禁煙会誌 第3巻第3号 2008年6月1日


目次



《原著論文》 職域における禁煙成功者と失敗者の習慣の差異に関する調査 内田満夫
 
《原著論文》 中学生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果 遠藤 明
 
《資 料》 WHO タバコ規制枠組み条約の広告規制の実行のための会議
Workshop on Implementation of WHO FCTC on advertisement

作田 学
 
《資 料》 WALK AGAINST TOBACCO 2006 WEEK 10 REVISITED Mark Gibbens
 
《記 録》 日本禁煙学会の対外活動記録(2008年4・5月)



日本禁煙学会雑誌第3巻第3号 2008年6月
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(2,420KB)




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《原著論文》

職域における禁煙成功者と失敗者の習慣の差異に関する調査

労働衛生コンサルタント
内田 満夫
連絡先
〒943-0141 新潟県上越市子安1503 内田労働衛生コンサルタント事務所
  内田満夫
  e-mail:uchidaohc@gmail.com

キーワード:産業保健、労働者、禁煙、横断調査

はじめに
 日本人の喫煙率は平成19年現在約26%(JT)であり年々減少傾向を示している。しかし男性喫煙率はいまだ40%と先進諸国に比較して高値でありさらに若年女性の喫煙率も増加している。タバコによる生体への影響は周知の事実であり、また火災、ゴミ、モラルなどの観点からも社会的に問題が多い1)
 「健康増進法」の施行や「職場における喫煙対策のためのガイドライン」などにより職域での喫煙対策が推進されているが、その喫煙対策は企業によって様々である2)。その理由には企業規模・業種・年齢構成・産業保健スタッフの有無などによる差があり、さらに企業における喫煙対策が各社の自主性に任されていることも原因であると考えられる。しかし喫煙に起因する企業の経済損失について指摘する報告3)をはじめ、喫煙と企業コストに関する報告4)~6)や、近年話題となった東京都江戸川区における受動喫煙訴訟事例(2004)などから、職域における喫煙対策が重要課題であることは間違いない。
 職域での喫煙対策は大きく分けると「環境の整備」と「喫煙者へのアプローチ」という2点から考えることができる。環境の整備には喫煙室の設置による分煙・屋内禁煙化・自販機の削減・禁煙タイムの設定・非喫煙者も含めた集団教育などがあり、喫煙者へのアプローチには健康診断・個別の禁煙指導・ニコチンパッチなどの禁煙補助剤などが挙げられる7)8)。確実な喫煙対策を計画する際はそれぞれを複合的に考慮し、両輪的な考えをもって進める必要がある。環境の整備に関しては事業者により強力に進めることも不可能ではないが、喫煙者へのアプローチは対象者の意識によりその結果は大きく左右される。多くの企業の安全衛生担当スタッフが、喫煙率を低下させるために日々試行錯誤を繰り返している。
 国・自治体・企業・医療機関などによる多くの取組み9)により近年は喫煙率の低下を認めるが、禁煙に失敗する者も少なくない。禁煙成功者を増加させるためには、禁煙を失敗した原因や成功者と失敗者の相違点を調査することも必要である。そこで今回ある企業の従業員を対象として、一般的な喫煙習慣、また禁煙成功者と失敗者の特徴や傾向を調べるためアンケート調査を実施した。

方法
 北陸地方にある従業員約2000名の電子部品製造業1事業場を対象とした。調査方法は無記名自己記入式アンケート形式による横断調査とした。アンケート実施にあたり、事前に事業場の安全衛生委員会で趣旨を説明して了承を得た。アンケートは平成19年4月に実施した。アンケートは既成の数種のものを参考にし、性別と年齢、勤務形態、喫煙歴、喫煙対策への意見、喫煙に関連する疾病の知識、禁煙の実行などの質問項目を設定して作成した(図1)。喫煙習慣の分類は現在喫煙習慣のある人を「喫煙者」、調査実施時に1ヵ月以上禁煙している人を「前喫煙者」、喫煙したことの無い人を「非喫煙者」とした。集計と入力は特定のスタッフが行い精度管理に努めた。入力ソフトはEXCEL、解析はSTAT-VIEW5.0Jを使用した。解析方法は、平均値の比較にはNon paired t-testとANOVA、分割表にはChi square test、多変量解析にはMultiple logistic regressionを用いた。また回答には年齢や部署の記入欄があるため用紙の取り扱いに注意した。

結果
 アンケート回答者(表1)は1989名、回答率は97.7%、内訳は男性1719名と女性268名と不明2名、年齢は平均37.6±9.0歳、中央値は40歳であり、回答者に性別と年齢の偏りを認めた。喫煙習慣別にみると、喫煙者は51.3%(1021名)、前喫煙者は17.5%(349名)、非喫煙者は31.1%(619名)であった。年齢別の喫煙率は男女とも総じて全国平均より高かった。勤務形態別に検討すると、日勤者の喫煙率が42.3%、交替勤務者の喫煙率が58.2%であった。年齢と性別を調整した結果、日勤者に対する交替勤務者の喫煙率のOdds ratio(OR)は1.83(95%Confidential Interval(CI):1.52~2.22, p<0.0001)であった。調査時の喫煙対策状況は、空間分煙としてガイドラインに従った煙の漏れない喫煙室が屋内に3ヵ所設置されており、それ以外の場所は敷地内全面禁煙であった。また時間分煙として週に1回午後1時から5時のみ完全禁煙タイムが設定されていた。その喫煙対策情況について質問した結果(図2)、現状より規制を求める人の割合は喫煙者7.7%、非喫煙者38.8%、前喫煙者59.9%であった(p<0.0001)。喫煙に関連する疾病を知っているか、また知っている場合は具体的疾患名を列記してもらった結果、喫煙習慣別には知識率も回答個数も差は認めなかったが、年齢別では知識率(図3)と回答個数(図4)ともに年齢上昇にしたがって増加を認めた(p<0.0001)。また具体的な回答内容は(延べ回答数)、悪性腫瘍全般が1330、脳血管疾患が185、心血管疾患が257、呼吸器疾患が141、消化器疾患が32、生殖器関連疾患が7、その他44であった。
 次に非喫煙者を除き前喫煙者と喫煙者の喫煙習慣を比較すると、年齢(p<0.0001)、勤続年数(p<0.0001)、喫煙年数(p<0.0001)、1日喫煙本数(p<0.0001)、勤務形態(p<0.0001)の項目に有意な差を認めたが、性別と喫煙関連疾患の知識には差を認めなかった(表2)。さらに前喫煙者349名(禁煙成功者)と喫煙者のうち禁煙経験のある250名(禁煙失敗者)について年齢と性別を調整して各因子を比較した結果、喫煙年数(OR:0.78, 95%CI:0.74~0.82, p<0.0001)、喫煙本数(OR:0.97, 95%CI:0.94~0.99, p<0.01)、勤続年数(OR:1.03, 95%CI:1.00~1.06, p<0.05)、禁煙回数(OR:1.17, 95%CI:1.03~1.33, p<0.05)の項目に有意な差を認めたが、勤務形態と疾患の知識には差を認めなかった(表3)。
 禁煙成功者には再喫煙しそうになった場面を、禁煙失敗者には再喫煙してしまった場面を質問した。その結果禁煙成功者からは115名の回答があり、その中で最も多い回答は「食事会・飲み会」(56.3%)であった。一方禁煙失敗者からは229名の回答があり、そのうち最も多い回答は「ストレス・イライラ」(29.1%)であるという相違点を認めた(図5)。

