禁煙会誌 第2巻第7号 2007年10月15日


目次



《学術総会報告》 第2回日本禁煙学会学術総会を終了して
金子昌弘
《原著論文》 加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた小学校高学年および中学生における喫煙防止教育の評価
―千葉県健康福祉部企画「喫煙防止出前健康教室」における調査―
星野啓一
《原著論文》 47都道府県喫煙対策の実際
加藤一晴
《原著論文》 Acute effects of cigarette smoking on blood pressure and arterial stiffness in habitual smokers.
Akira Endo,MD,PhD
《資 料》 WALK AGAINST TOBACCO 2006 WEEK 6 REVISITED
Mark Gibbens
《歴 史》 タバコのHistorical Accidentに関わったキリスト者医師「堀 俊造」について
山代寛
《記 録》 日本禁煙学会の対外活動記録(2007年8・9月)
日本禁煙学会雑誌第2巻第7号 2007年10月

《学術総会報告》

第2回日本禁煙学会学術総会を終了して
国立がんセンター中央病院 内視鏡部 金子昌弘

 記録的な猛暑の続く8月の最後の土曜、日曜に、東京で本学会の第2回学術総会を開催させて頂きました。学会の抄録でも述べましたが、初めての単独開催で、演題数や参加人数について皆目見当もつかない状況の中でのスタートでしたので、できるだけリスクを回避し多くの方々が参加しやすいように、休日に病院の会議室を使い、プログラムや抄録も全てホームページ上での公開のみとし、学会の運営に関しても専門業者を頼まず、参加費もできるだけ抑えて、全て手作りで行いました。
 このような企画が功を奏したのか、予想を遙かに上回る演題の応募があり、特別講演、パネルディスカッション、シンポジウムに関してもお願いした全ての方々が快く応じて下さり、また当日の参加者も350名を超え、色々細かいトラブルはありましたが、まずは少なくとも会場費(2000円)に見合う以上の収穫は得てお帰りになることができたのでは無いかと自負しております。
 以前にも書きましたが、本学会の特徴は一人一人の患者さんへの対応から、禁煙空間の拡大、防煙・禁煙教育の問題、更には国際的な視野に立ってのタバコ規制の問題と非常に奥が深く、扱う疾患も歯科を含めた全身あらゆる臓器の疾患で全年齢にわたり、参加者もあらゆる科や立場の医師、歯科医師から看護師、保健師、薬剤師、栄養士、検査技師、工学研究者、事務職員、弁護士、市民運動活動家、ジャーナリストと極めて幅広く、縦糸、横糸に上下の糸も加わった、3次元的な広がりを持った、単なる医学の学会の枠を超えた団体あるいは組織であることと思われます。
 このような極めて幅広い分野から、いくつかの部門を切り出して特別講演やシンポジウム、パネルディスカッションなどを組むのは非常に難しい作業でしたが、特別講演関係は作田理事長が「たばこ枠組み条約第2回締約国会議 FCTC COP2に出席して」と題して、各国の取り組みと日本政府のタバコ規制に関する姿勢の問題点を鋭く指摘し、それを受ける形で、国立保健医療科学院研究情報センターたばこ政策情報室の吉見逸郎氏が日本での取り組みを報告、更にNIHのD. Lawrence 氏が米国と日本の対策や効果の違い等を解説され、最後に厚労省副大臣の武見敬三氏が国会での取り組みの実績や、実際に一つの法案を作成しそれを成立させるための具体的な手順なども話して下さいました。
 パネルディスカッションでは「全国に広がる禁煙の輪」としてタクシーの禁煙対策を中心に全国の鉄道や全世界の空港での禁煙対策の現状が報告されました。特にタクシー関係では急速な禁煙タクシーの普及の実績や特にトラブルが起きていないこと、また実際にタクシー訴訟を闘っている運転手さんの生々しい声も紹介されました。鉄道に関しては全国のJRの姿勢の違いが浮き彫りにされ、空港に関しても施設内だけでなく周囲への対策の遅れが指摘されました。
 シンポジウムは今回の学会のテーマ「禁煙と検診の有機的結合」と題して行われましたが、その前のポスターディスカッションや一般演題での質疑応答が延びた関係で肝心の討論を充分に行えず残念でした。このテーマの目的は禁煙指導と肺癌検診を別々に行うのではなく、禁煙指導を希望して受診される方の中から肺癌を早期に発見し、逆に検診受診者の中から喫煙者を抽出し禁煙指導を行い、両者を結合させることでそれぞれの効果をより発揮させたいという点にありました。特に後者に関して熱心に取り組んでいる施設の報告を頂きましたが、全国的にはまだまだ極少数派ですので、今後このグループの育成が重要と思われました。
 2日目の早朝には「精神疾患を有する患者への禁煙治療」と題して川合厚子先生に実際の指導の様子を再現しながらの講演が行われました。精神科病棟は全館禁煙の施設でも例外的な扱いを受けている施設も見られますが、これらの疾患の患者さんにも根気よく指導していけば十分に禁煙させることができるし、また最も禁煙指導が必要なグループの人たちであることが示されました。差別するのではなくニコニコと笑顔で接することを、身をもって示され、早朝から集まられた聴衆に多大なインパクトを与えて下さいました。
 一般演題、要望演題に関しては口演、ポスター併せて50題近い演題が寄せられました。予想を遙かに超える量でしたので、どちらでも可という方のほとんどにはポスターの方に回って頂き、当初の全ての発表を1会場でという理想に反して、ポスターに関しては2会場で行わざるを得なくなり、大変にご迷惑をおかけしました。多岐にわたる分野でしたので類似のテーマの演題が集まるか不安でしたが、幸いに多くのテーマで複数の演題をご提出頂き熱心な討論が繰り広げられました。
 多くの部門で、新たな問題点や検討すべき問題が指摘されましたので、来年の広島での学会では更に磨きのかかった発表が行われるのではないかと期待しております。これらのご発表に関しては、演題の募集時に原則として発表後に本学会の機関誌に投稿して頂くようお願いしてありますので、今回の討論内容も含めて執筆をお願い致します。
 会の閉会にあたっては、多くの理事の方々のご指導でまとめました「大会宣言」を発表することができました。この1年間、この宣言の方針に従い活動を続けていきたいと思っております。
 最後になりましたが、本会は全くの手作りで、同僚医師、秘書さん方、関連学会や団体の職員の皆様そして本学会評議員の大谷さんには多大なるご苦労をおかけし、作田理事長、渡辺文学氏には連日のように色々連絡しご指導を仰ぎ、また特別講演のお願いなどでもご努力を頂き、多くの理事・評議員の方々にも快く座長としてもご参加ご頂きました。
 この場をお借りして改めて心から御礼と感謝を申し上げます。
 来年の夏、広島でまたお目に掛かれることを楽しみにしております。


NPO法人日本禁煙学会主催
第2回日本禁煙学会学術総会
大会宣言


 喫煙は呼吸器、循環器、消化器、歯科口腔のみならず皮膚、泌尿生殖器などあらゆる臓器の疾患の原因であり、しかも一度喫煙習慣を持つと容易に禁煙できない。
 喫煙それ自体がニコチン依存症という病気である。

 がんを中心とした喫煙に起因する致命的な疾患の多くは禁煙しても改善することはない。したがってすべての喫煙者に対し、検診等の機会を通じて、罹患前に禁煙を呼びかけることが喫煙関連疾患の予防のために肝要である。

 一方、公共施設を中心とした禁煙区域の拡大は、非喫煙者の受動喫煙防止のためのみならず、喫煙者の喫煙量減少に役立ち、喫煙の害を認識させ、禁煙への強力な動機付けの一つにもなる。地球上のすべての場所が完全禁煙となるように努めなければならない。

 更に、無煙世代を育てる教育では、一人の喫煙は上下の世代にも影響を及ぼすことを認識させ、こどもたちが他の世代にも積極的に禁煙を働きかける意識を持たせることが必要である。

 NPO法人日本禁煙学会では、タバコの無い世界実現のために、学会として政府や報道機関に、タバコ規制枠組条約の実現化,とりわけ受動喫煙防止ガイドラインの早急な履行を目標として、継続的に働きかけると共に、会員の一人一人が、喫煙者に対し禁煙を呼びかけ、それぞれの職場や居住地で完全禁煙区域の拡大を図り、高い意識の無煙世代を育てる活動を積極的に行なうことを宣言する。

