の公衆衛生局長官報告が発表された。この報告書では、18歳までタバコに手を出さなければ、その後喫煙を始めることはほとんどないだろうという結論が述べられている。また、タバコ依存になるプロセスもタバコ依存の症状も若者と大人で差がないと述べられていた。非合法ドラッグ使用に先立ってタバコ使用が始まること、タバコ使用者が他のドラッグを使用するようになる確率が高いことから、タバコ使用が他のドラッグ使用の入り口になることも指摘されていた。紙巻きタバコの宣伝と販促活動が若者の喫煙率を大きく高めることが証明されたこと、その一方、地域ぐるみの禁煙活動が若者のタバコ使用を減らすうえでとても効果があることも明らかにされた。これらの結論の重要性、妥当性、正確さは今回の報告書でも再確認されているが、1994年以降、若者のタバコ使用とその予防、若者のタバコ使用中止のための対策に関しては、非常に数多くの研究が積み上げられた。今回の報告書はこのような知見をレビューする必要が生まれたために編まれたものである。
 1994年以降、タバコ対策分野で数多くの法的、学術的前進が勝ち取られたことにより、若者の喫煙を減らすことができた。すべての州と合衆国司法省はタバコ会社を訴えて、タバコ会社の秘密内部資料を開示させることに成功した。それを分析することでタバコ規制活動を前進させてきた。同様に、1998年にタバコ産業と締結したMaster Settlement Agreementによって、交通機関内と屋外の広告を禁止させ、未成年者を直接対象とした印刷メディアにおけるタバコ広告を禁止させ、ブランド広告の禁止も実施された(National Association of Attorneys General [NAAG] 1998)。このMaster Settlement Agreementでは、若者向けの全国的禁煙キャンペーンを行う役割を持つAmerican Legacy Foundationの設立も合意された。2009年に、合衆国議会は公衆の健康増進のためにタバコ製品の規制を行う権限をFDAに付与する法律を制定した(Family Smoking Prevention and Tobacco Control Act [2009])。このように米国内では、タバコ産業は、若者にタバコを売り込む活動を幾分制限され、(Master Settlement Agree¬mentに基づいていくつかの州と締結した合意を通じて)州政府に対してタバコ使用による医療費の補填を約束させられることになった。こうした諸活動は、大人と若者の喫煙率の急速な低下をもたらす一因となった。今回の報告書では若者における状況を述べる。
 加えて、1994年の報告書以降、今回の公衆衛生局長官報告ならびにHealthy People 2000, 2010の更新データ、国立がん研究所モノグラフ、Institute of Medicine 報告書、コクランレビュー、さらに数百の査読済み論文、書籍、政策報告書において、若者のタバコ使用とタバコ規制に関して、実に多くの新たな研究成果が集積されてきた。今回の報告書は、1994年の継体報告書という形をとっているが、若者におけるタバコ規制に関する活発で重要な期間であったこの17年の間に、この二つの報告書間のギャップを埋める多くの重要なレビューが行われていることも強調しておきたい。
PDF版(11ページ、241KB)
若者と若年成人のタバコ使用を防ぐために(2012年、米国公衆衛生長官報告)


エビデンス・サマリー


 本報告書は、以下の論点に関する最新のエビデンスをまとめたものである。
1) 若者と若年成人にタバコ使用がどのような健康影響をもたらすか。
2) 喫煙と無煙タバコ使用が若者と若年成人にどれほど広がっているか。
3) タバコ使用のきっかけと恒常化を促進する要因は何か。
4) タバコ産業はどのようにして若者を取り込んでいるのか。
5) 若者のタバコ使用を防ぎ減らす効果的な対策は何か。

