禁煙会誌 第3巻第5号 2008年10月10日


目次



《原著論文》 中電病院禁煙外来における禁煙成績 平賀裕之
 
《原著論文》 日本と台湾の歯学部学生の喫煙状況と社会的ニコチン依存度 稲垣幸司
 
《総 説》 タクシー全面禁煙化に向けて  ―タクシー車内喫煙の法的規制を― 栗岡成人
 
《特別寄稿》 第3回日本禁煙学会学術総会 特別講演1(2008年8月9日)
タバコ産業とCSR(企業の社会的責任活動):挑戦と新しい問題、そして最良の解決法
メアリー・
アスンタ Ph.D.
 
《特別寄稿》 第3回日本禁煙学会学術総会 特別講演2(2008年8月9日)
タバコ依存症の最新治療
リチャード・ハート M.D.
 
《資 料》 平成19年度千葉県委託・喫煙防止出前健康教室事業
市民団体と地方自治体との共同活動 2年目の実践報告

大谷美津子
 
《資 料》 近隣からの受動喫煙に対する対応例 岡本光樹
 
《資 料》 千葉県内主要地区飲食店の無煙環境調査結果 紅谷 歩
 
《短 報》 東京都内主要駅周辺デパート等の飲食店街の無煙環境調査結果 中久木一乗
 
《資 料》 WALK AGAINST TOBACCO 2006 WEEK 12 REVISITED Mark Gibbens
 
《記 録》 日本禁煙学会の対外活動記録(2008年8・9月)

日本禁煙学会雑誌第3巻第5号 2008年10月
第3巻第5号PDF版
(2,007KB)




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《原著論文》

中電病院禁煙外来における禁煙成績

本通トータルヘルス内科クリニック
(元中国電力(株)中電病院内科)
平賀裕之

連絡先
〒730-0035 広島市中区本通7-29 アイビービル3F 本通トータルヘルス内科クリニック
  平賀裕之
  TEL 082-247-1588 FAX 082-247-7270
  e-mail : hondori-total-health@future.ocn.ne.jp

キーワード:禁煙治療、禁煙成功率、禁煙外来

1.緒言
 タバコは肺癌をはじめとして喉頭癌、口腔・咽頭癌、食道癌、腎癌、膀胱癌など多くの癌や、虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、歯周病、さらに低出生体重児や流・早産など妊娠に関連した異常の危険因子である1-3)。一方、これらの健康影響は、禁煙することによりリスクが小さくなるということが、フラミンガムスタディ等により示されている4-7)。2005年に日本循環器学会、日本肺癌学会など禁煙関連9学会による「禁煙ガイドライン」が公開され、「喫煙は喫煙病という全身疾患であり、喫煙者は“積極的禁煙治療”を必要とする患者である」8)という認識が示された。さらに2006年4月から禁煙治療に健康保険が適用となり、同年6月から禁煙補助剤であるニコチネルTTSも薬価収載された。われわれも職場における喫煙対策や9)、社内イントラネットを用いた禁煙支援を行なってきたが10、11)、2006年6月中国電力株式会社中電病院において健康保険適用の禁煙外来を開始した。今回その禁煙成績を検討したので報告する。

2.対象と方法
 2006年6月1日から2007年10月23日までに中国電力株式会社中電病院の禁煙外来を初診した全103名(男性71名、女性32名)のうち、保険適用にて禁煙支援を開始した102名(男性71名、女性31名)を対象とした。男性の平均年令は56.9±12.4歳(mean ± SD)、ニコチン依存症のスクリーニングテストであるTobacco Dependence Screener (TDS)は8.1±1.5、ブリンクマン指数は964±634であった。女性の平均年令は49.5±15.1歳、TDSは8.2±1.5、ブリンクマン指数は601±345であった(表1)。
表1.対象の背景
  人数 年令(歳) TDS ブリンクマン指数
男性 71 56.9±12.4 8.1±1.5 964±634
女性 31 49.5±15.1 8.2±1.5 601±345
mean ± SDで表記。TDS:Tobacco Dependence Screener

 「禁煙治療のための標準手順書第1、2版」12)に従い、3か月間で計5回の受診をしていただき禁煙支援を行なった。スタッフは医師1名、専任看護師1名である。禁煙外来の初診は毎週火曜日午後に完全予約制で行ない、2回目以降の受診は担当医師の一般外来枠で受診者の都合にあわせ予約を取った。院内の掲示や禁煙外来のお知らせパンフレット、病院のホームページに禁煙外来予約電話番号を記載しておき、受診希望者はそこへ電話をかけ予約をとる。健康保険適用の条件も一緒に記載し、受診者は自分で適用となるかわかるようにした。よって禁煙外来受診は受診希望者の意志のみで決まり、われわれ医療サイドの選択といったバイアスはかかっていない。中国電力職員に対する禁煙支援は健康管理センターが独自に行なっており、禁煙外来へは一般市民が受診し、中国電力職員の受診は数名のみであった。
 支援内容は標準手順書とほぼ同様であるが、これまでの職域での禁煙支援の経験からパンフレットを独自に作成し、初診時にお渡しした(図1,2)。パンフレットのポイントは「がまんの禁煙ではなく意識改革の禁煙」である(図1)。タバコの害の話はほとんどせず、禁煙後のメリットを強調した。アメリカ肺ガン協会による禁煙後の身体的改善についての資料や、職域での禁煙支援で禁煙成功した人の「禁煙してよかったこと」のアンケート結果を示した(図2)。野球アニメ主題歌の例えを示し、タバコをがまんするのではなく、「禁煙した後の新しい人生を楽しみに思う気持ち」を大切にする前向きな禁煙を指導した13)。吸いたくなった時の克服法としては、水やお茶と飲む、体操する、歯を磨くなどに加え、必ずミント系タブレットであるフリスクRを持っておくようお勧めした。吸いたいという衝動が襲ってきたら、それはたった3分なので、水を飲む、散歩するなどあらかじめ戦略として考えていた方法でうまく気分をまぎらわせるよう指導した。ここでも「がまんではなく、気分をまぎわらせる」ということを忘れないようにと強調した。禁煙宣言書やご家族へのお手紙などもあり、初診時にお渡しするパンフレットは19ページに及ぶ。さらに、封筒に入れた資料をいくつか準備し、禁煙開始後1日目、3日目、1週間後にそれぞれ開封して読むようお渡しした。標準手順書に従い2回目の禁煙外来受診が2週間後となるため、その間のモチベーション維持を狙ったものである。封筒資料はその後も3週間後、6週間後、10週間後と受診の谷間となるところにも準備した。