考察
 今回のアンケート調査の結果、職制を利用した一斉配布と一斉回収を行ったため高い回答率を得ることができた。回答者の性別や年齢に偏りを認めたが、解析時には可能な範囲で調整することにより影響を除去した。この事業場は全国平均と比較しても高い喫煙率であったが、それは地域性や企業風土、業種や勤務形態、性別、年齢の偏りが影響していると推測される。勤務形態による喫煙率の差を認めたが、この結果は交替勤務者と日勤者の時間的拘束や連続作業のストレスの差、休憩時間の取り方の違い、また夜勤中の覚醒を目的とした喫煙行為などが影響しているためと推測される。さらに学歴や収入差など多くの交絡因子も否定できないが、同一企業内ということで影響は大きくないと考えられる。この結果、交替制という勤務形態は喫煙率に関係する因子であると考えられた。
 喫煙習慣別に喫煙対策情況について質問すると、最も規制を求める人の割合が高いのは前喫煙者群であることが分かった。これは、前喫煙者の禁煙行動に伴う健康意識の変化が、その反動と共に喫煙対策への意識も大きく変化したためと推測される。この結果より、前喫煙者の協力が企業内における喫煙対策の推進に大きく貢献することが期待される。
 喫煙と関連する疾病について質問した結果、喫煙習慣別には知識の差は無かったが、若年者ほど知識が少ないという年齢による差を認めた。現在マスメディアなどの情報によりタバコの有害性について知識を得る機会が多いため、喫煙者と前喫煙者と非喫煙者の間に大きな知識差はないと考えられる。しかし年齢別の知識差を認めたため、若年からの繰り返しの教育は必要であることが分かった。
 具体的回答内容確認すると、悪性腫瘍については多くの人が回答したが他の疾患はあまり回答されなかった。これは生命に関わる致死的な疾患の方が、経過の緩やかな慢性疾患よりも印象が強いためではないかと考えられる。この結果より、喫煙に関連する非腫瘍性疾患についてもさらなる教育が必要であることを確認した。
 非喫煙者を除外して前喫煙者と喫煙者の間にどのような喫煙習慣の差があるかを解析した。その結果、前喫煙者は年齢が高く、勤続年数が長く、喫煙年数と本数は少なく、勤務形態別には日勤者の割合が高かったが、性別と喫煙関連疾患の知識については差を認めなかった。この結果は、年長者ほど健康意識が高まり禁煙する人が多いこと、前喫煙者は喫煙期間が短いこと、また喫煙本数も多くないこと、交替勤務者は日勤者と比較して相対的に禁煙した人が少ないことを意味している。また性別や疾患の知識という因子は喫煙開始後であれば禁煙行動とあまり関係がないことを示している。
 次に禁煙成功と失敗の差に影響する因子を調べるため性別と年齢を調整して解析した結果、喫煙年数と本数は少なく、勤続年数は長く、禁煙回数は多いことが禁煙の成功と関係することを確認した。成功者の喫煙年数と本数の少なさは離脱のしやすさと関係していると推測される。勤続年数の長さは管理職者への昇進などから立場的に自己管理が求められることによる禁煙の促進と推測される。禁煙回数の多さは禁煙に失敗しても繰り返し挑戦することにより禁煙成功率が上がることを意味している。また禁煙実行者に限ると、勤務形態と禁煙成功率には関係がないことも確認した。これは前述の結果も合わせて考えると、交替勤務者は日勤者より禁煙する人が少ないが、禁煙を実行すると勤務形態に関わらず成功率に大きな差がないことを示している。これらの結果を考察すると、喫煙対策のため喫煙者へアプローチする際は、対象者の喫煙習慣や勤務状況を詳細に聞き取ることで禁煙の意志の有無や禁煙成功の可否を推測できる可能性がある。また前喫煙者を増加させるためには、交替勤務者の禁煙に無関心な人達に行動変容を促し禁煙の実行につなげることが重要である。また禁煙を失敗した人も再挑戦してもらうことで禁煙成功者が増加すると推測される。
 禁煙成功者でも多くの人は食事会や飲み会で再喫煙の危険性があることが分かった。しかし禁煙失敗者が実際喫煙してしまった場面はストレスやイライラを感じたときであり、両者に相違を認めた。この結果からは、環境因子による喫煙の誘惑よりも個人のニコチン依存症から発生するニコチン濃度低下によるストレス・イライラの方が再喫煙につながる危険性が高いことが推測される。またそれに加えて個人の性格などによるストレス耐性の低さや業務などのストレスが拍車をかけていることも疑われる。これらの結果より、再喫煙の防止には個人要因であるニコチン濃度低下によるストレス・イライラを緩和させる方法や教育が重要であり、またそれに加えストレス解消や自律訓練などのストレスコントロールも重要であると考えられる。