平成19年8月26日

東京都中央区築地5-1-1
国立がんセンター 管理棟 1階 特別会議室 に於いて

NPO法人 日本禁煙学会
理事長 作田 学
第2回 日本禁煙学会学術総会 
会長  金子 昌弘




《原著論文》

加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた小学校高学年および中学生における喫煙防止教育の評価
―千葉県健康福祉部企画「喫煙防止出前健康教室」における調査―
星野啓一1,2,5)、吉井千春3,5)、中久木一乗1)、大国義弘1)、田那村雅子1)、紅谷歩1)、丸山恵梨子1)、加濃正人4,5)、大谷美津子1)
1.タバコ問題を考える会・千葉
2.東葛病院 呼吸器科
3.産業医科大学 呼吸器内科
4.新中川病院 内科
5.加濃式社会的ニコチン依存度ワーキンググループ

キーワード:喫煙防止教育、小児、加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)、心理的ニコチン依存


はじめに
 2007年の厚生労働省調査によると、20歳代から30歳代の平均喫煙率は35%を超え、特に30歳代の男性喫煙率は54.4%を示している1)。また、中学校3年生男子の2.2%,女子の1.2%が毎日喫煙を続け、高校3年生では各々、13%、4.3%と特に男子において上昇が顕著である2)。一方、小学5年生の13%が喫煙経験ありとの報告もあるが3)、小学生に対しては大規模な喫煙実態調査が未だ行われていないのが実情である。タバコ会社にとって、これら小中学生は有力な将来の購買層であり、さまざまな方法で購入の動機付けが図られている4)。これに対して、小中学生に対しての喫煙防止に向けた介入はまだ十分ではない。
 2006年9月から2007年3月の期間に千葉県健康福祉部の委託により、タバコ問題を考える会・千葉が千葉県内の教育施設(主に小中校、42校・46教室)で児童・生徒・教職員・保護者を対象とした喫煙防止出前健康教室(以下出前教室)を実施した。今回われわれは、この出前教室で加濃式社会的ニコチン依存度調査票(The Kano Test for Social Nicotine Dependence,以下KTSND)を用いた調査を行った。KTSNDは加濃、吉井らによって開発された、喫煙者・非喫煙者の社会的ニコチン依存を評価するための簡易質問票で、喫煙の効果の過大評価(正当化・害の否定)と嗜好・文化性の主張(美化・合理化)を定量化する質問群からなる5)。成人での有用性6,7)、小学生での有用性8,9)が言われている。

目的
 KTSNDを用い、各学年かつ男女別で以下の検討を行った。1)出前教室前後で心理的ニコチン依存がどのように変化するか、2)性別で差があるか否か、3)家庭内喫煙の有無により、出前教室前値で差があるか否か、4)家庭内喫煙ありで教室前後に差があるか否か、5)家庭内喫煙なしで教室前後に差があるか否か。

対象と方法
対象:出前教室を実施した42校のうち、学校の承諾を得られた学校(千葉県流山市、柏市、野田市内の小学校3校、中学校4校)合計796名の児童・生徒に質問表を配布した。このうち、性別、質問表の前後いずれか1問でも解答が無いものは無効として除外した。
教室の実際:一部動画を交えたパワーポイントによる40分(主に小学校)から90分(主に中学校)の講義形式で行われ、終了時には簡単な質疑応答を行った。
方法:加濃式社会的ニコチン依存度ワ-キンググループが作成したKTSND 標準版(表1)を用いて、学年、性別、身近喫煙の有無ならびに問1から問10までの質問で調査した。配点は問1のみ左から0,1,2,3点、問2から問10までが左から3,2,1,0点、合計30点満点とし、社会的ニコチン依存度が高いほど点数が高くなるように設定してある。
 出前教室前に調査票の表面に性別、家庭内喫煙者の有無を記載させ、問1から10までの質問に対して自分が最も近いと思う番号を〇で囲むように指示した。 出前教室直後にも同じ質問について同様に指示した。
 統計:出前教室前後の各群の検定はt検定とし、有意水準5%未満を有意とした。値は平均±標準偏差で記した。

結果
 回答は770名から得られた。(有効回答96.7%)内訳は小学5年164人(全体の21.3%:以下同)(男88人:女76人:以下同)、小学6年99人(12.9%)(51人:48人)、中学1年176人(22.9%)(94人:82人)、中学2年257人(33.4%)(136人:121人)、中学3年74人(9.6%)(31人:43人)であった。
 家庭内喫煙の有無では、「いない」が270人(35.1%)内訳は、小学5年54人、小学6年40人、中学1年62人、中学2年91人、中学3年23人であった。「いる」が500人(64.9%)、内訳は、小学5年110人、小学6年59人、中学1年114人、中学2年166人、中学3年51人であった。
1)出前教室前後でのKTSNDの変化
 小学5年で出前教室前7.77±5.44→後4.29±4.51となり有意差を認めた。小学6年で同様に7.19±4.52→3.65±3.73、中学1年で8.10±4.74→4.80±4.54、中学2年で6.23±4.93→4.17±4.58、中学3年で6.49±4.83→3.01±3.98と全ての学年において、出前教室前後で有意差(p<0.01)を認めた。(図1
2)性別で差があるか否か
 小学5年男で前8.02±5.71→後4.15±4.55となった。女で7.47±5.13→4.45±4.49、小学6年男で7.92±4.68→4.16±3.60、女で6.42±4.25→3.13±3.83、中学1年男で8.01±5.10→4.69±4.47、女で8.21±4.33→4.93±4.64、中学2年男で6.37±5.13→4.44±4.80、女で6.07±4.70→3.87±4.33、中学3年男で6.19±5.06→2.94±4.22、女で6.70±4.72→3.07±3.86であった。全ての学年かつ男女において出前教室前後で有意差(p<0.01)を認めた。(表2
3)家庭内喫煙の有無により、出前教室前値で差があるか否か
 小学5年男で家庭内喫煙あり9.38±6.00、家庭内喫煙なし5.11±3.68と有意差を認めた(p<0.01)ほかに、小学6年男で、あり9.24±4.81、なし5.29±3.12(p<0.01)、中学3年女で、あり7.63±4.74、なし4.54±4.05(p<0.05)と有意差を認めたが、小学校5,6年女子、中学1,2年男女、中学3年男子では出前教室前KTSNDに有意差を認めなかった。(表3
4)家庭内喫煙ありで教室前後に差があるか否か
 小学5年男で前9.38±6.00→後5.00±5.10となった。女で同様に8.14±5.44→4.60±4.46、小学6年男で9.24±4.81→4.82±4.04、女で6.36±4.11→3.64±4.44、中学1年男で8.18±5.65→4.76±4.76、女で8.25±4.35→5.27±4.76、中学2年男で6.92±5.25→4.51±4.68、女で6.51±5.05→4.37±4.70、中学3年男で6.29±4.60→3.05±3.63、女で7.63±4.74→3.60±4.28であった。家庭内喫煙ありでは、全ての学年かつ男女において出前教室前後で有意差を認めた。(表4
5)家庭内喫煙なしで教室前後に差があるか否か
 小学5年男で前5.11±3.68→後2.32±2.16となった。小学6年男で同様に5.29±3.12→2.82±2.01、女で6.48±4.48→2.57±3.03、中学1年男で7.81±4.42→4.60±4.15、女で8.05±4.36→3.79±4.12、中学2年女で5.13±3.76→2.82±3.24、中学3年女で4.54±4.05→1.85±2.34となり、有意差を認めた。その他、小学5年女子、中学2年男子、中学3年男子では有意差は認められなかった。(表5