図1.意識改革の禁煙とは
図1.意識改革の禁煙とは
PDFファイル75KB
禁煙といえば「タバコをがまんする禁煙」を一般的には思い浮かべるが、がまんは長続きしにくいため、「タバコは必要のないもの」との気づきを促す「意識改革の禁煙」が重要である。
図2.タバコをやめた後のメリット
図2.タバコをやめた後のメリット

PDFファイル253KB
タバコの害よりタバコをやめたあとのメリットを強調する。「前向きな禁煙」を意識させ、「禁煙することが楽しみ」との気持ちを持たせる。

 禁煙外来の所要時間は初診時のみ約1時間かけ、2回目以降は5分程度の支援を行なった。初診時の最初の30分を専任看護師が指導し、残りの30分を医師が指導した。2回目以降は医師による指導のみである。初診時にはタバコに対する意識改革や禁煙へのモチベーション維持について、パンフレットを用いた支援を行なうため、時間はどうしても1時間程度かかったが、2回目以降は呼気中一酸化炭素濃度の測定、禁煙モチベーションの維持とちょっとしたアドバイスのみであり、時間はそれほどかからなかった。苦しくなったり、ニコチンパッチの副作用出現時などは病院へ電話するよう指示し、その場合は専任看護師が対応した。
 希望者にはニコチンパッチを処方した。ほぼ全例ニコチンパッチを使用開始している。使用方法は標準手順書12)のごとく、30を4週間、20を2週間、10を2週間としている。ほとんどの対象者がマニュアルどおり8週間をかけ漸減し終了しているが、中には早めに終了した人もあった。
 初診3か月後の5回目の受診が終了した後、結果を集計した。5 回終了時点で禁煙しており、5 回終了時からさかのぼって少なくとも4 週間以上、禁煙を継続している人をもって禁煙できていると判断した。受診時にはスモーカライザーにて呼気中一酸化炭素濃度を測定し禁煙を確認した。

3.結果
 全102例のうち、5回目まできちんと受診し禁煙支援プログラムを終了した人は81名であった。そのうちスモーカライザーで禁煙を確認できた人は80名で、いずれも最低8週間以上の禁煙継続者であった。5回目まできちんと受診したが、禁煙成功できなかった人が1名。5回の受診に至らず禁煙支援プログラムが終了できなかったが、初診3か月後の電話調査にて禁煙成功を確認した人が12名。5回の受診に至らず禁煙支援プログラムが終了できず、さらに電話調査でも禁煙を確認できなかった人は9名で、中には禁煙できている人も含まれているかもしれないが全例を禁煙失敗と判定した。その結果、スモーカライザーで禁煙成功を確認した禁煙成功率は80/102で78.4%であった(表2)。電話で禁煙成功を確認した人を含めた禁煙成功率は92/102で90.2%であった(表2)。
 男女別に検討すると、男性では71名中、5回目まできちんと受診し、スモーカライザーで禁煙を確認できた人が57名。5回の受診に至らず禁煙支援プログラムが終了できなかったが、初診3か月後の電話調査にて禁煙成功を確認した人が7名。合わせて64名で禁煙成功率は90.1%であった。5回目まできちんと受診したが、禁煙成功できなかった人1名は男性であった。
 女性では31名中、5回目まできちんと受診し、スモーカライザーで禁煙を確認できた人が23名。5回の受診に至らず禁煙支援プログラムが終了できなかったが、初診3か月後の電話調査にて禁煙成功を確認した人が5名。合わせて28名で禁煙成功率は90.3%であった。
 「5回の禁煙支援プログラムを終了した者」を分母とした場合は、81人中80人が禁煙成功しており、禁煙成功率98.8%であった(表2)。
表2.禁煙成功率
スモーカライザーで禁煙成功を確認した人の禁煙成功率 102人中80人 78.4%
電話で禁煙成功を確認した人を含めた場合の禁煙成功率 102人中92人 90.2%
5回の禁煙支援プログラムを終了した者の中での禁煙成功率 81人中80人 98.8%

 初診時の約1時間の禁煙外来指導が終了する時点ですでに「禁煙できそう」とか「禁煙するのが楽しみ」といった発言がみられることが多く、そういう人はそのまますんなり禁煙できていた。また、うつ病などメンタル疾患加療中の人が8名含まれていたが、メンタル疾患のない人と同じように禁煙成功に導くことができていた。しかし、メンタル疾患を有する症例では、禁煙外来受診時以外に苦しくなったとの相談電話が多く、専任看護師の禁煙外来時間以外の対応を必要とする場合があった。
 中電病院の禁煙外来を初診した全103名のうち、保険適用の対象からはずれた1名は14歳の未成年者であり、ブリンクマン指数が保険適用の基準を満たさなかったため自費にて禁煙支援し、3か月後禁煙成功しているが、この集計には含んでいない。