 タバコ使用者の99%は、26歳までにタバコ使用を開始している(NSDUH 2010, Chapter 3)。だから、若者や若年成人がタバコに手を出さないようになれば、タバコに手を出す人はほとんどいなくなる。残念なことに、若い時にタバコに手を出すほど、心臓や肺を非常に傷つける結果となる。肺ガンのように発病までに長い期間が必要な病気でも、喫煙開始年齢が若いほどリスクが大きくなる(Doll and Peto 1978; Peto 1986; USDHHS 2004)。若者でもタバコに依存性が生じ、タバコ使用を止めることに対して多くの困難が存在するため、タバコ使用を簡単に止めることは非常に難しい(Chassin et al. 2000; Mayhew et al. 2000; Riggs et al. 2007)。若者と若年成人の喫煙者は、大人になるにつれて慢性の病気を患うようになる(White et al. 2002)。痩せようと思って喫煙を始めても、痩せることができないことが明らかにされている(Klesges et al. 1998; Cachelin et al. 2003, Cooper et al. 2003; Bean et al. 2008)。
 ハイスクールの生徒の4人に1人(YRBS 2009, Chap¬ter 3)と、若年成人の3人に1人(NSDUH 2010, Chap¬ter 3)はタバコを吸っている。1998年のMaster Settlement Agreement以降タバコ使用は減り続けていたが、最近は下げ止まっている。とりわけ、白人男性の無煙タバコ使用と黒人女性の葉巻使用が増えてきた。事実、白人とヒスパニックの男子高校生の半数以上が、複数のタバコ製品を使用しており、ヒスパニック系の女性のほぼ半数が複数のタバコ製品を使用している(YRBS 2009, Chapter 3)。
 若者と若年成人はタバコ使用に引き込まれやすいライフステージにある。肉体的にも精神的にも社会的にも大きく成長する時期であるが、精神の発達が追い付かず、それらが同時に進まないことも多い(Stein¬berg 2007)。このようなライフステージでは、友人からの影響が非常に大きな意味を持つ。タバコを吸う友人が多いほど、喫煙に手を出す確率が高くなる(Landrine et al. 1994; Hu et al. 1995; Killen et al. 1997; Urberg et al. 1997; Flay et al. 1998; Robinson et al. 2006)。学校や教会など伝統的な社会的組織とのつながりの少ない若者ほど、タバコに手を出しやすい(Choi et al. 2002; Evans-Whipp et al. 2004; van den Bree et al. 2004; Metzger et al. 2011)。このことは、学業成績の低さとタバコ使用が相関するという明確な調査結果によって証明されている(Dewey 1999; Sutherland and Shep¬herd 2001; Diego et al. 2003; Scal et al. 2003; Cox et al. 2007; Forrester et al. 2007; Tucker et al. 2008)。映画の中で俳優がタバコを吸う場面を見た若者ほど喫煙をするようになる(Sargent et al. 2001, 2005; Hanewinkel and Sargent 2007; Thrasher et al. 2008)。
 タバコ産業は、この年代層がそのような傾向を持っていることに注目して、タバコの売り込みを効果的に行ってきた。タバコ産業が若者に対するタバコの売り込みをうまくやってきたことは、多くの断面調査と追跡調査で証明されており、本報告書で概説している(Armstrong et al. 1990; Aitken et al. 1991; Evans et al. 1995; Schooler et al. 1996; Gilpin et al. 1997, 2007; Pierce et al. 2010)。さらに、タバコ産業の内部文書にはっきりと書かれているように、タバコ産業は若者をタバコ使用に引き込むための働きかけを熱心に行ってきた(Perry 1999; United States v. Philip Morris, 449 F. Supp. 2d 1 [2006])。若者は大人よりも値段に左右されやすいので、出来るだけ安い価格のタバコ製品を売ることに精力を集中するようになってきた(Chaloupka et al. 2002; Slater et al. 2007)。タバコ産業の未成年喫煙防止活動によって喫煙率が下がるなどの効果は全く証明されていない(Interactive Inc. 2000, 2001; Mandel et al. 2006)。
 若者の喫煙率を減らすうえで本当に効果のあるプログラムと対策は存在する。しかしながら、こうした効果のある対策を適切に展開して持続させる実践的なアプローチ法はまだ確立されていない。そうであっても、マスメディアキャンペーン、タバコ税増税、禁煙教育プログラム、地域ぐるみの対策、全国的プログラムを統合する有機的連関のある多面的対策を行えば、若者と若年成人の喫煙開始、喫煙率及び喫煙量を効果的に減らすことが可能であるという証拠が豊富に存在する。
 本報告では、レビューから得られたエビデンスをもとにして、5分野における結論を引き出した。

本報告書の主な結論


  1. 若者と若年成人が紙巻タバコ喫煙を行うと、依存症等の有害健康影響が直ちに現れ、その後の人生において、慢性の諸疾患を発病する危険が大きく増す。
  2. タバコ使用の予防対策は特に若者と若年成人に対して重点的に行う必要がある。なぜなら、成人の常習喫煙者の88%が18才までに、99%が26才までに喫煙を開始しているからである。
  3. タバコ会社の宣伝と販売促進活動は若者と若年成人の喫煙開始および継続のきっかけになる。
  4. 若者と若年成人のタバコ使用は、着実に減ってきたが、最近喫煙率の低下速度が鈍り、無煙タバコ使用率は横ばいとなっている。
  5. 若者と若年成人の喫煙開始率、常習喫煙率、喫煙量を減らすうためには、マスメディアキャンペーン、タバコ税増税によるタバコ小売価格の値上げ、学校での禁煙教育、地域あるいは全国的な受動喫煙防止法令の制定およびタバコに対する社会通念の変革等を統合した多角的対策が有効である。