考察
 小学校高学年児童に対する調査8.9)では、喫煙防止教室前後でKTSNDによる有意差が認められている。今回、中学生についても、また男女別についても、有意差が認められた。小学校5,6年生のみならず、中学1,2,3年生において、また男女とも、喫煙防止出前教室により社会的ニコチン依存の低下が確認された。
 出前教室前のKTSNDのうち、家庭内喫煙ありで、小5小6男子が9点台、小5女子、中1男女で8点台と高い傾向を認めた(表3)。親の喫煙は子どもの心に刷り込みを起こすことが知られており10)、この群では、喫煙する家族を見て、子どもの社会的ニコチン依存が高くなったものが反映された結果となった。一方、①中1女子では家庭内喫煙なしであるにもかかわらず、家庭内喫煙ありと同じ8点台を示したこと、②家庭内喫煙なしの小5,小6男子が5点台であったのに対し、同女子は6点台と女子の点数が高かったこと。この2点は注目に値する。この結果から、小5小6中1女子では、家庭内喫煙なしであっても、喫煙ありの家庭なみに社会的ニコチン依存度が高くなっていると考えられた。タバコは「男らしさの象徴」などとされ、男子と比べ女子は喫煙する親からの影響を受けにくいとの考え方もできるが、それだけでは非喫煙家庭の女子が高いことを説明はできない。むしろ、小学校高学年から中学生の、特に女子に向けた何らかの積極的な働きかけがあり、その影響がこの結果に現れたものと考えるべきではないだろうか?この年代の女子に向けて作られたホームページ、テレビ番組、雑誌、漫画などで大きな影響を与えているものがあるのかもしれない。
 幸いなことに、家庭内喫煙あり、なし両群とも出前教室後はKTSNDの低下を認めている(表4,5)。また、有意差が出なかった群はいずれも家庭内喫煙なしであり、この群では前後の値が小さく、差を検出するには母数が十分でなかった可能性が高い。いずれにしても、全ての群で値の低下を認めている。
 こうした出前教室による介入は、家庭内喫煙ありの男女のみならず、家庭内喫煙なしの女子に対しても効果的であることが示された。また、今後は小5、小6、中1女子を対象とした喫煙防止教育を行う際には、家庭内喫煙なしであっても、家庭内喫煙ありと同程度の社会的ニコチン依存が高い点を考慮に入れる必要があると思われる。
 なお、本研究はあくまで教室直後のデータであり、長期的効果については今後の課題といえる。

結語
 喫煙防止出前教室により、小学5,6年、中学1,2,3年生の男女において、社会的ニコチン依存度の有意な低下が認められた。
 小学5,6年、中学1年の女子では家庭内喫煙のない群でも、社会的ニコチン依存度が高い傾向が認められた。
 喫煙防止出前教室により、家庭内喫煙のある、なしにかかわらず、社会的ニコチン依存度の低下を認めた。

本論文の要旨は、第2回禁煙学会学術総会(2007年8月、東京:国立がんセンター)にて発表した。

謝辞
 教室の運営にご尽力いただいたタバコ問題を考える会・千葉:事務局長 島崎洋一氏、アンケートに御協力いただいた各校の児童・生徒の皆さん、データの収集・公開を許可いただいた各校の教職員、県として喫煙防止出前教室を企画された平成18年度千葉県健康福祉部健康づくり支援課健康増進室に深謝いたします。また、共著者以外の加濃式ニコチン依存度ワーキンググループメンバーの日頃の熱心な議論に感謝いたします。

表1.加濃式社会的ニコチン依存度調査票 小学校標準版



図1.教室前後でのKTSND



表2.男女別 教室前後での比較



表3.家庭内喫煙あり・なし 教室前の比較



表4.家庭内喫煙あり:教室前後の比較



表5.家庭内喫煙なし:教室前後の比較



文献
1) 厚生労働省:平成17年 国民健康・栄養調査結果の概要 2007;17 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/05/dl/h0516-3c.pdf
2) 平成16年厚生労働省科学研究費補助金健康科学総合研究事業「未成年者の喫煙実態状況に関する調査研究」班 2004年度未成年者の喫煙および飲酒行動に関する全国調査(確定版)報告書 2005
3) 喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する児童・生徒の意識・実態調査の結果を踏まえて,神奈川県教育庁教育部保健体育科.神奈川,2004;4
4) ASH:悪魔のマーケティング:切明義孝他 編.日経BP社,東京,2005;73
5) Yoshii C, Kano M, Isomura T, et al: An Innovative Questionnaire Examining Psychological Nicotine Dependence, “The Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND)”. J UOEH 2006; 28; 45-55
6) 吉井千春、加濃正人、相沢政明ほか 加濃式社会的ニコチン依存度調査票の試用(製薬会社編) 日本禁煙医師連盟通信 2004;13:6-11,
7) 吉井千春、加濃正人、稲垣幸司ほか 社会的ニコチン依存度調査票を用いた病院職員(福岡県内3病院)における社会的ニコチン依存の評価 禁煙会誌 2007;2;6-9
8) 遠藤明、加濃正人、吉井千春ほか 小学校高学年生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果 禁煙会誌 2007;2;10-12
9) 国友史雄, 加濃正人, 吉井千春ほか 小学生高学年における喫煙に関する意識調査(加濃式社会的ニコチン依存度調査票子供用を用いて) 日呼吸会誌 2006;44 ;307
10) Dalton MA, Bernhardt AM, Gibson JJ, et al.:Use of cigarettes and alcohol by preschoolers while role-playing as adults:"Honey, have some smokers". Arch Pediatr Adolesc Med 2005;159:854-859.



The evaluation of the anti-smoking education in 5th and 6th grades elementary school students and junior high school students by KTSND

Keiichi Hoshino1,2,5, Chiharu Yoshii3,5, Kazunori Nakakuki1,Yoshihiro Ohkuni1,Masako Tanamura1, Ayumi Benitani1, Eriko Maruyama1, Masato Kano4,5, Mitsuko Otani1

The effects of the anti-smoking education was evaluated by using KTSND in the 5th and 6th grades elementary school students and junior high school students. We deliveblack the questionnaire to 3 elementary schools and 4 junior high schools in Chiba prefecture and received answers from 770 respondents.
KTSND scores have shown significant decreases in all grades, both boys and girls, compablack before and after our anti-smoking education.
Social nicotine dependency appeablack to be prominent among female 5th, 6th grades elementary school students and first graders junior high school students (11,12,13 years of age respectively). This dependency occurblack even without environmental tobacco smoke within the home. After listening to our presentation on smoking, the dependency was loweblack. This blackuction occurblack whether or not they were exposed to environmental tobacco smoke within the home.

Key word: anti-smoking education, children, The Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND), psychological nicotine dependence.

1. The group of Tabako Mondaio Kangaerukai Chiba(TMKC),Ichikawa, Chiba ,Japan
2. Division of Respiratory Disease, Toukatsu Hospital , Nagareyama, Chiba 270-0174,Japan
3. Division of Respiratory Disease, School of Medicine,University of Occupational and Environmental Health,Japan,Yahatanishi-ku,Kitakyushu 807-8555,Japan
4. Department of Internal Medicine, Shinnakagawa Hospital,Izumi-ku,Yokohama 245-0001,Japan
5. The Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND) working group


《原著論文》

47都道府県喫煙対策の実際
日本禁煙学会47都道府県喫煙対策評価委員会
 委員長 加藤一晴
理事長 作田 学
キーワード:都道府県別喫煙率、県関連施設喫煙対策、学校敷地内禁煙、基幹病院禁煙化状況


要旨
 独自のアンケートを用いて47都道府県喫煙対策状況調査を行った。
 男性平均の喫煙率は41.75%、女性は8.78%、12箇所の県庁舎で禁煙化がなされ、議会棟までは4箇所であった。学校敷地内禁煙化、路上喫煙禁止条例、基幹病院の禁煙化、禁煙タクシー普及について、必ずしも行政側は正確な把握をしている訳ではない。今後2010年までとされる受動喫煙防止条約の制定に向けての判断材料になり得る。


はじめに
 これまでわが国では47都道府県における喫煙対策を比較したものは少ない。
 厚生労働省などの上部組織からの指示により、目標設定の取り組み1)や都道府県別の喫煙率の提示は散見されるが2)、自治体単位での包括的な喫煙対策比較はなかった。また、15箇所の地方自治体で住民喫煙率を把握できていない。
 今回47都道府県喫煙対策評価委員会は、独自に作成したアンケート用紙(図1)を、各都道府県の喫煙対策担当部署に送付し、その結果を集計したので報告する。

方法
 喫煙率目標の有無・男女別喫煙率・庁舎内及び議会の受動喫煙対策・学校敷地内禁煙化・路上喫煙禁止条例・基幹病院の敷地内禁煙化・葉タバコ耕作者の有無・知事の喫煙の有無・禁煙タクシー普及状況・喫煙関連啓発情報の有無を項目として、調査を行った。期日は2007年5月31日の世界禁煙デーとしたが、3回送付した後、残り5自治体には直接電話連絡し、回答率100%を達成した。