4.考察
 今回、中電病院禁煙外来における保険適用後約100例支援した時点での成績を示した。平成18年度中央社会保険医療協議会の禁煙成功率実態調査報告14)や、日本禁煙学会認定専門医による禁煙治療成績15)に比べ、今回のわれわれの成績は禁煙成功率が90.2%と著明に高い禁煙成功率を示すことができた。5回の受診がなく電話調査での禁煙成功を確認できない場合をすべて禁煙失敗と判断した数値であり、現実にはさらに高い禁煙成功率であると考えられる。さらに「5回の禁煙支援プログラムを終了した者」を分母として禁煙成功率を示した場合は、81人中80人が禁煙成功しており、成功率98.8%と驚異的な数字となる。
 禁煙支援の内容は標準手順書とほぼ同様の内容なのであるが、そこに職域での禁煙支援の経験から生まれた独自の禁煙支援概念を加味したことが、この成功率をもたらしたものと考える。対象と方法で述べたその概念は日本禁煙学会編の「禁煙学」16)に記しているが、簡単に説明する。
 まずは「禁煙しなさいと言わない禁煙支援」の概念である。禁煙外来受診者に自分の将来を考えた時、今自分はどうするべきかを考えさせ、意識改革を行ない、「自分にはタバコは必要ないもの」だということに気付かせる。この気付きを促す支援を行なう限り、われわれ支援者側は「禁煙しましょう」とか「タバコをやめなさい」という言葉を発することはない。「禁煙する」という言葉が禁煙しようとする人の方から出てくるように導くのである。また一般に禁煙というとタバコを我慢する禁煙をしてしまうが、「あなたにとってタバコはもう必要なく、タバコのない新しい人生をスタートさせましょう」とお話し、「がまんの禁煙ではなく意識改革の禁煙」をいつも強調している。
 次に「敵を知り己を知れば百戦危うからず」である。タバコという敵のニコチン依存のメカニズムを理解し、自分(己)がどのような状況でタバコを吸いたくなるかを把握しておくことは禁煙を成功させる上で重要である。まさしく禁煙は戦(いくさ)であり、その戦略が必要となる。苦しくなった時の対処法を一緒に考えておくことはまさしく戦略そのものである。
 禁煙外来を開始するにあたっての問題点として、指導する医師の時間確保がある。今回担当医師がそれまで心エコー検査を行なっていた火曜日午後の時間を禁煙外来の時間とした。技師へ心エコー手技を指導し心エコー検査が行えるようにすることで医師が禁煙外来へ回れる時間を確保した。同時に病院長など上層部に「予防医学としての禁煙外来の重要性」を話し、禁煙外来開始に理解を求めた。その地道な努力は禁煙外来保険適用のための病院敷地内禁煙へとつながった。
 禁煙外来では標準手順書に従った間隔で3か月間に計5回の受診をすることとなるが、なかなか5回最後までの受診に至らない場合がある。われわれは5回受診の重要性を初診時に話し、5回最後まできちんと受診するようお願いした。初診時にお渡しするパンフレットの1枚はこの5回受診についてのものである。受診のたびに次回の受診予約をとるようにし、さらに、予約日に来院のなかった場合は本人へ電話をかけ受診を促した。
 一般に精神疾患で治療中の人は禁煙成功が難しいといわれている17)。今回のわれわれの対象者にもうつ病などメンタル疾患加療中の人が8名含まれているが、メンタル疾患のない人と同じように禁煙成功に導くことができている。しかし支援した実感からすると、やはり精神疾患のある場合は禁煙外来3か月間受診中の電話相談が多く、通常の支援に比べ、より多くの時間的・精神的労力を費やす必要があるようである。
 図2にあるように、禁煙成功者の声は有用である。「咳が止まった」とか「家族から尊敬される」といった声に共感・あこがれを抱き、数ある禁煙後のメリットの中で、自分はこれが楽しみといった前向きな禁煙が行えている。「その楽しみをしっかり忘れないでください」と話し、禁煙中苦しくなった時に初診時の気持ちを思い出してもらうことも禁煙に有用である。「禁煙しなさいと言わない禁煙支援」で、禁煙しようと思ったのは本人・自分自身であり、人から無理やりやめさせられたわけではないということを自覚し、「がまんではなく前向きな意識改革の禁煙」を意識し実践するよう指導している。

5.結語
 中国電力(株)中電病院の禁煙外来における禁煙成績を示し、その高い成功率の要因は、「がまんの禁煙ではなく意識改革の禁煙」という独自の禁煙支援概念にある可能性が考えられた。

参考文献
1) 健康日本21企画検討会: 健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動について) 健康・体力づくり財団、東京, 2000.
2) 厚生労働省ホームページ: 21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21) http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/top.html
3) Hirayama T: A large scale cohort study on the effect of life styles on the risk of cancer by each site. Gan No Rinsho. , 1990; 233-242.
4) Kannel WB: Some lessons in cardiovascular epidemiology from Framingham. Am J Cardiol 1976; 37: 269-282.
5) Wolf PA, D'Agostino RB, Kannel WB et al: Cigarette smoking as a risk factor for stroke. The Framingham Study. JAMA. 1988; 259: 1025-1029.
6) Abbott RD, Yin Y, Reed DM et al: Risk of stroke in male cigarette smokers. N Engl J Med. 1986; 315:717-720.
7) Hirayama T: Life-style and Mortality. A large scale-based cohort study in Japan. Basel Krager, 1990.
8) 日本循環器学会等合同研究班:禁煙ガイドライン. Circulation Journal 2005;69. Supple. :1006-1103.
9) 平賀裕之、網岡徹、梶原剛ら: 空間分煙における喫煙本数の変化について.広島医学 1998; 51: 1026-1028.
10) 平賀裕之、保田孝治、佐野敏明ら: 社内イントラネットを用いた禁煙支援(第1報). 広島医学 2004; 57: 39-42.
11) 平賀裕之:どのような人が禁煙に成功しやすいかー社内イントラネットを用いた禁煙支援(第2報). 広島医学 2004; 57(7): 606-610.
12) 日本循環器学会・日本肺癌学会・日本癌学会編:禁煙治療のための標準手順書第2版. 2007年
http://www.j-circ.or.jp/kinen/anti_smoke_std/anti_smoke_std_rev2.pdf 
13) 平賀裕之:野球アニメ主題歌に見る目標達成までの意識の違い-禁煙支援における有用性―. 第2回日本禁煙学会学術総会抄録. P74.
http://www.nosmoke55.jp/gakkai/200708/0708jstc_council.pdf
14) 平成18年度診療報酬改定結果検証に係る調査「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率実態調査」報告書(案). 2007年
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/04/dl/s0418-3d.pdf 
15) 山本蒔子:日本禁煙学会認定専門医による禁煙治療成績. 禁煙会誌 2007;2(8).
16) 日本禁煙学会編:禁煙学. 南山堂. 東京、2007, 126-129.
17) Wilhelm K, Wedgwood L, et al. Smoking cessation and depression: current knowledge and future directions. Drug Alcohol Rev. 2006; 25: 97-107.