章ごとのサマリーと結論


第2章:タバコ使用が若年者にもたらす健康影響

 1994年の公衆衛生局長官報告では、喫煙が若年者に急性および慢性の健康影響をもたらすことを明確に指摘したが、今回の報告書では、その結論をさらに補強する証拠が呈示されている。若年者の喫煙が強力な因果関係を以てニコチン依存症、呼吸機能低下、肺の発育不全、腹部大動脈瘤の早期発症の原因となることが明らかになった。こうした関連は、1964年の公衆衛生局長官報告で初めて引用された因果関係の診断基準すなわち、一貫性、強固性、特異性、時間的関連、生物学的妥当性に該当している。これらの障害は、若者と若年成人に深刻な社会的、身体的、精神的問題を引き起こすだけでなく、将来の慢性疾患の発病の下地となる。喫煙はわれわれの国における最大の予防可能な疾病原因であり、若年喫煙者に既に大人の喫煙者の患っている病気の初期病変が発生している(Doll and Peto 1978; Peto 1986; USDHHS 2004)。たとえば、30才未満の喫煙者でも、腹部大動脈瘤の初期病変が見出される(McGill et al. 2000; McMahan et al. 2005, 2006)。本章では、喫煙が体重および体重のコントロールにもたらす影響についても包括的レビューを行った。若年者が喫煙で体重を減らす事が出来ると考えていること、しかし喫煙者の体重が軽いとか、喫煙を始めると体重が減ったと言うエビデンスは存在しないことが多くの証拠によって証明されている(Cachelin et al. 2003; Cooper et al. 2003; Klesges et al. 1998; Bean et al. 2008)。

結論
  1. 喫煙とニコチン依存の間に因果関係があること、そしてそれが若者から若年成人の時期に生ずることに十分な証拠がある。
  2. 喫煙が将来マリファナなどの違法ドラッグ使用を促進する可能性はあるが証拠は十分とは言えない。
  3. 若者と若年成人の喫煙が、若年者の期待に反して有意な体重減少をまったくもたらさない可能性があるが、証拠は十分とは言えない。
  4. 小児期から思春期の能動喫煙が呼吸機能低下と肺の発達成長抑制をもたらす事には十分な証拠がある。
  5. 小児期から思春期のこどもの中には、能動喫煙によって気管支喘息であるとの診断可能な喘鳴が引き起こされる疾病感受性の高い集団があるという十分な証拠がある。
  6. 喫煙する若者と若年成人では、腹部大動脈の動脈硬化が早期発症すると言う十分な証拠がある。
  7. 思春期と若年成人期の喫煙が将来冠状動脈硬化をもたらす可能性があるが、証拠は十分とは言えない。

第3章:米国および世界中の国々の若者のタバコ使用率

 若者と若年成人の喫煙状態の全国データを分析したものが本報告書に掲載されている。紙巻タバコ喫煙は思春期から始まり、26才以降に喫煙を始める成人は極めてまれ(1%)である (NSDUH 2010, Chapter 3)。1994年の公衆衛生局長官報告発表後から、特に1998年以降、思春期と若年成人の喫煙率は大きく低下した。しかしここ数年とりわけ2007年以後横ばい状態が続いている。また白人男性で無煙タバコ使用率が増加しているなど、タバコ使用率の増加が見られる階層もある。アメリカ先住民、アラスカ先住民、そして白人とヒスパニック系の若者が、他のエスニックグループの若者よりも喫煙率が高い傾向が続いている。新しいタバコ製品が発売されたり無煙タバコの販促が進んだために、複数のタバコ製品を使用する人々も多くなった。タバコ使用者の中で見ると、白人とヒスパニック系の男子高校生の半数超とヒスパニック系女子高校生の半数弱が複数のタバコ製品を使用している。