結果
① 喫煙率目標 27自治体が喫煙率目標を掲げていた。
② 男性平均喫煙率:表1(41.75%) 低い方から、1)岐阜28.4%、2)兵庫31.7%、3)山口34.1%、4)長野34.4%、5)愛知34.7%であり、高い方から、47)香川60%、46)京都54.8%、45)茨城53.8%、44)福岡50.8%、43)宮城50.0%だった。
(その後、香川のデータは20歳代であり男性平均喫煙率は41.7%となった)
③ 女性平均喫煙率:(8.78%)低い方から、1)愛媛4.2%で 以下は2)山口・大分・鳥取・島根の4.4%と続いた。高い方では、47)宮城13,7%、46)奈良13.3%、45)東京12.9%、44)神奈川12.8%、43)香川12.2%だった。(同様に香川の女性喫煙率は8.4%であった)
④ 都道府県施設の受動喫煙対策状況(図2):庁舎内を完全禁煙にしているのは12自治体(山形・秋田・茨城・埼玉・神奈川・山梨・長野・京都・兵庫・山口・高知・佐賀)で、その内4箇所(山形・山梨・兵庫・山口)は議会棟まで禁煙にしていた。
⑤ 学校敷地内禁煙化状況:100%達成は13箇所であったが、目標を掲げるだけの自治体もあり混乱を極めた。また、経営母体が公立・私立に区分され、幼稚園・保育園・小中学校、高等学校・大学に及んでいることから、教育委員会がどこまでを把握しているのかは不明である。
⑥ 罰則の有無を問わない路上喫煙禁止区域制定は北海道・埼玉・東京・山梨・静岡・愛知・京都・大阪・広島・香川・福岡・大分・熊本・鹿児島・沖縄の15箇所(図3)。
⑦ 禁煙タクシー普及(図4)や基幹病院の禁煙化状況は、現時点では掌握できているとは言いがたい。自治体提供の喫煙・禁煙情報が皆無なのは18箇所だった。(図5

考察
 NPO法人日本禁煙学会47都道府県喫煙対策委員会により、自治体喫煙対策担当部署に向けた一斉のアンケート調査が行われた。期日は世界禁煙デーとし、計3回送付したが、最終的に5箇所自治体に直接電話連絡をして回収率100%を達成した。
 喫煙率は男性41.75%で、きちんと対策をとっている多くの諸外国に比べて国家主導での啓発が実を結んでいないことが示された。女性喫煙率の8.78%は一見少ないようにも思われるが、10代~30代女性の喫煙率は緩やかに増加3)している。
 都道府県公共施設や議会棟の喫煙対策状況調査4)は、平成16年に厚生労働省により行われた。学校敷地内禁煙化、禁煙タクシー普及程度は、かなりの温度差が見られたが、決して行政側が正確に全容を把握しているわけではない。
 庁舎内の喫煙対策は12自治体で禁煙化がなされ、首長のリーダーシップが遺憾なく発揮されたのではないだろうか。また、首長の権限の及ばない議会棟の禁煙化は、県議会の決定によるところが多く、崇高な決定と評価できる。
 各自治体とも、調査期間が平成10年~平成18年に及び、昨今の急激な喫煙率低下を必ずしも反映しているものではないことをお断りしておく。わが国では、恐らく今までこのような調査・研究はなされていなかったはずである。恥の文化5)が存在するわが国において、他人とあからさまに比較されることを潔しとしない風潮があり、これが各々の自治体に危機感を与えたものと推察される。
 千代田区に端を発した路上喫煙禁止措置は、その後全国に波及したが、欧米では密閉空間の受動喫煙対策が重視され、屋外は二の次である。
 この捩じれ現象の解釈は様々であるが、これを続けていても店内(密閉空間)の受動喫煙対策は実りあるものになることはない。
 公共空間の禁煙措置には、様々な朗報が伝えられてきたが、一番新しい報告は、全面禁煙は2006年3月に実施した英スコットランド6)からである。自治政府が10日発表したスコットランドの9病院を対象に行った調査では、全面禁煙が導入される前の10年間は、心臓発作で入院する患者の数が年平均3%のペースで減少していたが、導入後の1年間で一気に17%まで減少率が増大したという。
 この調査結果について、スコットランド医療当局の研究者は「禁煙導入が大きな成果をもたらした。喫煙者だけでなく、受動喫煙を強いられてきた人の健康状態が改善した」と分析している。
 このような受動喫煙対策は喫煙率の高いわが国では不可欠なのである。受動喫煙対策を講じることにより、非喫煙者のみならず喫煙者も健康被害から守ることができる。これこそ、たばこ規制枠組条約第8条の“タバコ煙の曝露からの保護”の真髄であり、今まさに締約国に求められる対処と云えよう。
 喫煙関連情報のない18箇所の自治体には、率先して地域住民の公共福祉のために情報提供を、そして既に存在する自治体には、更に進んだ喫煙対策実施を望みたい。

結語
 現時点で47都道府県別の喫煙対策は、かなりの温度差がある。これは更なる情報開示の重要性と、都道府県レベルでの危機意識の高まりの必要性が示唆された。
 2010年までの受動喫煙防止条約(FCTC必須項目)の準備に向けて有効利用すべきである。
(稿を終えるにあたり、多大なる協力を頂いた禁煙学会事務局、その他大勢のご支援に感謝します)

参考文献・資料
1) 「健康日本21」中間評価報告書 平成18年8月 健康日本21中間評価作業チーム http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/12/dl/s1226-8a.pdf
2) 「都道府県健康増進計画における喫煙率に関する項目について」 平成18年4月1日 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/04/dl/s0410-5f_0021.pdf
3) 喫煙 ウィキペディア(Wikipedia)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%96%AB%E7%85%99#.E5.96.AB.E7.85.99.E7.8E.87
4) 地方自治体庁舎等における禁煙・分煙の実施状況主旨 平成16年10月 厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室 http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/jichitai/index.html
5) 恥の文化再考 1976年 作田啓一著
6) Scotland smoking ban cuts heart attacks - Financial Times September 10, 2007 By Andrew Bolger, Scotland Correspondent Scotland smoking ban has produced significant public health benefits in its first year, with 17 per cent fewer hospital admissions for heart attacks.

図1.実際に送付したアンケート



表1.47都道府県別男女喫煙率



図2.県関連施設の禁煙状況



図3.路上喫煙禁止地区制制定



図4.禁煙タクシーが存在する都道府県



図5.自治体提供のタバコ情報のない箇所

Smokefree policy of each 47 prefecture in 2007

Kazuharu Katou1, Manabu Sakuta2

To understand the present measures taken against smoking behavior, we carried out a questionnaire survey among each prefecture in our country. As a result, 41.75% of the responding male and 8.78% of those female were revealed smokers, respectively on an average. Concerning the non-smoking rule within the prefectural office, it was performed in 12 prefectures including fours in which smoking is prohibited even in parliamentary area. Whereas, the present practices of non-smoking in school, hospital, taxi or on the street seemed not necessarily well understood by administration in respective prefecture. Our questionnaire survey seemed useful as the responsible data source for passive smoking prevention agreement which would be established until 2010.

Key word: smoking rate by prefecture, smokefree policy for prefectural premises, smokefree school, status of smoking ban in major hospitals


1. Chairman of the committee for evaluation on prefectural smokefree policy
2. Board Chairman of Japanese Society for Tobacco Control


《原著論文》

Acute effects of cigarette smoking on blood pressure and arterial stiffness in habitual smokers.

Akira Endo,MD,PhD1,4Toshinori Kato,MD,PhD2Shigeo Nakajima,MD,PhD3Kazuo Itabashi,MD,PhD4.

1. Endo Kikyo Children´s Clinic
2. Department of brain environmental research, KATOBRAIN Co.,Ltd.
3. Nakajima Cardiovascular Clinic
4. Department of Pediatrics, Showa University School of Medicine

Key words:cigarette smoking , blood pressure, arterial stiffness, pulse wave velocity, the second derivative of the photoplethysmogram

Abstract
 We studied the acute effects of cigarette smoking on blood pressure and arterial stiffness in habitual smokers.  Although heart rate had no change at 15 minutes after smoking one cigarette (Seven Stars, Japan Tobacco Inc.), blood pressure and pulse wave velocity as a marker of arterial stiffness increased significantly.  D/a of the second derivative of photoplethysmogram waveform correlated inversely with blood pressure, and with baPWV. These results show that cigarette smoking have deleterious effects on artery, resulting a possible adverse vascular consequences.