Efficacy in smoking cessation program established in Chuden Hospital

Hiroyuki Hiraga
Hondori Total Health Medical Clinic

We evaluated one hundred two outpatients who visited the smoking cessation clinic at Chuden hospital from June 1st 2006 to October 23th 2007. A profile of the patients is as follows: 71 male (56.9±12.4 years old) and 31 female (49.5±15.1 years old). The number of patients who completed three-month session was 81 (79%), whereas 21 patients did not. Among the 81 patients who completed the session, 80 patients quit smoking; the success rate at the end of the treatment was 98.8%.

Key words: smoking cessation, smoking cessation rate, smoking cessation clinic


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《原著論文》

日本と台湾の歯学部学生の喫煙状況と社会的ニコチン依存度

稲垣幸司1, 2, 13、林 潤一郎2、丁 群展2、野口俊英2、千田 彰2、花村 肇2、森田一三2、中垣晴男2、小出龍郎2、謝 天渝4
栗岡成人5, 13、遠藤 明6, 13、大谷哲也7, 13、天貝賢二 8, 13、原 めぐみ9, 13、Boyen Huang10、吉井千春11, 13、加濃正人12, 13


1. 愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科
2. 愛知学院大学歯学部
3. 愛知学院大学保健センター
4. 高雄醫學大學
5. 城北病院内科
6. 医療法人社団えんどう桔梗こどもクリニック
7. 国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部
8. 茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター消化器内科
9. 佐賀大学医学部社会医学講座予防医学
10. 西オーストラリア大学歯学部
11. 産業医科大学呼吸器内科
12. 新中川病院内科
13. 禁煙心理学研究会:加濃式社会的ニコチン依存度(KTSND)ワーキンググループ

連絡先
〒464-8651
名古屋市千種区末盛通り2-11 愛知学院大学歯学部歯周病学講座
  稲垣幸司
  TEL: 052-759-2150  FAX: 052-759-2150
  E-mail: kojikun@dpc.aichi-gakuin.ac.jp

キーワード:歯学部学生、喫煙、加濃式社会的ニコチン依存度 (KTSND)、台湾

1. はじめに
 2005年国民健康・栄養調査によると、成人の喫煙率は徐々に低下し、7,541名の調査で男性39.3%、女性11.3%と男性でようやく4割を下回った段階である1)。しかし、喫煙者の年齢層別比率は、男性は30歳代が最も高く54.4%、20歳代で48.9%と依然高率で、女性も30歳代が最も高く19.4%、20歳代で18.9%と若い年齢層では逆に増加傾向にある1)
 一方、医療従事者の喫煙率は、2004年日本医師会員調査によると、医師(3,633名)は、男性21.5%、女性5.4%2)、2006年日本看護協会調査によると、看護師(3,486名)は、男性54.2%、女性18.5%と報告されている3)。すなわち、医療従事者を対象とした喫煙率調査では、一般成人に比較し医師では男女ともに低いが、看護師では男女ともに高いことが示されている。
 しかし、口腔保健にかかわる歯科医師、歯科衛生士に関する大規模な調査報告はみられない。歯科医療従事者の喫煙率は、歯科医師(545名)で、男性28.7%、女性1.6%4)、日本歯周病学会評議員(145名)で、男性13.0%、女性8名には喫煙者はいなかった5)と報告されているにすぎない。さらに、歯科医師になる前の歯学部学生に関する調査は、散見される程度である6-8)。すなわち、某歯科大学1~6年生580名の喫煙率32.9 %6)、某大学歯学部3、5年生149名中の喫煙率19.4%7)、某大学歯学部5年生104名中の喫煙率44.2%8)と報告されている。 その後、2006年度厚生労働省研究班の調査では、保健医療系の学生、すなわち、医学部19校、歯学部8校、看護学部28校、栄養学部13校の4年生学生を対象にアンケートを実施し、計6,312名(医学部1,590名、歯学部677名、看護学部2,545名、栄養学部1,500名)から回答を得た。その結果、歯学部学生は、男子62%、女子35%と最も高いことが報告されている9)
 一方、台湾の喫煙率に関する報告は検索する限りではみられないが、中国として、1998年の国勢調査で、成人男性53.4%、女性4.0%となっている10)。学生に関しては、中学生1,372名中の喫煙率は、5.7%,(男子11.5%,  女子0.4%)11)、16〜18歳の学生1,358名中の喫煙率が56%(男子61.8%、女子30.2%)12)と年齢につれて増える傾向が示唆されている。
 社会的ニコチン依存は、「喫煙を美化、正当化、合理化し、またその害を否定することにより、文化性を持つ嗜好として社会に根付いた行為と認知する心理状態」13) と定義されている概念である。その社会的ニコチン依存度を評価する簡易質問票として、加濃式社会的ニコチン依存度調査票 (Kano Test for Social Nicotine Dependence: KTSND、表1) 13, 14) が考案された。KTSNDは、単に喫煙者だけでなく、非喫煙者、前喫煙者、さらに子供達まで評価することができ、これまでに種々の対象13-24) での報告があるものの、歯学部学生を対象とした報告はない。
 そこで、本研究では、日本と台湾の歯学部学生の喫煙状況、家族・同居者の喫煙歴(受動喫煙の有無)とKTSNDを用いた社会的ニコチン依存度の講義前後の変化を比較、検討した。