結語
 今回1つの事業場において一般的喫煙状況と禁煙行動に関係する因子を調査解析した。本結果は特定の電子部品製造業の調査による対象者の選択バイアスが存在するため解釈には注意が必要である。しかし喫煙者の多くを占める生産年齢人口、特に製造系の労働者において喫煙対策を推進するための情報のひとつとして有用であると考えられる。一般的な傾向を論じる場合は引き続き広い対象者で調査解析を行う必要がある。

本論文の要旨は、第66回日本公衆衛生学会総会(2007年10月、松山市)において発表したものである。

参考文献
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6) Lynn E:Smoke-free workplaces would hit tobacco profits.Br Med J,2005;12;330(7487):325.
7) 中村正和:禁煙外来マニュアル.日経メディカル開発,東京,2005.
8) 小西明美:医療従事者のための禁煙外来・禁煙教育サポートブック.MCメディカ出版,大阪,2006.
9) 日本禁煙学会:いろいろな場所の禁煙法.禁煙学.南山堂,東京,2007:p137-181.
図1 アンケート用紙
図1 アンケート用紙
調査に使用したアンケート用紙。喫煙習慣、喫煙対策状況、喫煙関連疾患などに関する質問を喫煙習慣別に設定した。

表1 回答者について
表1 回答者について
回答者に性別と年齢の偏りを認めた。
男女とも全国平均より高い喫煙率であった。



図2 喫煙習慣別による喫煙対策への意見
図2 喫煙習慣別による喫煙対策への意見
事業場での喫煙対策に対し、現状より規制を求めている人の割合が最も高いのは前喫煙者群であった(59.9%)。

図3 年齢別の喫煙に関する疾病の知識率
図3 年齢別の喫煙に関連する疾病の知識率
年齢上昇に伴い、疾病の知識率の上昇を認めた。

図4 年齢別の喫煙に関連する疾病の回答個数
図4 年齢別の喫煙に関連する疾病の回答個数
年齢上昇に伴い、疾病の回答個数も増加を認めた。

表2 非喫煙者を除いた前喫煙者と喫煙者の比較
表2 非喫煙者を除いた前喫煙者と喫煙者の比較
前喫煙者は喫煙者に比べて年齢が高く勤続年数が多く、喫煙年数と本数は少なかった。また交替勤務者における喫煙者の割合が高かったが、性別と疾患の知識の項目には差を認めなかった。

表3 禁煙の成功と関係する因子について
表3 禁煙の成功と関係する因子について
禁煙成功者は、喫煙年数と本数は少なく、勤続年数と禁煙回数は多かった。勤務形態と疾患の知識については差を認めなかった。

図5 再喫煙の危険性
図5 再喫煙の危険性
禁煙成功者は食事会や飲み会で再喫煙の危険性が高かった。禁煙を失敗して再喫煙する場面はストレスやイライラによるものが多かった。

Differences in habits between worker smokers who successfully quit and those who failed

Mitsuo Uchida
Occupational health consultant

The aim of this study is to understand the differences in habits between workers who succeeded in quitting smoking and those who failed. A questionnaire survey was conducted in an electronic manufacturing factory in Japan. The items requested in the survey questionnaire were sex, age, smoking habits, work shift, knowledge of disease and the time of quit smoking. The subjects were 1719 males and 268 females, 37.6±9.0 years old (mean), 40 (median); 51.3% smoked, 17.5% had given up and 31.1% had never smoked. There was a significant difference in smoking habits between day-workers and shift-workers (OR:1.83, P<0.0001). As well, workers who succeeded in quitting smoking tended to have a positive attitude about restricting smoking compared with smokers and never-smokers (P<0.0001). Age and knowledge of smoking diseases appeared to be connected (P<0.0001). On the other hand, there was no relationship between smoking habits and knowledge of smoking diseases. Adjusting for sex and age; differences were indicated between those who succeeded in quitting smoking and those who failed; how long they had smoked (OR:0.78, P<0.0001), how much tobacco they smoked a day (OR: 0.97, P<0.01), how long they worked in the factory (OR: 1.03, P<0.05) and how often they tried to give up smoking (OR: 1.17, P<0.05). From the results of this study, it was confirmed that those who succeeded in quitting smoking and those who failed had different smoking habits. In the case of promoting smoking restrictions in the work place, understanding smoking habits could be effective.

Key words: Occupational health, manufacturing workers, quitting smoking, questionnaire survey


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《原著論文》

中学生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果

遠藤明1,9, 加濃正人
2,9, 吉井千春3,9, 相沢政明4,9, 国友史雄5,9, 磯村毅6,9, 稲垣幸司7,9, 天貝賢二8,9.
1. 医療法人社団えんどう桔梗こどもクリニック
2. 新中川病院内科
3. 産業医科大学呼吸器内科
4. 北里大学病院薬剤部
5. 千葉労災病院呼吸器内科
6. リセット禁煙研究会
7. .愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科
8. 茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンタ-内科
9. 禁煙心理学研究会:加濃式社会的ニコチン依存度(KTSND)ワ-キンググル-プ
連絡先
〒041-0808 北海道函館市桔梗5-7-16 えんどう桔梗こどもクリニック
  遠藤明
  TEL 0138-46-3011 Fax 0138-46-4741
  e-mail: endo432@seagreen.ocn.ne.jp

キーワード:中学生、加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)、喫煙、禁煙教育


 喫煙者は喫煙行為を正当化および美化する傾向があり、自己の禁煙と社会の禁煙推進に対して抑制的な行動をとりやすい。この喫煙に関する認知の歪みを測定する尺度として社会的ニコチン依存が提唱され1,2)、いろいろな集団に対して加濃式社会的ニコチン依存度調査票(Kano Test for Social Nicotine Dependence:KTSND)を用いて研究されている1~11)。以前の調査において、喫煙経験のある高校3年生男子の認知の歪みの程度は成人レベルに達しており、禁煙教育に抵抗することが判明した10)。今回、われわれは中学生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果をKTSNDにより調査したので報告する。