Introduction
 It is well known that cigarette smoking causes increase of risks of coronary artery disease
1) and stroke2).  Pulse wave velocity is an indicator of arterial stiffness, and a marker for vascular damage.  Influence of cigarette smoking on arterial stiffness has been reported3-6), few reports concern acute effects of cigarette smoking on hemodynamic changes in Japanese habitual smokers.  It seems relevant to determine whether cigarette smoking will change blood pressure and arterial stiffness in Japanese habitual smokers.  The aim of this study was to assess acute effects of cigarette smoking on blood pressure and arterial stiffness by measuring brachial-ankle pulse wave velocity.

Subjects and Methods

 Thirty-four habitual smokers (fifteen males and nineteen females) aged from 29.4 to 39.3 years (median 33.7 years, 25%tile 29.4 years-75%tile 39.3 years) were studied. Exclusion criteria were serious illness such as cancer or myocardial infarction, stroke, or peripheral arterial disease.  None were taking anti-hypertensive agents.
 All subjects smoked one cigarette (Seven Stars, Japan Tobacco  Inc.) within 3 minutes.  Hemodynamic variables, including heart rate, blood pressure, arterial stiffness, and vasospasms were measured at baseline and 15 minutes.  Arterial stiffness was evaluated with brachial-ankle pulse wave velocity (baPWV
:form PWV/ABI;OMRON HEALTHCARE Co., Ltd., Kyoto, Japan).  Heart rate and blood pressure were simultaneously measured with form PWV/ABI.  Arterial compliance was assessed using the second derivative of photoplethysmogram waveform (SDPTG:Dyna pulse SDP-100;FUKUDA DENSHI Co., Ltd., Tokyo, Japan).  The SDPTG consists of a, b, c, and d waves.  Wave heights are influenced from circulating blood volume of finger apex, ratio of height of d-wave to height of a-wave (d/a) was used as an index of arterial comliance7,8).  A negative value of d/a is big, arterial compliance decrease.  The subjects were informed about the nature of the study and all gave their consent to the procedures.
 
Statistical analysis was performed using SPSS version 11.  Data were expressed as median (25%tile-75%tile).  Wilcoxon-t-test was used for comparison of continuous variables. Spearman's rank correlation coefficients was used to determine the significance of differences between blood pressure and d/a, and between baPWV and d/a.  Differences were considered significant at p<0.05.

Results
 Table 1 shows changes of heart rate, blood pressure, baPWV, and SDPTG.  No heart rate change was observed after cigarette smoking.  Compared with baseline, both systolic and diastolic blood pressures raised significantly at 15 minutes after cigarette smoking, but pulse pressure had no change.  Mean baPWV increased significantly from 1240.8(1064.6-1310.5) to 1246.0(1075.1-1374.0) at 15 minutes.  D/a of the SDPTG had no change.  Systolic blood pressure and diastolic blood pressure correlated inversely and linearly with d/a of the SDPTG (Table 2).  BaPWV also correlated inversely with d/a of the SDPTG (Table 3).

TABLE 1. Changes of heart rate, blood pressure, baPWV, and SDPTG
Comments
 It is reported that cigarette smoking increases of heart rate2,4), blood pressure of peripheral artery2-4,6), blood pressure of central artery2), pulse pressure, and pulse wave velocity2-4).  Cigarette smoking is generally accepted to increase blood pressure, accompanied by an increase in heart rate1,4).  Both systolic and diastolic blood pressure of peripheral artery increased following cigarette smoking without heart rate acceleration in this study. Mahmad et al3) and Kim et al5) reported that heart rate increased after 5 minutes and returned to baseline levels after 15 minutes.  Cigarette smoking activates sympathetic nerve system and increases blood pressure via increases of heart rate and of stroke volume9).   However, heart rate had no changes in this study.  It is possible that heart rate returned to the baseline value after 15 minutes.
 Although d/a as an index of arterial compliance had no change after smoking, d/a correlated inversely with blood pressure and with baPWV.  Only vasoconstriction can increase blood pressure and baPWV without increases of heart rate and of stroke volume. Thus these findings shows that vasoconstrictive action excluded acceleration of sympathetic nerve system after smoking caused increases of blood pressure and of PWV.  One possibility is vasoconstrictive actions of the components of cigarette smoking.  Nicotine and reactive oxygen species(ROS) supplied by smoking inactivates synthesis of nitric oxide and impaired nitric oxide production from endothelial10,11), and inhibits arterial relaxation12).  ROS stimulates production of thromboxane Awith vasoconstrictive action13).  Nicotine and ROS may be a mechanism of increasing blood pressure and pulse wave velocity.  Cardiac artery disease is associated with increased blood pressure and baPWV.  The present study provides the first findings in Japanese smokers that cigarette smoking have deleterious effects on cardiovascular system by stiffening arteries.
 In conclusion, cigarette smoking is associated with increased baPWV.  This finding may have important clinical implications for cardiovascular health in habitual smokers.  baPWV is widely used as a noninvasive index in clinical evaluation of arterial stiffness and may be an useful method to promote cessation of smoking in habitual smokers.

TABLE 2. Correlation between blood pressure and SDPTG



TABLE 3. Correlation between baPWV and SDPTG



References
1)Negri E, La Vecchia C, Nobili A, D'Avanzo B, Bechi S. Cigarette smoking and acute myocardial       infarction. A case-control study from the GISSI-2 trial. Eur J Epidemiol. 1994;10:361-366.
2)Kurth T, Kase CS, Berger K, Schaeffner ES, Buring JE, Gaziano JM. Smoking and the risk of hemorrhagic stroke in men. Stroke. 2003;34:1151-1155.
3)Mahmud A and Feely J. Effect of smoking on arterial stiffness and pulse pressure amplification. Hypertension. 2003;41:183-187.
4)Vlachopoulos C, Alexopoulos N, Panagiotakos D, O'Rourke MF, Stefanadis C. Cigar smoking has an acute detrimental effect on arterial stiffness. Am J Hypertens 2004;17:299-303.
5)Kim JW, Park CG, Hong SJ, Park SM, Rha SW, Seo HS, Oh DJ, Rho YM. Acute and chronic effects of cigarette smoking on arterial stiffness. Blood Press 2005;14:80-85.
6)Swampillai J, Rakebrandt F, Morris K, Jones CJ, Fraser AG. Acute effects of caffeine and tobacco on  arterial function and wave travel. Eur J Clin Invest 2006;36:844-849.
7)Imanaga I, Hara H, Koyanagi S, Tanaka K. : Correlation between wave components of the second derivative of plethysmogram and arterial distensibility. Jpn Heart J 1998;39:775-784.
8)Takazawa K, Tanaka N, Fujita M, et al. Assessment of vasoactive agents and vascular aging by the second derivative of photoplethysmogram waveform. Hypertension 1998;32:365-370.
9)Narkiewicz K, van de Borne PJ, Hausberg M, Cooley RL, Winniford MD, Davison DE, Somers VK. Cigarette smoking increases sympathetic outflow in humans. Circulation. 1998;98:528-34.
10)Fitch RM, Vergona R, Sullivan ME, Wang YX. Nitric oxide synthase inhibition increases aortic stiffness measured by pulse wave velocity in rats. Cardiovasc Res. 2001; 51: 351-8.
11)Adachi T, Weisbrod RM, Pimentel DR, Ying J, Sharov VS, Schoneich C, Cohen RA. S-Glutathiolation by peroxynitrite activates SERCA during arterial relaxation by nitric oxide. Nat Med  2004; 10: 1200-7.
12)Hanna ST. Nicotine effect on cardiovascular system and ion channels. J Cardiovasc Pharmacol. 2006 ;47:348-58.
13)Wennmalm A, Benthin G, Granstrom EF, Persson L, Winell S. Maintained hyperexcretion of thromboxane A2 metabolite in healthy young cigarette smokers: results from a prospective study in randomly sampled males with stable smoking habits.Clin Physiol. 1993;13(3):257-264.


《WAT特集》

WALK AGAINST TOBACCO
2006
WEEK 6 REVISITED
Mark Gibbens

 なぜ、歩こうと思ったか
 鹿児島の佐多岬から、北海道の宗谷岬までの約3000 Kmを歩いて、このメッセージを伝えていきたいと考えています。

 あなたの健康を大事にして下さい。
 あなたの家族を大事にして下さい。
 あなたの友達を大事にして下さい。
 あなたの国 を大事にして下さい。
 禁煙は愛です!