2.対象と方法
 対象は、愛知学院大学歯学部4年生(A校130名、男子85名、女子45名)と高雄醫學大學6年生(T校41名、男子27名、女子14名)で、計171名(男子112名、女子59名、22.2 ± 2.0歳、20〜32歳)である(表2)。講義は、A校は2007年4月、T校は2007年7月に、同一者が行った。講義時間は、約60分で、内容は、喫煙と受動喫煙の害および歯周組織への影響についてである。その講義前後にKTSNDを自記式記名で実施した。なお、T校では、講義は日本語から中国語に随時通訳し、KTSNDは中国語に翻訳したものを用いた。KTSNDは、4検法による10問の設問(表1)からなり、各設問を0点から3点に点数化し、30点満点で9点以下が正常範囲である。KTSNDでは、喫煙歴、家族・同居者の喫煙(受動喫煙)の有無を確認した。なお、本研究は、愛知学院大学歯学部倫理委員会の承認のもとに行った。



表1.加濃式社会的ニコチン依存度調査票
表1 加濃式社会的ニコチン依存度調査票
各設問を0点から3点に点数化し、30点満点で9点以下が正常範囲である。



表2.対象者の属性
表2 対象者の属性
歯学部学生171名の内訳と喫煙状況である。
 統計解析は、喫煙状況や性別、受動喫煙の有無などの2群間のKTSND得点の比較にはMann-WhitneyのU検定、喫煙状況別のKTSND得点の比較にはKruskal-Wallis検定、講義前後のKTSND得点の比較には対応のあるWilcoxon の符号付き順位検定を用いた(SPSS 15.0J for Windows)。いずれもP < 0.05を有意差ありと判定した。

3.結果
1)対象者の属性(表2
 年齢は、A校に比べ、T校が高く(P < 0.01)、男女比は、ほぼ同じ比率であった。喫煙者は、35名(20.5%、A校34名、男子32名、女子2名、T校男子1名)、前喫煙者9名(5.2%、A校8名、男子7名、女子1名、T校男子1名)、非喫煙者127名(74.3%)で、A校に喫煙者や前喫煙者が多かった。
 喫煙者の喫煙開始年齢は、18.1 ± 2.5歳(12〜22歳)、喫煙定着年齢は、18.9 ± 1.8歳(13〜22歳)で、禁煙ステージは、無関心期5名、前熟考期13名、熟考期4名、準備期6名、不明7名で、講義後は、無関心期2名、前熟考期14名、熟考期5名、準備期9名、不明5名となった。
 受動喫煙は、A校では39名(30.0%)、T校では6名(不明8名、18.2%)で、A校で高かった。また、喫煙者に限ると、受動喫煙はA校では、12名(喫煙者の35.3%)であったが、T校ではみられなかった。
2)対象者の加濃式社会的ニコチン依存度(表3
 KTSND得点は、A校13.3 ± 6.4、10点以上94名(72.3%)、T校10.2 ± 4.9、10点以上22名(53.7%)で、A校が高値となった(P < 0.01)。KTSND得点は、講義後は両校とも低下し差異はなくなった(A校7.8 ± 5.7、T校7.7 ± 5.4)。また、KTSND得点は、講義前に比べ、講義後10問すべての項目で低下し、合計も講義前12.6 ± 6.2から、講義後7.7 ± 5.7へと低下した(P < 0.01)。
 喫煙状況別では、講義前後で、喫煙者では、17.4 ± 5.8から10.7 ± 6.8へ、前喫煙者では、14.6 ± 4.5から9.3 ± 3.1へ、非喫煙者では、11.1 ± 5.7から6.8 ± 5.1へそれぞれ減少した(P < 0.01)。
 男女別では、T校女子学生のKTSND得点は、男子学生のKTSND得点に比べ低かった(P < 0.05)が、講義後には、有意な男女差はみられなくなった。受動喫煙の有無別では、有意な差異はみられなかった。

表3.対象者の加濃式社会的ニコチン依存度
表3 対象者の加濃式社会的ニコチン依存度

対象者の加濃式社会的ニコチン依存度を、学校別、講義前後、男女別、喫煙状況別、受動喫煙別に検討した。

3)非喫煙者の講義前後の加濃式社会的ニコチン依存度設問別学校別得点比較(表4
 非喫煙者127名(A校88名、T校39名)の講義前後のKTSND設問別での得点を学校別に比較した。講義前では、設問3「タバコは嗜好品である。」、設問5「喫煙によって人生が豊かになる人もいる。」および設問10「灰皿が置かれている場所は喫煙できる場所である。」で、A校がT校に比べ、高い得点を示した(設問3、5:P < 0.05、設問10:P < 0.01)。逆に、設問8「タバコは喫煙者の頭の働きを高める。」では、T校がA校に比べ、高い得点を示した(P < 0.05)。講義後では、設問10で、依然として、A校がT校に比べ、高い得点を示した(P < 0.01)。しかし、設問1「タバコを吸うこと自体が病気である。」、設問6「タバコには効用がある。」および設問8で、T校がA校に比べ、高い得点を示した(P < 0.01)。