対象と方法
【対象】
 北海道函館市A中学生の654人中KTSNDに記載漏れのない607人で、構成は男子279人(1年109人、2年88人、3年82人)、女子328人(1年123人、2年97人、3年108人)であった。
【方法】
1) 平成19年に中学生の喫煙に対する認識および禁煙教育の効果をKTSND version2(10問30点満点:配点は問1のみ左から3,2,1,0点、問2~10は0,1,2,3点)を用いて調査した2)。講演の直前に質問票を配布し、学年と性別を記載させたが無記名とした。B4用紙左ペ-ジに印刷された表1の内容を筆頭著者が1文ずつ読み上げ、自分の喫煙状況と家族構成員の喫煙者の有無を記載し、問に対して自分が最も近いと思う番号を〇で囲むようにした。さらに、喫煙者のみを対象にして禁煙のステ-ジを記載した。ニコチン依存、喫煙の有害性、ニコチン置換療法、受動喫煙の防止、タバコの断り方などについて講演した。講演直後にB4用紙の右ペ-ジに印刷された質問と禁煙ステ-ジを再び筆頭著者が読み上げて自分が最も近いと思う番号を〇で囲んだ。講演終了後、2種類の質問票を会場で回収した。
2) 統計解析:家族構成員に喫煙者がいる場合の中学生が喫煙する割合と家族構成員に喫煙者がいない場合のそれとの有意差の判定にカイ二乗検定を用いた。禁煙教育前後のKTSND総得点の変化をWilcoxon符号付順位和検定により有意差を検定した。喫煙経験の有無、家族構成員の喫煙者の有無によるKTSND総得点の比較にWilcoxon順位和検定を用いた。禁煙ステ-ジを全く関心がない:4点、禁煙に関心はあるが今後6ケ月以内に禁煙しようとは思わない:3点、6ケ月以内に禁煙しようと考えているが1ケ月以内に禁煙する予定はない:2点、この1ケ月以内に禁煙する予定である:1点とし、禁煙教育後の変化をWilcoxon符号付順位和検定により有意差検定した。結果を中央値、四分位点(25%点、75%点)で表示し、有意水準5%未満を有意と判定した。

結果
1) 中学生の喫煙状況(表2):タバコを毎日吸う、時々吸う、いたずらで吸ったことがある、などの喫煙を経験した中学生は全生徒607人中42人(6.9%)、男子279人中19人(6.8%)、女子328人中23人(7.0%)であった。毎日喫煙する中学生は全生徒607人中6人(1.0%)、男子279人中2人(0.7%)、女子328人中4人(1.2%)であった。
2) 家族構成員の喫煙と中学生の喫煙経験の関係:家族構成員に喫煙者がいる場合の中学生が喫煙経験のある率(8.3%:384人中32人)は家族構成員に喫煙者がいない場合のそれ(4.5%:223人中10人)より高い傾向があった(p=0.096)。
3) KTSND総得点と禁煙教育後の変化(表3):喫煙経験の有無、家族構成員の喫煙者の有無にかかわらず禁煙講演によりKTSND総得点は有意に減少した。
4) 喫煙経験の有無および家族構成員の喫煙者の有無によるKTSND総得点の比較(表4):学年が進級するとKTSND総得点が増加する傾向が見られた。喫煙経験のある男子、女子のKTSND総得点は喫煙経験のないそれらより、禁煙講演前および禁煙講演後ともに有意に高値であった。家族構成員に喫煙者のいる中学生全員および男子の禁煙講演前のKTSND総得点は喫煙者のいないそれより有意に高値であった。
5) 禁煙ステ-ジの変化(図1):喫煙経験のある中学生42人の禁煙ステ-ジは、全く関心がない:28人→17人、禁煙に関心はあるが今後6ケ月以内に禁煙しようとは思わない:7人→8人、6ケ月以内に禁煙しようと考えているが1ケ月以内に禁煙する予定はない:4人→13人、1ケ月以内に禁煙する予定:3人→4人へと変化した(p<0.001)。

考察
 家族構成員に喫煙者がいる中学生の喫煙経験率は家族構成員に喫煙者のいないそれより高い傾向があり、家族構成員に喫煙者がいる中学生の禁煙教育前のKTSND総得点は家族構成員に喫煙者のいないそれより有意に高値であった。親の喫煙が小児の喫煙開始と本数増加を促すことが報告されており12,13)、家族構成員の喫煙は中学生の喫煙に対する認識を喫煙者側に移行させ、喫煙の誘因となると考えられる。親自身が禁煙する14)、もしくは喫煙に否定的に対応し15)、防煙生活を選択すること16)は思春期児童の喫煙率を低下させるので、親が喫煙せず、受動喫煙を防止する生活を子どもに示すことは次世代への喫煙の連鎖を絶つために重要である。
 男子、女子ともに喫煙経験のある中学生のKTSND総得点は喫煙経験のない中学生のそれらより有意に高値であった。しかし、禁煙教育により毎日喫煙する中学生の禁煙ステ-ジは禁煙側に移動し、喫煙経験の有無と家族構成員の喫煙者の有無にかかわらず、KTSND総得点は有意に減少した。これらの結果は禁煙集団教育が喫煙する中学生のみでなく、喫煙しない中学生においても喫煙に対する誤った認識の是正に有効であること示している。これまで報告された当地における喫煙率とKTSND総得点を単純比較してみると、小学高学年生5)、中学生、高校生10)と進学にともない増加する傾向が見られる。特に、喫煙経験のある3年男子と女子の認知の歪みは大学生3)および成人2,4)のレベルまで達しており、禁煙教育後も認知の歪みを強く保持していたことは早期からの禁煙教育の必要性を示唆している。喫煙する仲の良い友達の存在は喫煙開始のきっかけになり、喫煙本数を増加させ13)、さらに学校での高学年の喫煙行動は低学年に直接影響する17)。今回の中学生では進級により喫煙経験者が増加していた。単発的な講演の効果は一時的であることが予想されるため、中学生の喫煙の蔓延を防止し、喫煙率を低下させるために、タバコの広告規制、家族構成員の禁煙の実現、上級生や仲間から喫煙の誘いを断る技術18)の伝達、学校における早期の禁煙教育をふくめた総括的かつ継続的な喫煙対策19)などが必要と考えられる。

本論文の要旨を第17回日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会(2008年2月、横浜市)において発表した。

表1 加濃式社会的ニコチン依存度調査票
(Kano Test for Social Nicotine Dependence : KTSND) Version2
表1 加濃式社会的ニコチン依存度調査票