 なぜ私がこのキャンペーンを計画したか、それは私はオーストラリアから来ています。オーストラリアは喫煙率の低い国です。でも、昔からではありません。人々が喫煙、受動喫煙の危険を知り、今の数字になっていったのです。政府はとても明確な喫煙の害のCMを流し、タバコの表示も写真付きでわかりやすくしています。タバコ税も高く、建物、バーであっても禁煙エリアは何%と法律で決まっています。
 今、世界の多くの国が禁煙の動きになってきています。政府の広告も日本に比べ、とてもはっきりと喫煙の危険を警告しています。
 ところが、日本は成人男性の47%が喫煙者と、驚く数字です。
 また、若い女性の喫煙率は増えていっているようです。
 これは、喫煙、受動喫煙の危険性の認識がそれほど重要視されてないからではと思いました。ただ、体に悪いとは知っていても、どう悪いのかといった知る機会がない。三度の食事より口にするのに何が成分でそれはどう体に影響する、またその煙の方が害があるのに、その影響もあまり知られていない。吸う人も吸わない人もそこを知る機会もなく、禁煙、分煙と言われてもただ困惑し、憤慨すると思います。それを知るべきだ、知ってもらいたいと歩く事にしたのです。
 また、私自身が主にICUの看護師でした。多くの医師、歯科医師が禁煙を推進しています。吸い続ける事がどんな事になるか、知っている私達が教えてあげなくてはいけない。治す事だけが、医療ではなく予防をする事も医療だと思います。こうして、歩くことも私の日本においてできる看護師としての仕事の一つと考えています。
 こうして、歩く事ははたして意味があるのかと思われるかもしれません。でも、何もしないよりした方がいいと思っています。このメッセージが一人でも多くの人に伝わるきっかけになればいいなと願い、遍路姿で歩きます。


前号からの続き―

 May 17th and Day 35 of Walk Against Tobacco had me saying farewell and good luck to Mr Iwasaki for his own anti-smoking efforts. Unfortunately the good mood which he had inspiblack in me began to wash away as the rain became heavier, and as the skies became darker so did my mood.
 What had started as a trickle of garbage on the footpaths was fast becoming a flood as I walked along Route 23 into Nagoya. More than 80% of the garbage was tobacco related, but there were also plenty of discarded PET bottles, often half filled unmistakably with urine, and at the intersection of routes 23 and 203, piles of large, overflowing plastic garbage bags dumped presumably by truck drivers, too busy or too lazy to stop at the ubiquitous “convenience” stores which line Japan’s roads and dispose of them properly.
 By now I was thoroughly disgusted, and decided to name Nagoya the “garbage bin of Japan”, it being by far the most dirty city I have visited thus far. I also began to conjure ideas in my mind for ways of removing this unsightly and unhealthy garbage. Ideas such as the refund system we have on bottles and cans in Australia, which works very effectively at blackucing roadside rubbish. Alternatively a user pays system whereby tobacco smokers pay an extra tax at the point of sale for the government to then employ people to clean the roads of the billions of cigarette butts and tobacco packets which are damaging the environment. By the time I arrived in central Nagoya I was bursting with ideas but equally frustrated that none of them would come to fruition.
 There is a phrase that says; every cloud has a silver lining, and even Nagoya can be proud of the fact that it has perhaps the only 100% No-smoking Hotel in the whole of Japan and this hotel named “Elsereine” is only a short walk from Nagoya’s JR station, and a breath of fresh air as you walk into the lobby and smell the fresh flowers instead of the stale tobacco smoke common in most Japanese hotels. My spirits were further boosted by a dinner meeting with Dr Inagaki and the effervescent Dr Takahashi (Nara) and later catching up with Dr Nakagawa, President of the local, “Protect Children From Tobacco” NPO group whom I hadn’t seen for over a year.
 After a refreshing nights sleep in one of Elsereine’s clean air rooms and an organic breakfast in the lobby dining area, Day 36 began with a drive to Nagoya Women’s University, where I thought I must have died and gone to heaven, as the university supports some 1400 non-smoking female students. Unfortunately the meeting was more academic, as we were told of the strategies that have been employed in providing a smoke free university, including student pledge making and counselling for those who break their entrance pledge not to smoke. We were given comprehensive data by the University President Ms Oba and the senior health nurse Ms Katori, to support the effectiveness of their policies.
 Also joining us at this meeting was Dr Ieda, famous for his No-smoking song now used at rallies all over Japan.
 Today he performed his song live on the steps of the University as I set off on my way out of Nagoya, directed by another supporter Mr Ito. Again I walked through light rain but at least the garbage was less as I now returned to Route 1. Our plan today was to return to Nagoya after walking 43km and home stay with another anti-smoking die-hard, Dr Isomura. So after lunch Reiko returned by car and I walked until 6pm and then returned by train from Nagasawa for dinner with the Isomura family.
 Day 37 saw a delayed start due to having to walk 15 minutes with our luggage from the apartment to the car-parking, then an indirect drive to get on the expressway out of the city such that I started walking from Nagasawa train station at 9:45am, finally free of Nagoya. A city of wild contrasts, famous for its recent World Expo and new airport but carpeted with garbage and polluted by smokers. The only bright points in my visit apart from the golden fish atop Nagoya’s castle, were the 100% No-smoking Elsereine Hotel and the various hard working anti-smoking groups and individuals like Dr Isomura who is trying hard to research and promote the “re-set theory” for psycho-social disorders, as a means of curing habitual smokers.
 Back to today’s walk which was unremarkable in its continuation of rainy weather. We arrived in the late afternoon after a 42km walk at the Hamanako Royal Hotel, where Dr Kato’s NPO group were accommodating us for two nights and treated us to a welcome dinner/meeting with 10 NPO members. Dr Kato was keen to show us the various anti-smoking activities he has organised , including putting no-smoking seals on all public buildings and making restricted smoking areas at the local Autumn Festival and at the Hamanako City ’s expansive flower park, former site of the World Flower Expo. Thankfully for me, the mild tonsillitis which had interfeblack with my eating for the past five days, had recoveblack by itself and I was able to enjoy the evening meal.
 The next day was another uneventful day of walking, after waking up to a view from the hotel room of beautiful Lake Hamana which had been shrouded in mist the previous afternoon. For the first time in days I walked beneath overcast skies but no rain and reached the 37km mark at Kakegawa Station by 3pm. Having given Reiko the day off from driving I returned to Hamanako by local train and then visited by no-smoking taxi, a rare no-smoking coffee shop with Dr Kato and Reiko and then to Hamamatsu for dinner at a no-smoking restaurant specializing in grilled eel.
 Another restful sleep and early breakfast was followed by our arrival at the Hamanako Flower Festival Gardens to meet Dr Kato’s NPO volunteers and a group of “Chindonya san” which could be compablack to European town-criers shouting out important public information. Dressed in colourful, old fashioned Samurai era costumes, these men bang drums and cymbals to spread the news. In our case the news was about smoking only in the four designated areas of the flower park. So for several hours our group of about 40 members paraded through the park, me in my henro costume and they banging up a storm with their drums. Thankfully the Chindonya san were more interesting and popular than me, especially as they were giving away balloons and lollypops to the kids, allowing me a little rest.
 I had to admire these 10 or so Chindonya san, toiling away on a sunny day, in theatre make-up and costumes and all volunteers. From here following a group bento lunch I walked the three kilometres across the Lake bridges to the annual Eel Festival. Unfortunately the walk meant that I missed my designated speaking spot at the festival and had to speak after the main events rather than before, which meant that many in the audience had begun to disperse.
 Already feeling tiblack and suffering from irritated eyes due to the strong winds, I must apologise to Dr Kato for a less than perfect presentation and also thank him for his generous comments and a photo album which he compiled of our two days in Hamanako. Disappointed by our presentation effort Reiko and I drove in silence to Kakegawa to find a business hotel for the night. This was perhaps one of the biggest disappointments of the entire walk, as I had also failed to promote our walk with Japanese TV personality Sein Kamyu who was also performing at the Eel Festival and who is a staunch anti-smoking advocate. We could certainly have used his publicity.
 A new day, a new walk and a new attitude saw me walk 53km between Kakegawa and Shizuoka, stopping three times in Shimada City. Once because the City Mayor Mr Sakurai stopped his chauffeur driven car next to me, got out, shook my hand and wished me good luck for the rest of the walk and drove off again; which I was very impressed with.
Secondly I was stopped by two ladies - relatives of Maruyama san commentator for Tokyo ’s symposium - who offeblack me gifts of drinks and towels.
 At the third Reiko was waiting with Mrs Nishizawa, a Shimada no-smoking activist who had researched and faxed us with detailed road maps of the area and was able to explain about the Mayor ’s no-smoking activities.
 The rest of the day was spent trying to negotiate Route 1 which at times became pedestrian unfriendly, requiring alternative side routes to be found. One such route which I later found out features in a famous series of wood block prints, involved a longer but very relaxing riverside walk, amidst lengthening shadows through the town of Maruko shortly before arriving in Shizuoka, to be greeted by Professor Hayashi on his bicycle and escorted the last five kilometres into the city. Later arriving by car at the home stay clinic/home of Dr Yokoyama where Dr Kaji was also waiting to share a lovely dinner and discuss plans for the big event the following morning at the Shizuoka City Office, which I will tell you about next month.