結論
  1. 毎日喫煙者の成人の88%が18才までに、99%が26才までに喫煙を始めている。
  2. ハイスクールの最上級生の4人に一人が現在喫煙者(過去30日以内の喫煙あり)である。この数字は、若年成人で3人に一人、それ以上の成人で5人に一人である。ハイスクール最上級生の10人に一人は無煙タバコ使用者であり、5人に一人は葉巻喫煙者である。
  3. 思春期から若年成人の喫煙率は1990年代、とりわけ1998年のMaster Settlement Agreement以降低下してきた。しかし近年この低下率が鈍っている。
  4. 国内の若者階層間のタバコ使用率には大きな差がある。喫煙はアメリカ先住民とアラスカ先住民で最も高率で、白人とヒスパニック系がそれに続く、アジア系と黒人ではより低い。社会経済状態の低い階層の喫煙率は高い。
  5. 無煙タバコと葉巻使用率は1990年代後半に低下したが、最近5年間は横ばいである。最近の調査では、白人高校生の無煙タバコ使用と黒人高校生の葉巻使用率が増加している。
  6. 複数のタバコ製品使用が若者に広がっている。男子高校生のタバコ使用者の3分の1が最近30日以内に複数のタバコ製品を使用したと答えている。
  7. 発展途上国では男子に比べて女子のタバコ使用は少ない。しかし世界全体をみると、多くの国で若者層のタバコ使用率の性差は少なくなりつつある。

第4章:若者のタバコ使用に対する社会的、環境的、認知的、遺伝的要因の影響

 思春期のこどもと若年成人はタバコ使用を勧める力に影響されやすい(Steinberg 2007)。大人に成長する途上で、こどもたちは、社会的つながりや友人のグループに影響されて行動を決めたり変えたりしやすくなる。この章では、友人のつながりが行動に大きな影響を与えること、そして付き合う友人たちがタバコを使用していたり、タバコ使用が普通のことだという考えを持っているかどうかが、その若者の行動に大きな影響を与えることを論ずる。友人がタバコを使用していたり、反社会的だったりするほど、その若者はタバコに手を出しやすくなる(Landrine et al. 1994; Hu et al. 1995; Headen et al. 1991; Killen et al. 1997; Urberg et al. 1997; Flay et al. 1998; Robinson et al. 2006)。学業成績の良い若者ほどタバコに手を出さない(Dewey 1999; Sutherland and Shepherd 2001; Diego et al. 2003; Scal et al. 2003; Cox et al. 2007; Forrester et al. 2007; Tucker et al. 2008)。若者は友人グループに特に影響されやすい。したがって、こうしたグループに向けて外部からメッセージを与えると、大きな影響を与えることができる。

結論
  1. 思春期から若年成人という成長段階では、一般社会や自分の周囲がタバコ使用にどのような態度をとっているかが、若者の行動に影響する。
  2. 若者の喫煙行動は社会経済階層や学業成績と関連する。学業成績の振るわない若者ほどタバコに手を出して常習的タバコ使用者になりやすい。
  3. 思春期では、友人グループからの社会的影響によってタバコ使用開始および常習化が促進されると、十分なエビデンスを以て言うことができる。
  4. 若者の喫煙行動には感情のプロセスが重要な役割を果たす。否定的感情があるほど若者は喫煙しやすくなるという強力な連関があることが明らかになっている。
  5. タバコ使用に遺伝が絡んでいるという見解がある。その場合タバコ使用の開始よりも継続に関連が強いようである。しかし若者がタバコに手を出しやすい遺伝的素因を持っていたとしても、小集団あるいはより大きな社会的環境的要因からの影響によって、タバコ使用が抑制されるようである。