表2 学年別喫煙状況
表2 学年別喫煙状況

表3 喫煙経験の有無、家族構成員の喫煙者の有無別にみたKTSND総得点および禁煙教育後の変化
表3 喫煙経験の有無、家族構成員の喫煙者の有無別にみたKTSND総得点および禁煙教育後の変化

表4 喫煙経験の有無,家族構成員の喫煙者の有無によるKTSND総得点の比較
表4 喫煙経験の有無,家族構成員の喫煙者の有無によるKTSND総得点の比較

図1 喫煙経験のある中学生の禁煙ステージの変化
図1 喫煙経験のある中学生の禁煙ステージの変化

参考文献
1) 吉井千春, 加濃正人, 相沢政明, 他. 加濃式社会的ニコチン依存度調査票の試用(製薬会社編).日本禁煙医師連盟通信2004;13:6-11.
2) Yoshii C, Kano M, Isomura T, et al. Innovative questionnaire examining psychological nicotine dependence, "The Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND)". J UOEH 2006;28(1):45-55.
3) 北田雅子, 武蔵学, 谷口治子, 他. 加濃式社会的ニコチン依存度調査表Version 2を用いた防煙教育の可能性についての検討. 日本禁煙医師連盟通信 2006;15:9-10.
4) 吉井千春, 加濃正人, 稲垣幸司, 他. 加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた病院職員(福岡県内3病院)における社会的ニコチン依存の評価.禁煙会誌2007;2(1):6-9.
5) 遠藤明, 加濃正人, 吉井千春, 他. 小学校高学年生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果 禁煙会誌2007;2(1):10-12.
6) 栗岡成人, 稲垣幸司, 吉井千春, 他. 加濃式ニコチン依存度調査票による女子大生のタバコに対する意識調査(2006年度).禁煙会誌2007;2(5)
7) 星野啓一, 吉井千春, 中久木一乗, 他. 加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた小学校高学年および中学生における喫煙防止教育の評価 禁煙会誌2007;2(7)
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9) 栗岡成人, 吉井千春, 加濃正人. 女子学生のタバコに対する意識-加濃式社会的ニコチン依存度調査票Version 2による解析-. 京都医学会雑誌2007;54:181-185.
10) 遠藤明, 加濃正人, 吉井千春, 他. 高校生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果 禁煙会誌2008;3(1):7-10.
11) 吉井千春, 栗岡成人, 加濃正人, 他. 加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)を用いた「みやこ禁煙学会」参加者の喫煙に関する意識調査 禁煙会誌2008;3(2):26-30.
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Effects of anti-smoking education for junior high school students with special reference to smoking related cognition.

Akira Endo1,9, Masato Kano2,9, Chiharu Yoshii3,9, Masaaki Aizawa4,9, Fumio Kunitomo5,9, Takeshi Isomura6,9, Koji Inagaki7,9, Kenji Amagai8,9.

We studied effects of anti-smoking education for 607 junior high school students with evaluation of smoking related cognition using the Kano Test for Social Nicotine Dependence version2(KTSND). Increased smoking amongst students is associated with the presence of smoking family members. Degrees of social nicotine dependence were high amongst students ever smoked and with family members. In addition, KTSND scores increased with advancement of school year. Anti-smoking education significantly decreased KTSND scores, whilst scores remained high amongst students who ever smoked. Smoking stages were influenced by anti-smoking education. Unfortunately, amongst junior high school students who ever smoked, degrees of social nicotine dependence remained high despite participation in anti-smoking education. Nevertheless, anti-smoking education for young age-cohorts is effective for prevention of young new smokers, in addition to support mechanisms for smoking family members, by decline in social nicotine dependence and by prevention of adopting smoking behaviors.

Key words:junior high school students, The Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND), smoking, anti-smoking education.


1.Endo Kikyo Children's Clinic, Hakodate, Hokkaido 041-0808, Japan
2.Department of Internal Medicine, Shin-nakagawa Hospital, Izumi-ku, Yokohama, Kanagawa 245-0001, Japan
3.Division of Respiratory Disease, University of Occupational and Environmental Health, Japan. Yahatanishi-ku, Kitakyushu, Fukuoka 807-8555, Japan
4.Department of Pharmacy, Kitasato University Hospital, Sagamihara, Kanagawa 228-8555, Japan
5.Department of Pulmonary Disease, Chiba Rosai Hospital, Ichihara, Chiba 290-0003, Japan
6.Reset Behavioral Research Group, Atsuta-ku, Nagoya, Aichi 456-0027, Japan
7.Department of Dental Hygiene, Aichi-Gakuin University Junior College, Nagoya, Aichi 464-8650, Japan
8.Division of Gastroenterology and G.I. Oncology, Ibaraki prefectural Central Hospital and Cancer Center, Koibuchi, Kasama, Ibaraki 309-1793, Japan
9.KTSND working group in Research Group on Smoke-Free Psychology, Japan.



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《資 料》

WHO タバコ規制枠組み条約の広告規制の実行のための会議
Workshop on Implementation of WHO FCTC on advertisement


NPO法人 日本禁煙学会 理事長 作田 学

連絡先
〒162-0063 東京都新宿区市谷薬王寺町30-5-201
  作田 学
  TEL 090-4435-9673 Fax 03-5360-6736
  e-mail: manabu.sakuta@nifty.ne.jp

キーワード:タバコ規制枠組み条約、タバコ広告規制、共同社会責任、店頭広告、タバコ健康警告

 WHOのタバコ規制枠組み条約(FCTC)広告規制会議が2008年3月27日〜28日にシンガポールで開かれた。筆者はNPO法人 日本禁煙学会から派遣され、これに出席したので報告する。
 地域(東南アジア、東アジア、太平洋地域)の国の厚生官僚がNGOとともに
集まり、タバコ広告規制の実行方法を考えようという集まりだったが、残念なことに、日本は厚生官僚の出席がなかった。
 シンガポールの厚生大臣の挨拶で始まった。

