2010年12月14日掲載

米国公衆衛生局長官報告(2010年12月)
「タバコ煙が病気を起こすメカニズム」

-喫煙関連疾患の生物学的行動学的根拠-
ファクトシート

http://www.surgeongeneral.gov/library/tobaccosmoke/factsheet.html

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(NPO法人 日本禁煙学会理事 松崎道幸・訳)

 本書は、1964年以降30冊目のタバコ問題を扱った公衆衛生長官報告である。タバコ煙が実際にどのようなプロセスで人体に与えるかを詳述している。科学的な証拠により以下のいくつかの結論が得られた。

タバコ煙への曝露にそれ以下なら害がないという安全なレベルはない。たまにタバコを吸うだけであろうと、受動喫煙であろうと、いかなるタバコ煙への曝露も有害である。

大量のタバコを長年吸わなくとも、喫煙関連疾患を発病し、タバコ煙曝露によって心臓発作や喘息発作が起きる危険がある。
受動喫煙のようなタバコ煙を少ししか吸い込まない状況でも、動脈の壁が急激に固く細くなり、炎症が起きて、心臓発作や脳卒中が起きやすくなる。
紙巻きタバコ煙には7千種類以上の化学物質や化合物が含まれている。明らかな有害物質は数百種類、発ガン物質は70種類以上含まれている。タバコ煙それ自体がヒトに対する発ガン物質であると(国際ガン研究機関に:訳注)認定されている。
タバコ煙に含まれる化学物質は、卵管が正常に働くことを妨害するため、子宮外妊娠、流産、低体重出生などの妊娠関連障害を増やす。タバコ煙に含まれる化学物質は精子のDNAを傷つけるため、男性不妊を増やし、胎児の発育に悪い影響を与える。

タバコ煙にさらされるとすぐに影響が出る

タバコ煙に含まれる化学物質は呼吸のたびに肺の中に入り込む。有毒物質は血液に入り込んで体中に運ばれる。
タバコ煙に含まれる有毒物質や化学物質はDNAを傷つけ、ガンを起こしやすくする。毎年ガンによる死亡の3分の1近くが喫煙で引き起こされている。米国では肺ガンの約85%は喫煙が原因である。
タバコ煙を吸い込むとすぐに全身の血管がダメージを受け、血液が固まりやすくなる。このダメージによって心臓発作や脳卒中そして突然死も起きやすくなる。
タバコ煙に含まれる化学物質は繊細な構造を持つ肺や気管支に不可逆的な損傷を与えて換気機能を損ない、肺気腫や慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発病させる。

タバコを吸う期間が長くなるほど害が大きくなる

喫煙関連疾患にかかる危険と重症度は、喫煙年数と1日当たり喫煙本数が増えるほど大きく重くなる。
タバコ煙に含まれる化学物質によって炎症と細胞のダメージがもたらされ、免疫システムが弱まる。細胞が壊れたり感染やガンが発生すると、それに対応して白血球が増える。喫煙者では常に白血球が増えているが、これは体のほとんどあらゆる臓器で、病気の原因となる喫煙によるダメージを減らすために、体が戦っていることを示す。
タバコを吸うとガンになりやすく、ガンと闘う力も弱まる。タバコと関係のないガンを化学療法で治療する場合でも、タバコを吸っていると抗ガン剤の効果が弱まる。タバコ煙にはガン細胞の増殖を促進する働きがある。
タバコ煙に含まれる化学物質には、血糖の調節を乱す働きがあるため、糖尿病の合併症が増える。タバコを吸う糖尿病患者では、心臓病、腎不全、下肢切断、視力を奪う網膜症や白内障、神経障害、循環障害をきたす危険が高まっている。

紙巻きタバコは、止められなくなるように作られている

タバコ製品は以前よりも心を惹きつけるデザインと高い依存性をもたらす成分組成となっている。昔と比べて現在の紙巻きタバコは、ニコチンがより速く肺から心臓や脳に到達するように作られている。
ニコチンは紙巻きタバコの強力な依存性を作りだし持続させるカギとなる化合物であるが、それ以外の添加物と製品デザインもまたさらに人を惹き付け依存させる働きを持っている。
タバコ製品が備えているこれらの強力な依存形成要素は、脳細胞の多種類のニコチン受容体に作用する。
ニコチン依存症では、心理的、生物学的、遺伝的な因子も一定の役割を果たしている。
こどもや若者は、ニコチンに影響を受けやすく、大人よりも簡単にニコチン依存症となりやすい。(米国で:訳注)毎日1000人のティーンエージャーが常習喫煙者になっているのはこのためである。

安全な紙巻きタバコは存在しない

過去50年の間に、フィルター付きタバコ、低タールタバコ、「軽い」タバコなど様々なデザインの紙巻きタバコが発売されてきたが、それらが喫煙による疾患のリスクを減らした事実は全くなかった!かえって、未成年者の喫煙開始を防いだり、禁煙を実行する取り組みを妨害する役割を果たしてきたと思われる。
タバコ使用を止める代わりに、新しいデザインのタバコ製品に乗り換えてタバコ使用を続けるとか、タバコ使用そのものを完全に止めることを先延ばしにすることによって、一般市民の健康が損なわれている恐れがある。

喫煙関連疾患による障害と死亡を防ぐ唯一の確実な方策は、決して喫煙しないこと、喫煙しているなら一刻も早く禁煙することである

何歳で禁煙してもそれに応じて健康は改善するが、早ければ早いほど効果が大きい。
禁煙するとタバコで痛められた体が回復するチャンスが与えられる。
禁煙すると、心臓発作の危険性は1年以内に急速に低下し、脳卒中の危険性は、2~5年後に非喫煙者のレベルまで低下する。口腔ガン、喉頭ガン、食道ガン、膀胱ガンのリスクは、5年で半減する。肺ガンで死ぬリスクは10年で半減する。
禁煙が成功するまで何回もの禁煙チャレンジが必要であることが多い。ニコチン代替製剤あるいは非ニコチン製剤による禁煙治療によって、よりたやすく禁煙に成功する可能性がある。
あなたの主治医または「1-800-QUIT-NOW」に今すぐコンタクトを取って、禁煙を始めよう。