第5章:若者のタバコ使用に対するタバコ産業の影響

 タバコ会社は、2008年に約100億ドルをつぎ込んで、タバコの宣伝と販売促進活動を行ってきた(Federal Trade Commission [FTC] 2011a,b)。Master Settlement Agreementによって若者へのタバコの売り込みが制限されたにもかかわらず、それに見合った販売促進経費の減少は起きなかった。逆に1998年以降増額されている(FTC 2011a,b)。タバコ産業の販促活動費の多くは、紙巻きタバコの値下げなど、値段によってタバコ使用が大きく増減しやすい若者に対して効果的な戦術に投入されている(FTC 2011a,b)。1994年の公衆衛生局長官報告以後、タバコ産業の販促活動が若者のタバコ使用の開始と継続を促進したことを示す多くの証拠が明らかにされてきた。それらには、タバコの宣伝への曝露度とタバコ使用率に関する断面調査、タバコ使用リスクの高くない集団のタバコ開始率を長期間追跡した調査、特定のブランドを用いたタバコ産業の販促活動の検証、内部文書を分析してタバコ産業の売り込み戦略を解明することなどによって集積されたデータなどが含まれる(Armstrong et al. 1990; Aitken et al. 1991; Evans et al. 1995; Schooler et al. 1996; Gilpin et al. 1997; Perry 1999; Chaloupka et al. 2002; United States v. Philip Morris, 449 F. Supp. 2d 1 [2006]; Gilpin et al. 2007; Slater et al. 2007; Pierce et al. 2010)。これらの証拠の総体は、若者に対する意図的なタバコ売込み戦略が若者のタバコ使用を促進した要因であることを矛盾なく論証している。タバコ産業自身が未成年者喫煙防止活動を行っているが、こうした活動が若者や若年成人に対してタバコ産業についてのポジティブな印象をもたらしているにもかかわらず、若者のタバコ使用低下という結果をもたらしていないという現実がある(Interactive Inc. 2000, 2001; Man¬del et al. 2006)。最近、プレインパッケージ、画像による健康警告表示、製品デザインの変更、映画での喫煙場面制限など、タバコ会社に対する新たな規制策が実施可能となったり準備されていることは重要である。

結論
  1. 2008年にタバコ会社は紙巻きタバコの売り込みに99億4千万ドル、無煙タバコの売り込みに5億4千7百万ドルを支出した。紙巻きタバコの売り込み費用はMaster Settlement Agreementの結ばれた1998年当時よりも48%増加した。無煙タバコの売り込み費用は1998年よりも277%増加した。
  2. タバコ産業は、特に売り込みたいタバコ製品の値段を下げるという販売戦略に多くの資金をつぎ込んでいる。2008年の時点で、紙巻きタバコ販促費の84%、無煙タバコの販促費の77%がその戦略につぎ込まれている。
  3. タバコ産業の宣伝と販促活動によって若者のタバコ使用開始および継続が促進されたという点に関して十分な証拠がある。
  4. タバコ産業が思春期と若年成人にアピールするようにパッケージデザインを変更したと考えられるが、十分な確定的な証拠があるとは言えない。
  5. タバコ会社の若者喫煙防止活動とプログラムが若者と若年成人の喫煙開始と継続を抑制したという証拠は見当たらない。
  6. 映画の喫煙場面が若者の喫煙開始を促進するという確実な証拠が存在する。