(1)共同社会責任(CSR)について
 CSRというのは、Corporate Social Responsibilityということで、社会に対する責任を果たす活動を言う。具体的には奨学金や、学校の活動、あるいはNGOなどに対する援助、スポーツに対する援助などを言う。これにタバコ会社が参加するのは、絶対に許すべきではない。
 FCTC連盟(FCA)の会長であるAssunta博士(オーストラリア)の" Tobacco industry cannot conduct CSR activity! "という力強い言葉があった。
 そもそもタバコ会社のお金は人々とくに貧しい人々、女性、若者を狙っているのであり、喫煙者が病気と引き換えに払ったタバコ代から出ているのだ。
したがって、タバコ会社がCSRというのは、おこがましく、やめさせなければならない。日本ではJT将棋、バレーボール、NGOに対する援助などたくさんのものがある。
 翌日、町を歩いていたら、ホームレスが寝ていた。その大事そうに腰に結びつけている袋にはタバコの箱と吸い殻が入っていた。胸が痛む光景であるとともに怒りが沸々とわいてきたのだった。(図1

(2)店頭(Points of Sales)での広告
 これはタバコを売る場所における広告という事だ。Points of Salesにおける広告をいかに廃止したかをタイの保健省のT氏らが話した。これを我が国でも廃止に追い込めれば、おのずから自販機問題も解決するだろう。
図1.街角でホームレスが寝ていた。その腰にぶら下げた袋の中にタバコが入っていた。
図1: 街角でホームレスが寝ていた。その腰にぶら下げた袋の中にタバコが入っていた。
 フィリップ・モリスは年間250万USドルを支払い、タイのセブン・イレブンのキャッシャーのすぐ後ろの棚を買った(3000店)という。また、タイにおいて、タバコ小売り業協会の店頭広告規制に対する不満を支持した。大学の法律の教授陣を使い、公衆衛生省に挑戦した。国会の委員会で苦情を申し立てた。公衆衛生省を訴えると脅したという。しかしながら、セブン・イレブンの重役会の顧問がプラキット博士に電話をかけてきて、「社会の圧力が強まってきたので、我々は手を引く。われわれはPOSを禁止する正当性について確信してはいないが。」と言ったという。

(3)健康警告でやってはいけないこと
 下記のような事例があげられた。
1.あいまいで、効果のない警告。
 たとえば、「タバコはあなたの健康に害があることもある。」
2.一般的な警告。
 「喫煙はあなたの健康に危険です。」
3.一つか二つの警告だけを行う。
4.外国語の健康警告。
5.一側だけに警告表示をする。
6.いくつかの会社だけに従う事を求める。
7.タバコ産業に字の警告か絵の警告かを選ばせる。
8.タバコ産業にデザインや健康警告を弱めることを許す。
9.タバコ産業に遅延、遅延、遅延を許す。
 ニコチンやタールのレベルは人体への曝露や健康危険には関係がないこと、またタバコ産業はこの情報を印刷することを政府に示唆することを忘れてはならない。

(4)健康警告表示でタバコ産業が取る妨害策
 これは各国で次のような事例があるという。
1.WTOやGATT などの貿易法を使うと脅す。
2.裁判を起こすと脅す。
3.その国から工場を他国へ移すと脅す。
4.失業すると脅す。
5.印刷機がカラーを印刷するには足りないと訴える。
6.もっと時間が必要だと訴える。

(5)タバコ産業の反対
 これには以下のような事を含む。
1.グラフィックは要求されていない。字だけで十分である。
2.健康警告のサイズは増やす必要はない。
3.トレードマーク、知的財産への干渉である。
4.条約実行には長時間が必要である。
5.グラフィックの健康警告は喫煙の普及には影響を与えない。
6.グラフィックが嫌なので、喫煙者は違法な取引に向かうだろう。

(6)効果的な健康警告
 これには以下のような事を含む。
1.効果的なタバコの健康警告は公衆衛生教育のために素晴らしく効果的で、しかも金がかからない。
2.政府に一銭もかからずにすべての国民に到達することができる。
3.禁煙を励ますことになる。
4.こどもたちが吸い始めるのを防ぐ効果がある。
5.包装のウソの情報を防ぐことができる。
6.タバコの箱を持つことは正常なことではない。
7.POSの効果を少なくできる。

(7)各国の報告
 各国のレポートを10分ほどずつ、皆の前で話した。(図2
 各国の抱える問題とAritcle 13をいかに実行させていくかという熱の入ったセッションであった。

(8)おどろき
 ともあれ、いかに日本が遅れているかを痛感するばかりの二日間だった。インドネシアと同じようなものだろうと思っていたが、インドネシアはデッドラインの2010年2月までに法律でタバコの広告を規制するということを聞き、驚くばかりだった。
 表現の自由をJTは良く言うが、表現の自由はタバコの及ぼす人間の生命など基本的人権よりも下位の概念であり、ごまかされてはならない。同様に、受動喫煙から守る事は生存権など基本的人権を擁護する事であり、それにくらべて喫煙をする権利はコーヒーを飲む権利と等しく、両者を比較する事など馬鹿げている。

(9)FCTC第13条 広告規制のガイドラインについて現在ジュネーブのWHOで詰めつつある詳細をニュージーランドのAllen Clarkさんから報告があった。
図2 Country reportを話しているところ。
図2: Country reportを話しているところ。
1.総合的な禁止であること。
 世界銀行は「広告とプロモーションの禁止はそれが総合的であって、すべてのメディアを包含することと、ブランドネームとロゴを禁止できてはじめて効果的となる。・・・もし政府が1〜2のメディアだけを禁止すれば、タバコ産業はその広告をただ移すだけであり、効果はないだろう。」と言っている。
2.ガイドラインが包含する広告方法
 テレビ、ラジオ、印刷物、インターネットなどであり、国内だけでなく国外からあるいは国外への広告も同様に禁止する。
3.誰が罰せられるか
 広告料をはらう、タバコ産業。広告を作る広告業の人間。広告を運ぶ人間(雑誌やインターネットのホスト)。タバコ産業の活動に加わる人間(スポーツチーム、フィルムスター)。アクセスを盛んにする人間(インターネットのサーチエンジン)。
4.表現の自由とのバランス
 ジャーナリスト、作家などの表現の自由は認めるが、制限を加えられる。
たとえば、タバコ産業によって行われている場合(利益相反)。
 これらのガイドラインは4月上旬にインドのデリーでドラフトガイドラインを作成し、COP3の半年前に各国に送られ、締約国のコメントを貰う。ドラフトガイドラインはCOP3の4ヶ月前にFCTCの事務局に送られる。2008年11月のCOP3に提出し、締約国が採用し、各国で履行する予定になっている。