To be continued・・・

禁煙ホテルエルセラーンにて


名古屋女子大にて


磯村先生宅HS


浜松の加藤先生達



浜松チンドン


遠鉄タクシー


島田の西澤さん


横山先生宅
参考サイト:Walk Against Tobacco 2006 (Galleryにいろいろな写真があります)
※WAT:WALK AGAINST TOBACCO


《歴 史》

タバコのHistorical Accidentに関わったキリスト者医師「堀 俊造」について
落合病院 山代寛

キーワード:堀 俊造、同志社、京都看病婦学校、村井兄弟商会、落合教会


私と落合教会と堀 俊造
 私は岡山県北部、中国山地にある落合病院に外科医として勤務し、日本禁煙学会認定専門医となり、禁煙指導医として院内の喫煙対策と禁煙外来を担当している。
 私が現在役員を務める日本基督教団美作落合教会(以下落合教会)(写真1)は落合病院の敷地に食い込むように建っている。教会と病院との間に何か関係があるのではと思い、10年前初めて教会を訪れたときに教会の長老にたずねたところ、「病院が出来たのは教会創立から50年たってからで、病院とは直接の関係はないが落合教会を創設したのは堀 俊造という医師であり、落合病院の元事務長や真庭市医師会の重鎮で当地の歴史に詳しい堀 春明先生がその縁戚に当たるらしい」ということだった。医師会ではじめて堀 春明先生にお会いしたときにその堀 俊造についてご存知かお尋ねしたが、「名前を聞いたことがある程度で詳しいことは全く知らない」ということであり、地元でもその名を知る人は教会員以外にはいないようであった。昨年落合教会は創立120周年を迎え、その記念誌制作にあたり堀 俊造のことを調べたが、そこで私の天職であると信じる禁煙活動と,この教会は意外なつながりを持っていることがわかった。

落合教会建設の意外な事実
 それは落合教会がタバコマネーによって建てられた会堂であるということである。現会堂の創建は、1896年第4代守田幸吉郎牧師によってなされた。落合教会は岡山、高梁、笠岡、天城に次ぐ岡山県内で5番目、岡山県北部美作地方では最初に誕生した教会で、昭和9年の当地を襲った大水害、旭川の氾濫にも耐え、岡山教会が戦災で消失したため県下で4番目に古い教会堂として現存している(高梁、笠岡、天城の各教会堂は県の指定文化財となっている。落合教会は指定を受けていないが基本的な構造は111年前のままである。)。その教会堂の建設資金を寄付したのが京都の合名会社 村井兄弟商会の村井吉兵衛であったという古老の伝承が残っていたのだ(残念ながら昭和9年以前の教会の資料は水害ですべて無くなっており、創設期の資料は伝承という形でしか残っていない。)。その話は以下のようなものである。
 京都のタバコ商、村井吉兵衛はアメリカから輸入したタバコの葉が船で運ばれる間に傷んでしまい大損害を受ける所であったが、落合教会の創設者で当時京都にいた医師 堀 俊造から特殊な香料を使うとよいというアイディアをもらい、傷んだタバコの葉に香料をつけて、それで莫大な利益を得て、利益の一部を会堂建築資金として献金したという1)
 日本で初めて香料を含有した「ヒーロー」というタバコが大ヒットしたのが1894年であり、そこに堀のアイディアがいかされたということになる。村井は「ヒーロー」をもとにアジア進出を果たし、東洋のタバコ王とよばれるまでになった。タバコ富豪のJ.B.Dukeが、Duke大学を作り、教会や孤児を援助したことは知られているが、日本においてタバコ会社の寄付でできた教会堂は落合教会以外にはないと思われる。

写真1.日本基督教団美作落合教会
Historical Accident
 ここで日本のタバコ政策について少しふれておきたい。落合教会の会堂が出来た1896年、タバコが膨大な利益を生むことに日清戦争後財政難に陥った政府が目を付け、葉たばこ専売法が制定された。当時、米国ではJ.B.Dukeが、四大シガレットメーカーを傘下に入れ、全米80%のシェアを持つアメリカンタバコカンパニーを設立。東洋市場を狙い、1899年(未成年者喫煙禁止法がキリスト者の国会議員 根本 正によって衆議院に提出された年,翌年制定)、既にアジアに進出をしていた村井兄弟商会を資本傘下に入れた。 葉たばこ専売法が制定されたものの、葉たばこの密耕作や横流しが横行し、目標の税収を得られず、1902年J.B.Dukeによりブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が設立され、欧米のタバコ資本によって国内のタバコ産業が独占される恐れが強くなった。また、日露戦争の戦費を調達する必要にも迫られたため、政府は1904年、煙草専売法を施行、タバコの製造専売を行うことにより、欧米資本を駆逐。その段階で村井に膨大な富がもたらされた(京都円山公園内には往時を偲ばせる村井の別荘「長楽館」が京都市の文化財として保存されている。)。その後タバコによる税収は国税において大きな割合を占め、第二次大戦後も、1985年まで日本専売公社によるタバコの専売が続き、現在のJTに受け継がれている。この日本がタバコ大国となった歴史的な巡り合わせについて、第2回禁煙学会総会において厚生労働省の吉見逸郎氏は特別講演の中でHistorical Accidentと名付け触れられたが、このHistorical Accidentに堀 俊造は関わったといえる。

堀 俊造の生い立ち
 堀 俊造とはいかなる人物か?われわれに伝わる話では病院や教会堂にほど近い現真庭市落合垂水の医家に生まれ、神戸に出て、医学の研究中にキリスト教に接したという。それは切支丹禁止高札廃止(1873)よりも以前であった。堀は帰郷して、現在の落合小学校前で医業を継ぐが、1882年、高梁教会で受洗し、その後は自宅を開放して集会を続け、同信の者を得ると高梁教会に伴って受洗させ、1886年美作落合教会を誕生させた。落合教会は初め氏の自宅を仮会堂としていた。その後、堀は新島 襄に請われ同志社の校医として京都に移ったという。その後の消息はその村井とのエピソード以外よく分かっていない。まずはこの当地に伝わる堀氏の話が本当なのかどうか、同志社大学神学部に問い合わせたところ、同志社大学には堀氏の一次資料は存在しないという返書と、豊中で皮膚科医院を開業されている長門谷洋治先生のご研究の一部(同志社百年史の一部2) A4のコピー2枚)をいただいた。その資料には堀 俊造は佐伯理一郎(日本の産婦人科学、看護学の先駆者で、William Oslerのただ一人の日本人の弟子)の前任者として京都看病婦学校に1897まで実質的な責任者として在籍していたと記載されており、私たちに伝わる話が大方誤りでなかったことが確認できうれしく思ったのだが、1897以降の消息が謎のまま残ってしまった。日本基督教団高梁教会、日本基督教団神戸教会にも何か手がかりがないか当たってみた。高梁教会には落合教会創設期の資料,当時の基督教の新聞である福音新報、七一雑報などがあり、堀についてかなりの量の記事が発見でき,ここでも伝承が正しいことが確かめられた。京都に移ってからの資料はなかったものの、高梁教会の牧師で同志社大学大学院博士過程に籍を置く八木橋康広牧師に興味を持っていただき、調査にご協力いただくこととなった。神戸教会からは、堀 俊造が神戸にいたころは他の名前を名乗っていたのではないかと言うヒントをいただき、インターネットで検索したところ