第6章:若者のタバコ使用を予防し減らすための対策

 若者の喫煙開始、継続、喫煙量を減らす、試され済みの諸対策が存在することについては、多くの、確固たる一貫性のある証拠が存在する。若者の喫煙予防を最初に論じた1994年公衆衛生局長官報告以降、タバコ規制のための環境対策と行政対策の重要性が強調されてきた。それらには、タバコの値上げ、法令や行政施策による受動喫煙防止対策をはじめとして、タバコの煙のないことが当たり前という社会通念の形成を促進する協調的活動などが含まれる(USDHHS 2000; Task Force on Community Preventive Services [TFCPS] 2005; NIH [National Institutes of Health] State-of-the-Science Panel 2006; Bonnie et al. 2007; Centers for Disease Con¬trol and Prevention [CDC] 2007; National Cancer Insti¬tute [NCI] 2008)。マスメディアキャンペーンは、タバコに対する社会通念を変革し若者の喫煙を防止するうえで最も有効な戦術の一つであることが証明されている。キャンペーンを効果的に行うためには、最適なテーマの選択、適度な感情のトーン、魅力的な呈示法、明確なメッセージ、強さ、適切な繰り返しなどを心がけるべきである(Pechmann 2001; Siegel 2002; Farrelly et al. 2003; Wakefield et al. 2003a,b; Schar et al. 2006; Richardson et al. 2007; Angus et al. 2008; NCI 2008)。大人向けの(反タバコ)広告が若者の喫煙率をも減らすという効果があることも証明されている。
 マスメディアキャンペーンのほかに、タバコ使用低減に効果のある様々な法的行政的対策が存在する(USDHHS 2000; TFCPS 2005; NIH 2006; CDC 2007a,b)。国、州、自治体レベルのタバコ税増税によって、若者の喫煙開始、継続、喫煙量低下という効果が生まれ、市民の健康増進をはかることが期待できる。タバコ税増税は、とりわけ若者と若年成人、低収入層の喫煙率と喫煙量の抑制に効果があることが証明されている(Chaloupka and Warner 2000; USDHHS 2000b; Zaza et al. 2005)。屋内禁煙法令(受動喫煙防止法)が強力なほど、若者の喫煙率が下がり、禁煙実行率が上がることが証明されている(Tauras 2004; IARC 2009)。FDAは、若者がタバコ製品を購入し難くなるような法的対策を進める一方、タバコ産業が以前から行っていた若者に特にアピールする様々な販促手段を禁止するなどの対策も進めている。部分的でなく包括的なタバコ宣伝の禁止こそが若者の喫煙を減らすうえで効果的であることは、本章で引用した広範囲の研究から得られたエビデンスによって証明されている(Saffer and Chaloupka 2000; Lancaster and Lancaster 2003; Iwasaki et al. 2006; NCI 2008)。
 様々な協調的補完的対策を含む全国レベルの包括的タバコ規制プログラムが若者の喫煙を減らすだけでなく、全年齢層の喫煙率を減らし、タバコ関連超過医療費の削減をももたらすことが長年の調査によって証明されている(USDHHS 2000; Sly et al. 2001; Rigotti et al. 2002; Soldz et al. 2002; Niederdeppe et al. 2004; Pierce et al. 2005; Bonnie et al. 2007; Lightwood et al. 2008; NCI 2008; Lightwood and Glantz 2011)。学校の場での禁煙教育プログラムの効果については、双方向的伝達法に基づいた社会影響モデルとタバコ使用の勧めを断るスキルの訓練を併用したものでは短期的効果があり、長期的効果のある防煙プログラムも見出されている。若者のタバコ使用を予防を目的とした他の手法でも言えることだが、学校の場での防煙プログラムをマスメディアキャンペーン、禁煙家庭プログラム、地域ぐるみプログラムと同時進行させたなら、より大きな効果をあげることができる。さらに、マスメディアキャンペーン、タバコ税増税によるタバコ小売価格値上げ、若者へのタバコ販売と販促の制限と禁止および職場とパブリックプレイス(訳注:いわゆる公共施設と飲食サービス産業)の完全禁煙化等の法的行政的対策、州・地域・学校単位のタバコ規制プログラムを組み込んだ持続的対策を実施することにより、若者の防煙、喫煙率低下、喫煙量低減を効果的に実現することができる。

結論
  1. マスメディアキャンペーン、包括的地域プログラム、包括的全州プログラムにより若者のタバコ使用の防止、使用率の低減が得られる事が証明されている。
  2. 紙巻タバコ小売価格の値上げにより若者のタバコ使用の防止、使用率の低減が得られる事が証明されている。
  3. 特定の手法を含んだ学校におけるプログラムが、少なくとも短期的に若者のタバコ使用の防止、使用率の低減をもたらす事が証明されている。

第7章:タバコの蔓延の終息への展望

 19世紀以降、公衆保健のプログラムと政策は若者のタバコ使用を減らすうえで効果を上げてきた。1964年のタバコに関する最初の公衆衛生局長官報告では、喫煙の有害影響に関する証拠を余すところなく解明した。その15年後、1979年の公衆衛生局長官報告では、若者の喫煙率が減っていないことが報告された。喫煙が米国の死亡原因のトップであることが解明されて30年後、つまり最初の公衆衛生局長官報告から1994年までの時点で、若者の喫煙率は増加していた。1994年に出された画期的な報告書以来、膨大な調査研究、タバコ産業に対する州および連邦政府の訴訟、Master Settlement Agreement、FDAへのタバコ規制権限の付与が行われた結果、タバコ規制政策の環境が大きく変わり、タバコの宣伝と販促活動がある程度規制されるようになった。若者と若年成人のタバコ使用率は1990年代の終わりから00年代の中期にかけて下がり始めた。このようにタバコ使用の低減が図られてきたが、今なお多くの課題が山積している。ハイスクール最上級生徒の4分の1近くは喫煙者であり、喫煙率の下げ止まりが起きている。また、2007年以降、タバコ使用率の増加している集団も見られる。タバコの蔓延を防ぐには、今世紀の初めに勝ち取られた規制対策の進展を再活性化させ、新たな戦略も考える必要がある。包括的な地域、州、学校プログラムおよびマスメディアキャンペーンを成功させるための十分な資金援助を行うことが最優先課題である。タバコ製品への課税を強化することが若者のタバコ使用を減らす極めて効果のある政策である。このタバコの蔓延がもたらす甚大な健康被害から現在と未来の若者を守るためには、映画の喫煙場面規制とともに、タバコの宣伝と販促活動をさらに厳しく規制することが必要である。


以上