表4.非喫煙者の講義前後の加濃式社会的ニコチン依存度設問別学校別得点比較
表4 非喫煙者の講義前後の加濃式社会的ニコチン依存度 設問別学校別得点

非喫煙者の講義前後のKTSND設問別での得点を学校別に比較した。

4.考察
 前述のように、2006年度厚生労働省研究班の調査では、保健医療系の学生の中で、歯学部学生の喫煙率は、男子62%、女子35%と最も高いことが報告されている9)。しかし、A校4年生の喫煙率は、26%(男子38%、女子4%)と低く、台湾のT 校6年生の喫煙率は、2%とさらに低い結果となった。本研究の喫煙率は、他の歯学部学生の喫煙率(某歯科大学1~6年生32.9 %6)、某大学歯学部5年生44.2%8))に比べ低く、某大学歯学部3、5年生19.4%7)に比べてやや高い結果となった。本研究では、限定された対象者であるため、今後は、被験者数を増して実態を把握した上で、脱タバコ教育を推進していく必要がある。
 KTSNDは、単に喫煙者だけでなく、非喫煙者、前喫煙者、さらに子供達まで評価することができ、これまでに種々の対象13-24) での報告があるものの、歯学部学生を対象とした報告はない。これまでの成人に対するKTSNDの研究から、KTSND得点は、非喫煙者、前喫煙者、喫煙者の順に高くなり、非喫煙者では10~13点台、前喫煙者では12~16点台、喫煙者では16~18点台と報告されている 13, 15-21)。本研究の対象者である歯学部学生の非喫煙者、前喫煙者、喫煙者のKTSND得点は、従来の報告と同じ傾向を示し、平均得点もほぼ一致していた(表3)。
 今までのKTSNDを用いた研究は、質問票としての信頼性と妥当性の研究、種々の対象や喫煙状況におけるKTSND得点の把握 13-21) 、脱タバコ講義・講演・指導の前後での得点比較 18-20) 、脱タバコ講義による経時的なKTSND得点の推移24)、禁煙外来での有用性の検討 21) 、新しい心理療法的禁煙アプローチであるリセット禁煙法25) の効果判定、喫煙関連疾患患者での試用、他のアンケートの組み合わせによる研究、KTSND小児版による小学校高学年や中学校での検討 18, 19) 、国際共同研究(韓国 22)、オーストラリア、アメリカ、カザフスタン、ウズベキスタン23)など)、以上を踏まえた質問票の改良の検討などが行われている14, 16)
 A校とT校のKTSND得点は、全体では、A校が有意に高い得点となった。しかし、この差異は、A校には喫煙者が34名含まれているのに対して、T校には喫煙者が1名だけであることが反映された結果である。したがって、非喫煙者だけで、両校のKTSND得点を比較すると、それぞれ、A校11.6 ± 6.1(n = 88)、T校10.0 ± 4.8(n = 39)で、有意差はなくなり、従来の非喫煙者の報告された得点と類似した結果となった(表3)。そこで、同様に、非喫煙者だけで、両校のKTSND得点を設問別に比較した(表4)。その結果、喫煙を美化する設問3と設問5において、A校がT校に比べ、高い得点を示した。逆に、喫煙の合理化、正当化を示す設問8では、T校がA校に比べ、高い得点を示した。一方、講義後では、喫煙の害を否定する設問1、喫煙の合理化、正当化を示す設問6および設問8で、T校がA校に比べ、高い得点を示した。また、設問10は、講義前後とも、 A校がT校に比べ、高い得点を示した。すなわち、講義後は、両校とも、KTSNDの設問毎の得点は、かなり低下してくるため、類似しているが、講義前の設問3、10は、A校で特に高い得点の設問である。これは、タバコを嗜好品ととらえ、灰皿の設置を容認していた日本のいままでの歴史的背景を示すものと思われた。

 A校では、T校に比べ、家族や同居者の喫煙による受動喫煙率が高かった(表2)。家族構成員に喫煙者のいる高校生のKTSND得点は、喫煙者のいない高校生のそれと差異はないが、家族構成員に喫煙者がいる高校生は家族構成員に喫煙者がいない高校生より喫煙経験率が高いと報告されている20)。本研究では、家族・同居者に喫煙者がいる場合の喫煙者は、A校では、12名(喫煙者の35.3%)であったが、T校ではみられなかった。すなわち、A校の家族・同居者に喫煙者がいる場合の喫煙率は30.8%に対して、家族・同居者に喫煙者がいない場合の喫煙率は24.2%となり、同様の傾向を示した。
 女子大学生の非喫煙者で受動喫煙のある者の中では、親、兄弟などの家族がタバコを吸う群より、友人(P < 0.001)、恋人(P < 0.01)が喫煙する群の方がKTSND得点が有意に高く、身近な自分が好ましいと思う相手の行動や考え方に影響を受けることが指摘されている17)。しかし、本研究では、家族・同居者の喫煙の有無によるKTSND得点の差異はみられなかった。
 日本と台湾の歯学部学生の喫煙状況、家族・同居者の喫煙歴(受動喫煙の有無)とKTSNDを用いた社会的ニコチン依存度の講義前後の変化を比較した。その結果、A校では、T校に比べ、家庭内での受動喫煙率や喫煙率が高く、KTSND得点もやや高値となった。しかし、脱タバコ講義により、KTSND得点は両校とも同様に低下した。したがって、歯学部学生に対して、繰り返し脱タバコに関する啓発、禁煙支援を継続することが重要と思われた。
 本論文の要旨は、第72回愛知学院大学歯学会(2008年6月1日、名古屋)と第3回日本禁煙学会(2008年8月9日、広島)において発表した。なお、本研究は、2008年度の日本禁煙学会研究助成金と平成20年度厚生労働科学研究(H18-がん臨床-若手-004)の補助によって実施した。 

参考文献
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23) 大谷順子:加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)を用いた大学生低学年の喫煙に対する意識調査と禁煙教育の効果ー中央アジア諸国(カザフスタン共和国とウズベキスタン共和国)と日本(九州大学)の比較調査研究ー.九州大学大学院教育学研究紀要 2007;10:97-116.
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25) 磯村 毅:「リセット禁煙」による心理的ニコチン依存へのアプローチ.治療 2005;87:1947-1951.