〔明治五年〕十一月三日米国デビス氏ヲ聘シテ英学教授所ヲ神戸宇治野町二開ク結社人員八名  岡田実(加州大聖寺)、阿部昇三(長崎)堀希一(作州落合)、須川二郎(作州津山)、倉谷藤平(大聖寺)、 前田泰一(摂州三田)、耕三兄及ビ高吉(当時仮に関貫三と言う)結社金三円ヅツヲ出ス3)

という記事を発見した。
 1872年、松山高吉(関貫三)、前田泰一らの発起により八部郡 宇治野村(現在は神戸市中央区下山手通)に宇治野英語学校を創設したことは明治のキリスト教史上有名な出来事であり、堀 希一(作州落合)こそ堀 俊造ではないか、また前記 根本 正も若かりし頃この英語学校の宣教師O.H.Gulickに学んだとされ、堀との接点があるのではないかと考えられた。
 堀や根本が神戸にいた当時の米国宣教師の教えはいかなるものであったか?O.H.Gulickの日本語教師、市川栄之助による資料によれば、

耶蘇の教えと申すは、是迄念じ候神仏を廃し、
一心に耶蘇を信仰致し、淫事酒莨(酒とタバコのこと)
を禁じ、正直を旨とし、虚言を謹し候等の戒めを守り候様教授致し候4)

 とあり、禁酒禁煙、正直誠実な市民生活が、明治初期の神戸においてアメリカ宣教師から 伝えられたキリスト教倫理であったことがわかる。このタバコについての教えは、130年の伝統の継承者なのだという自覚を私にもたらしたが、そのような教えを受けていた堀がなぜタバコによる金儲けに手を貸す事になったのか疑問に思えた。そんなおり八木橋牧師から、「高梁教会で堀と接点があった牧師,森本介石(後に改名し松村介石、道会創始者で大川周明らを指導した)は米国宣教師への反発からかキリスト者が禁煙する必要はないと公言し若者の支持を得ていた」というエピソードを聞かされ、必ずしも明治のキリスト者が根本 正や日本基督教婦人矯風会のように反喫煙でまとまっていた訳ではない事を学んだ。それからほどなく、再び八木橋牧師から、新島 襄の墓参りに行ったおりに堀の墓を京都若王子山にある新島襄の墓のすぐ側に発見した、という驚きの知らせをいただいた。
堀 俊造の墓
 2007年2月、京都で開かれた第1回日本禁煙学会に発表の機会に京都に行くのに合わせて、八木橋牧師に墓所を教えてもらい、そして日本の基督教史研究の第一人者である本井康博同志社大学神学部教授にアポイントを取っていただいた。禁煙学会の前日、哲学の道の終点、若王子神社横をイノシシにおびえながら息を切らして上ること20分、若王子山山頂にある新島 襄のそのすぐわきに八木橋牧師から聞いていたとおり堀 俊造の墓(写真2)があった。そこはクリスチャンの墓が集まっているところで一際目立つかなり大きな墓であったが、すこし斜めになっていて地震でもあれば倒れるような感じであった。墓碑には「大正拾四年拾弐月参拾日没 行年七十九歳 出生地岡山県落合町」とあった。翌日同志社教会礼拝出席後、本井教授に親しくお話をうかがうことが出来た。結論としてはっきりとした堀氏の足跡をたどることは難しかったが、おそらく1897年同志社病院、看病婦学校を去った後、眼科で開業し、大正14年京都で没し、死ぬまで信仰を保ち続けたことは数少ない資料から類推できた。そのほか本井教授とお話しする中で神戸英語学校創設に関わった美作落合出身の堀 希一という人物と堀 俊造が同一人物である可能性、医療宣教師でのちの京都看病婦学校校長J.C.Berryと神戸や高梁での接点の有無、堀がどこで医学教育を受けたか、など明らかにしていくべき問題を整理することが出来た。新島には同志社を欧米の大学のようにプロフェッショナルを養成するために神学部と法学部、そして医学部のある総合大学にしようという壮大な夢があり、東大のベルツ、府立医大のヨンケルらドイツ医学に対抗してJ.C.Berry、佐伯理一郎、そして堀らは英米医学による医学部をめざしていたことを教えていただいた。府立医大がドイツ医学を選択し仏教会からの強い支援を受けていたことは禁煙学会会場の京都府立医大の展示を見て知ったが、そこには同志社病院や医学部設立の動きが影響を及ぼしたのではないかと思われ、もし新島 襄が急逝しなければ、日本の医学の趨勢もかわっていたのではないかと思われた。堀が日本人責任者として在籍していた京都看病婦学校は日本で最も早い時期に創設された看護学校であり、実は禁煙学会の懇親会が開かれたパレスサイドホテルのすぐそば、現在のKBS京都のある所で、そしてJ.C.Berryは学会場に隣接した所に住んでいて毎朝職場に御所を突っ切って通勤していたことも教わった。堀の住居は病院の敷地内かその近くだったのではないかということだった。本井教授により堀について様々なことが明らかにされたが、まだ謎が多い。しかし2008年、堀や新島襄が果たせなかった同志社大学医学部の夢が生命医学研究科開設という形で新島 襄の死後118年、堀が京都看病婦学校を離れ、その経営が同志社から佐伯理一郎に移譲されて百年を経て実現することにちなみ、堀や京都看病婦学校の研究が進むことを期待したい。

写真2.堀 俊造の墓
堀 俊造の残したメッセージ
 タバコの問題が十分認識されていなかった時代にタバコと関わりを持ってしまった医師でありキリスト者である堀を知ることで、彼から時空を超えたメッセージを受け取っているように思う。それは「Historical accidentを日本のタバコ事情を肯定する言い訳とせず、自らの信仰と職業上許されざる結果になってしまった過ちを世に知らしめ喫煙対策に邁進せよ」というメッセージである。

参考文献
1) 日本基督教団美作落合教会創立120周年記念誌 2007年
2) 長門谷 洋治:同志社百年史 通史編1 第十一章 京都看病婦学校と同志社病院 第一部創業と成育.同志社,京都,1977,313−315
3) 茂 義樹:明治初期神戸伝道とD・C・グリーン.日本キリスト教史双書. 新教出版社, 東京, 1986, P.107
4) 茂 義樹:明治初期神戸伝道とD・C・グリーン.日本キリスト教史双書. 新教出版社, 東京, 1986, P.60-P.72

関連ホームページ
1) 日本基督教団美作落合教会ホームページ http://ww1.tiki.ne.jp/~banno/
2) 新島遺品庫資料の公開【部分公開】新島襄ショートストーリー◆38.医学教育 http://joseph.doshisha.ac.jp/ihinko/bubun2/column/38.html
3) 明治初期神戸伝道と三田藩士 伝道の開始 http://www.nogami.gr.jp/rekisi/kobe_dendo/eigogakko.html  (関貫三:旅日記.1872年)
4) 明治初期神戸伝道と三田藩士 神戸公会の創 2.教会員の生活 http://www.nogami.gr.jp/rekisi/kobe_dendo/kyoukai_innoseikatu.html (市川栄之助:糺弾口書.1871年)


日本禁煙学会の対外活動記録
(2007年8・9月)
8月2日 内閣府にタバコに関する全国規制改革要望書提出・回答・再要望実施
8月16日 萩本欽一氏のウルトラマラソンに関する日本禁煙学会の見解
8月16日 タバコに関する内閣府・全国規制改革要望書の省庁再回答
8月24日 厚労省に申し入れ「COP2の受動喫煙防止ガイドラインに沿って2010年までに「屋内完全禁煙」措置を早急に進めてください」を行いました
8月25日 「タバコパッケージの健康警告デザインコンテスト」受賞者発表
8月26日 第2回日本禁煙学会学術総会大会宣言を公表
8月26日 東京のホテル禁煙度評価表を公表
8月30日 読売ウィークリー9月9日号記事に対する訂正要請
9月6日 「喫煙対策シンポジウム2007」のJT講師の除外を求める要請
9月11日 秦野たばこ祭りに対する要請
9月13日 文芸春秋2007年10月号「変な国・日本の禁煙原理主義」対談者養老孟司氏・山崎正和氏に対する公開質問状および公開討論会の提案



日本禁煙学会雑誌
(禁煙会誌)
ISSN 1882-6806

第2巻第7号 2007年10月15日

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