(10)レポートカード
 レポートカードというのは、A4の用紙6枚程度に各国のNGOが現状をまとめたものである。これがあれば、タバコ問題に詳しくない国会議員、都道府県会議員などにも容易に訴える事ができる。オーストラリアや中国の代表(図3)から勧められ、ぜひ我が国でも作りたいと思った。
 またそれを英訳すれば、容易に各国の代表団に我が国の惨状を伝える事もできよう。これには決まった形式があり、比較が容易にできるように工夫されている。できれば5月31日までに作りたいものである。

References:
1. WHO: World No Tobacco Day 2004.
http://www.who.int/tobacco/communications/events/wntd/2004/en/factsindividuals/en.pdf
2. The World Bank: Curbing the Epidemic. Governments and the Economics of Tobacco Control. World Bank, Washington DC, 1999.
3. Hammond D, et al: Impact of the graphic Canadian warning labels on adult smoking behavior. Tobacco Control 2003; 12:391-395.
4. Food and Agriculture Organization: Projections of tobacco production, consumption and trade to the year 2010.
ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/006/y4956e/y4956e00.pdf
図3 中国の代表と
図3: 中国の代表と
5. The Tobacco Institute: The Development of Tobacco Industry Strategy, 23 June 1982.
http://tobaccodocuments.org/landman/178114.html
6. Collin J and Gilmore AB: Tobacco industry accused of corrupting ideals of corporate social responsibility, London School of Hygiene & Tropical Medicine.
http://www.lsthm.ac.uk/news/2002/tobaccoindustry.html
7. World Health Organization: Tobacco industry and corporate responsibility--- an inherent contradiction.
http://www.who.int/tobacco/media/en/tob-industry.pdf




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《WAT特集》

WALK AGAINST TOBACCO
2006
WEEK 10 REVISITED

Mark Gibbens

 なぜ、歩こうと思ったか
 鹿児島の佐多岬から、北海道の宗谷岬までの約3000kmを歩いて、このメッセージを伝えていきたいと考えています。

 あなたの健康を大事にして下さい。
 あなたの家族を大事にして下さい。
 あなたの友達を大事にして下さい。
 あなたの国 を大事にして下さい。
 禁煙は愛です!


 なぜ私がこのキャンペーンを計画したか、それは私はオーストラリアから来ています。オーストラリアは喫煙率の低い国です。でも、昔からではありません。人々が喫煙、受動喫煙の危険を知り、今の数字になっていったのです。政府はとても明確な喫煙の害のCMを流し、タバコの表示も写真付きでわかりやすくしています。タバコ税も高く、建物、バーであっても禁煙エリアは何%と法律で決まっています。
 今、世界の多くの国が禁煙の動きになってきています。政府の広告も日本に比べ、とてもはっきりと喫煙の危険を警告しています。
 ところが、日本は成人男性の47%が喫煙者と、驚く数字です。
 また、若い女性の喫煙率は増えていっているようです。
 これは、喫煙、受動喫煙の危険性の認識がそれほど重要視されてないからではと思いました。ただ、体に悪いとは知っていても、どう悪いのかといった知る機会がない。三度の食事より口にするのに何が成分でそれはどう体に影響する、またその煙の方が害があるのに、その影響もあまり知られていない。吸う人も吸わない人もそこを知る機会もなく、禁煙、分煙と言われてもただ困惑し、憤慨すると思います。それを知るべきだ、知ってもらいたいと歩く事にしたのです。
 また、私自身が主にICUの看護師でした。多くの医師、歯科医師が禁煙を推進しています。吸い続ける事がどんな事になるか、知っている私達が教えてあげなくてはいけない。治す事だけが、医療ではなく予防をする事も医療だと思います。こうして、歩くことも私の日本においてできる看護師としての仕事の一つと考えています。
 こうして、歩く事ははたして意味があるのかと思われるかもしれません。でも、何もしないよりした方がいいと思っています。このメッセージが一人でも多くの人に伝わるきっかけになればいいなと願い、遍路姿で歩きます。