Dental undergraduates’ smoking status and social nicotine dependence in Japan and Taiwan - comparison between two dental schools

Koji Inagaki 1, 2, 13, Junichiro Hayashi2, Chun-Chan Ting2, Toshihide Noguchi2, Akira Senda2, Hajime Hanamura2, Ichizo Morita2, Haruo Nakagaki2, Tatsuro Koide3 Tien-Yu Shieh4, Narito Kurioka5,13, Akira Endo6, 13, Tetsuya Otani7, 13, Kenji Amagai8, 13, Megumi Hara9, 13, Boyen Huang10, Chiharu Yoshii11, 13, Masato Kano12, 13

Objectives: Smoking behaviour persisted due to psychological and physical dependence. A questionnaire, “the Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND)”, has been developed to assess the persistence of tobacco use. This study aimed to investigate into the prevalence and factors of smoking in a sample of dental undergraduates in Japan and Taiwan. A special interest was to establish the association between gender, smoking status, relationship with smokers, as well as baseline and after-lecture KTSND scores. Methods: One hundred and thirty 4th year and forty-one 5th year dental undergraduates at the Aichi Gakuin University (AU, Japan; 85 males and 45 females; 21.7 ± 1.7 years) and the Kaohsiung Medical University (KU, Taiwan; 27 males and 14 females; 24.1 ± 2.1 years) were invited to participate, respectively. Each was assessed with a KTSND questionnaire before and after attending a tobacco-control educational programme. Results: Thirty-five smokers (20.5%, AU: 34, KU: 1), nine ex-smokers (5.2%, AU: 8, KU: 1) and 127 non-smokers (74.3%) were included. The prevalence of inhalation of second-hand smoke at home was 30.0% (39 students) and 18.2% (6 students) in Japan and Taiwan, separately. Japanese students showed a higher total KTSND score than Taiwanese (13.3 ± 6.4; 10.2 ± 4.9, P < 0.01). Attendance of the tobacco-control educational programme contributed to a decrease in the total KTSND score from 12.6 ± 6.2 to 7.7 ± 5.7. The total KTSND scores among smokers (17.4 ± 6.2) and ex-smokers (14.6 ± 4.5) were significantly higher than non-smokers’ (11.1 ± 5.7) (P < 0.01). In Taiwan, male students demonstrated higher KTSND scores than their counterparts (11.3 ± 5.0; 8.1 ± 3.9, P < 0.05). Conclusion: The prevalence of smoking and the total KTSND scores among dental undergraduates were higher in Japan than in Taiwan. The total KTSND score was related to smoking status. Attendance of a tobacco-control educational programme decreased the total KTSND score. Future popularisation in the type of educational programme is indicated.


Key words:dental undergraduate, smoking, Kano test for social nicotine dependence (KTSND), Taiwan


1. Department of Dental Hygiene, Aichi-Gakuin Junior College, Nagoya, Japan
2. School of Dentistry, Aichi-Gakuin University, Nagoya, Japan
3. Health Center, Aichi-Gakuin University, Nagoya, Japan
4. College of Dental Medicine, Kaohsiung Medical University, Kaohsiung, Taiwan
5. Department of Internal Medicine, Johoku Hospital, Kyoto, Japan
6. Endo Kikyo Children's Clinic, Hakodate, Japan
7. Department of Health Policy, National Research Institute for Child Health and Development, Tokyo, Japan
8. Division of Gastroenterology and G.I. Oncology, Ibaraki Prefectural Central Hospital and Cancer Center, Kasama, Japan
9. Department of Preventive Medicine, Faculty of Medicine, Saga University, Saga, Japan
10. School of Dentistry, University of Western Australia, Australia
11. Division of Respiratory Disease, University of Occupational and Environmental Health Japan, Kitakyushu, Japan
12. Department of Internal Medicine, Shin-Nakagawa Hospital, Yokohama, Japan
13. KTSND working group in Research Group on Smoke-Free Psychology, Japan


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《総 説》

タクシー全面禁煙化に向けて
―タクシー車内喫煙の法的規制を―
城北病院
栗岡成人

連絡先
〒606-8053
京都市北区上賀茂岩ヶ垣内町99番地
医療法人 財団 康生会 城北病院
  栗岡成人
  TEL: 075-721-1612 FAX: 075-701-7399
  E-mail:jhkpre@skyblue.ocn.ne.jp

キーワード:受動喫煙、禁煙タクシー、タクシー乗務員、喫煙禁止法、安全運転

要約
 タクシー全面禁煙化は全国的潮流であるが、未実施の府県も残されており、解決すべき問題も少なくない。受動喫煙に安全なレベルはなく、一瞬の受動喫煙も危険であり、とりわけタクシー車内の受動喫煙被害は深刻で甚大である。タクシー全面禁煙化は何よりもタクシー乗務員の生命と健康を守るために必要である。また安全運転とタクシー乗務員の健康のために、タクシー乗務員自身の喫煙対策も必要である。タクシー関係者および医療関係者は全国のタクシー全面禁煙化に努力すべきである。そして、法律によるタクシー車内禁煙が最も簡単かつ有効な方法である。タバコ規制枠組み条約(FCTC)を誠実に遵守する義務を負う日本政府および国土交通省は可及的速やかにタクシー車内喫煙の法的規制を実施すべきである。