前号からの続き―

 “The longest day”, inspired by the Mayor of Yaita Town, Tochigi Prefecture and his youthful stories of his school’s 85km walk in 24 hours challenge saw me double up on 2 days walking and allow myself an extra rest day to again catch up on my web page entries.
 Thus I set out on Day 64 from Dr Tanaba's house and met up with Ms Murai at the Prefectural Office at 7:30am and headed north along the river and out of Morioka City. One hour and 5km later I was saying goodbye to Ms Murai and shortly after received an unexpected walking companion. An Engineering Professor from Iwate Prefectural University, who had passed me on the local bus on his way to work, had read about me in the newspaper and got off at the next bus stop to walk with me. After about 3km he also bid me good luck and farewell as he now had to catch a taxi to arrive at his University class on time. He departed saying he was inspired to do more to stop people smoking at his University, so maybe I am having some small impact in this country.
 From here the day wore steadily on as I grinded out the kilometres alone under a cloudy sky, very much in the countryside now and perhaps the best day yet for viewing the rainbow of colours displayed by the road-side and garden flowers. The first two hours had been at 5km/hr pace but after that it was 6km/hr all the way with a couple of 5 minute convenience store stops to break the routine and re-energize. By 3:30pm I realized I needed to up the pace again, changing gear to 7km/hr for the final 6 hours. Four of which were spent splashing along roads turned into rivers by a sudden and continuous rain which had covered most of the country according to weather reports.
 At 9:30pm, in a darkness illuminated only by the red flashing glow of my safety lights and the occasional white glare of passing traffic, I arrived cold and wet at my destination, the 88km marker from Morioka after 14 hours of walking, just tipping into Aomori Prefecture. Thus achieving in one day, a kilometre of walking for each of Kobodaishi’s 88 Temples on my home island of Shikoku. I was retrieved by Reiko in the support vehicle and returned 10km by car to our hotel in Ninohe Town for a hot bath and a cup of tea, very satisfied with my day's walk.
 The next day as promised, I rested. Apart from brief excursions outside for a delicious Italian lunch in a no-smoking Italian restaurant and a less enjoyable dinner in a smoky inn, I spent the day glued to the computer, uploading pictures to my homepage galleries, a task which was weeks behind.
 On Day 66 with 75% of the walk completed, I set off in the late morning from my starting point 10km north of Ninohe and connected at 1pm with Dr Kuba and Mr Tsunokane and their small group of walkers, outfitted with anti-smoking bibs and flags and continued on with them for another 20km. About 5km short of our Hachinohe Museum goal, I was pleasantly surprised to round a bend and find one of my strongest supporters, Dr Pink waiting by the road with Reiko. She had flown up from Osaka to see us and her Aomori friends. Her smiling face and infectious laughter were a big boost for the day and we easily completed the last few kilometres. The day finished with a dinner meeting at Dr Kuba's clinic/house with his family and friends and a chance to enjoy sushi and hear the latest no-smoking news from Dr Pink.
 June 18th was our Hachinohe rest day and started after breakfast at the City’s Culture Centre with a no-smoking presentation by Dr Kuba to about 120 guests, with today's surprise visitor being Dr Tamura from Kitakami who had arrived to listen firstly to Dr Kuba and then to my “Truth Is Out There” presentation with Reiko, highlighting the kinds of anti-smoking information being advertised by governments around the world.
 At 11:30am, about 40 members from Dr Kuba's NPO group and the local walking group gathered, armed themselves with anti-smoking bibs, placards and flags and we all set off on a 6km walk around Hachinohe City, with Dr Pink on hand to lead the slogan chanting. The walk included the main shopping street, three main shrines and concluded in the park behind the culture centre, with the cooking and eating of a local speciality, sembei ramen, and the singing of traditional songs to the accompaniment of Mr Tsunokane's harmonica.
 Day 68's morning commenced with a school visit and a 40 minute presentation on the dangers of smoking, to 150 grade 5 primary school students who listened carefully and surprised us with their high level of knowledge and questions. Saying goodbye to Dr Kuba who had kindly answered the more difficult questions, we headed across town to start the days walk.
 At 9:30am, Mr Tsunokane and I set off from Hachinohe Museum and stopped two hours later for an early lunch. Walking on through the afternoon I was regularly overflown by military aircraft who were obviously taking North Korea’s missile threats seriously. It's unfortunate that the Japanese Government doesn't take the threat of tobacco as seriously. To date tobacco has claimed more Japanese lives than any Korean missile! By 6pm I had completed today's 44km and with Reiko, headed to our home stay in Shichinohe, at the house of Mr and Mrs Temma where we were later joined for dinner by the Tsunokanes.
 On June 20th, with the support of Dr Araiya, the Tsunokanes and Mrs Temma we started the morning with a special presentation to the Mayor of Shichinohe, in recognition of his making all 38 public buildings “no-smoking”, despite opposition from tobacco lobbyists. An uneventful day saw us arrive at Yokohama Town Office at 4pm after a 44km walk to be introduced to Mayor Nosaka by our home stay host and town office executive Mr Nagayama. Along with his friends, Mr “Sunshine” and another Mr Temma, we were made to relax in the Mayor's office with iced coffee, whilst a TV news team recorded proceedings and interviewed me afterwards. It was then back to Mr Nagayama's house to enjoy our first bar-b-que of the walk with the same friends who had greeted us at the Town Office. We were treated to a feast of local seafoods including scallops, crabs and sea-escargot, as well as Aussie beef and finishing with fried noodles and a sing-a-long to Mr Tsunokane's harmonica.
 The last day of week 10 started on a pleasant morning with a send off from the Town Office by Mayor Nosaka and 5km later an ice-cream stop at Mr Sunshine's gift shop and restaurant en route to Ohata. We stopped briefly in Mutsu City to meet with Dr Ogura outside his hospital before pushing on through Ohata Town and adding another 10km to the days walk before returning to Mutsu City for a one hour radio interview/discussion which included Dr Ogura, Mr Tsunokane, Reiko (who has become quite an anti-smoking expert) and myself. Following this another welcome party with Dr Ogura's NPO group, including city officers, doctors and a TV presenter at the local minshuku which had been organised for our stay. This was to be our last night on Honshu Island and I went to sleep with thoughts of walking across Hokkaido.
 That story, I will tell you about next time.

To be continued・・・

写真1 八戸へ向かう久芳先生、角金先生、沖縄まで歩こう会の皆さん


写真2 6月16日八戸博物館で久芳先生と


写真3 久芳先生宅にホームステイ(撮影:ピンク先生)


写真4 八戸市内でNPOやウォーキングの会の皆さんとアピール後


写真5 6月19日 八戸の小学校でお話


写真6 6月19日 天間さん宅にホームステイ


写真7 公共の建物内禁煙とした七戸町


写真8 ホームステイ先永山さん宅で特製焼きそばやシーフード料理


写真9 横浜町役場で野坂町長さんと


写真10 Mr.サンシャインのドライブイン ほたて観音像と
参考サイト:Walk Against Tobacco 2006 (Galleryにいろいろな写真があります)
※WAT:WALK AGAINST TOBACCO


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日本禁煙学会の対外活動記録
(2008年4・5月)
4月11日 最高裁判所長官および横浜地方裁判所長に対して、「横浜たばこ病訴訟」について、裁判官全員が異動となり、かわって「第一次たばこ病訴訟」で原告敗訴の判決を下した際の右陪席裁判官や、当時最高裁で「上告棄却」をまとめる役割を果たした裁判官が担当となったことについて、人事の改善と見解を正す「国民の公正な裁判を受ける権利」を求める申し入れを行いました。
http://www.nosmoke55.jp/action/0804yokohama_sosyou.html


日本禁煙学会雑誌
(禁煙会誌)
ISSN 1882-6806

第3巻第3号 2008年6月1日

発行 特定非営利活動法人 日本禁煙学会


〒162-0063
新宿区市谷薬王寺町30-5-201 日本禁煙学会事務局内
電話 090-4435-9673
ファックス 03-5360-6736
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