1.タクシー禁煙化の潮流
 全国各地でタクシー全面禁煙化の動きが拡がっている。2005年4月大分タクシー協会の禁煙車全面導入を嚆矢として、2007年5月名古屋地区から全国に広まったタクシー全面禁煙化の潮流は、次々と連鎖反応を引き起こし、今年1月からは東京都でも全面禁煙化が実施され、タクシー全面禁煙化の流れはもはや押しとどめることのできないものになっている。
 禁煙タクシーが始めて日本に誕生したのは1988年2月26日、当時の運輸省により認可された。このとき禁煙タクシーは2台のみであった。2年前まで禁煙タクシーは全タクシーのわずか2%であったが、2008年5月には47都道府県のうち24都県が禁煙となり禁煙タクシーが12万台を超え、ついに全タクシーの50%を上回った。
 なぜ今、怒濤のようなタクシー全面禁煙化の動きが起こってきたのか。これはWHO(世界保健機関)のタバコ規制枠組み条約(FCTC)発効を始めとした受動喫煙防止の世界的潮流と、タクシーを安全、安心、快適な公共交通機関にしたいと願ってきたタクシーの利用者、乗務員の積年の努力によるところが大きい。そしてタクシー全面禁煙化は、何よりもタクシー乗務員の生命と健康を守るために火急の課題なのである。
 喫煙が、がんや心臓病、呼吸器病などあらゆる臓器に多くの病気を引き起こすことは、数多くのデータで明らかにされているが、他人のタバコの煙を吸わされる受動喫煙でも多くの人々の命が失われている。受動喫煙による健康被害を防止するため、海外ではもちろんのこと、日本でも2003年5月に健康増進法第25条により受動喫煙防止が定められて以降、公共の場所や職場が次々と禁煙になっている。
 公共交通機関も例外ではない。公共交通機関においては以前より喫煙規制が行われていて、飛行機、電車、地下鉄、バスなど、既にほとんどの交通機関は全面禁煙になっている。また新幹線や長距離鉄道も次々に禁煙化が拡大している。ひとりタクシーのみが喫煙自由という状況であった。タクシーは重要な公共交通機関のひとつだが、特にタクシーは高齢者、病弱者、障害者、妊婦、子どもなど弱者が利用することの多い乗り物である。そしてこれらの人々は、タバコの煙に弱く、受動喫煙による健康被害をより受けやすい。そしてタクシーのような狭い閉鎖空間での受動喫煙の被害はより重大である。本稿では、タクシー車内の禁煙についてはタクシー業界の自主規制だけでなく、法的規制が必要であり、かつ根本的な問題解決法であることを述べる。

2.タクシー車内の受動喫煙
 タクシー車内での喫煙は、タバコの臭いによる不快感や臭いが衣服へ染み付くだけでなく、残留化学物質により気分不良や、のどの痛みなどを引き起こし、さらに喘息や心臓発作を起こす可能性がある。タクシー内のタバコ臭で気分が悪くなったり、残留化学物質で喘息発作を起こしたりするため禁煙タクシー以外には乗らないという人も少なくない。
 乗務員の受動喫煙被害はさらに深刻である。受動喫煙は一瞬でも気管支喘息発作、狭心症、脳卒中などを起こす恐れがあるし、タバコの煙に含まれる発がん物質には放射線同様閾値(許容値)が存在しない。WHO(世界保健機関)は受動喫煙に安全なレベルはないと言明している。
 車内の粉じん濃度を実際に測定した結果では、窓を閉め切ったタクシーで乗客1人がタバコを吸うと、車内の粉じん濃度が厚生労働省の基準値(1㎥あたり0.15mg)の12倍になり、1時間以上元に戻らない。後部座席の窓を5センチ開けて喫煙した場合でも、粉じん濃度は基準値の9倍に上り、原状回復に30分以上かかった。喫煙者が2人なら基準値の24倍、3人なら32倍に上昇した。さらにエアコンを使用して3人が喫煙した場合は50倍に達したという。車内の有害物質がどれほど高濃度になるか想像に難くない。タクシー乗務員は、このような高濃度の有害物質に曝されながら仕事をしているのである1,2)
 そしてタクシー内での受動喫煙による乗務員の心筋梗塞や癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、健康上の危険が明らかになっている。現在東京タクシーセンターに対して訴訟を起こしている東京の安井幸一氏は、自らはタバコを1本も吸わないにもかかわらず、長年のタクシー乗務による受動喫煙で心筋梗塞を起こし、さらには喉頭がんになり、現在闘病中である。タクシー乗務員が車内で受動喫煙を浴びるのはまさに労働災害といえよう。
 健康増進法第25条には、多数の者が利用する施設管理者は、受動喫煙防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならないと定められており、厚生労働省はタクシーも対象施設に含まれると通知している。労働基準局も「『職場における喫煙対策のためのガイドライン』に基づく対策の推進について」という通知を出して労働者の受動喫煙対策充実を促している3)。タクシー車内も職場であり、ガイドラインを遵守するには全面禁煙しかありえない。
 また、2004年7月24日に提訴された禁煙タクシー訴訟において、判決(平成17年12月20日東京地裁)は、「タクシー車内における乗客の喫煙による乗務員の健康への影響は看過しがたい」「タクシー事業者としては、タクシー乗務員に対し受動喫煙の危険性から生命及び健康を保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っており、その義務を尽くすためには、禁煙タクシーの導入及び普及を図ることが望ましい」「タクシー事業者の自主性に任せていたのでは、その早急な改善は困難である」「禁煙タクシーの普及に対する国による適切な対応が期待される」「利用者の立場からもタクシーの全面禁煙化が望ましい」と指摘している4)

3.タバコのリスク
 タバコ煙には約4000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち有害物質は200種類以上、発癌物質はニトロソアミン類、多環性炭化水素など60種類が含まれている。もう一つ重要なことは、有害物質の多くは目に見えず、無味無臭だということである。
 また、タバコの副流煙には主流煙より一酸化炭素、ニコチン、アンモニア、発癌物質などの有害物質が数倍から数十倍多く含まれている。例えば発癌物質のニトロソアミンは副流煙に主流煙の最大100倍含まれている。それゆえ職場や家庭で喫煙者と8時間一緒に過ごすと、自分で吸っているのと同じくらい発癌物質を吸入することになる。
 もしアスベストの漂うタクシーがあったとしたら、誰もそのようなタクシーには乗らないであろう。しかし人々はタバコ臭いタクシーに平気で、あるいは我慢して乗っている。タバコの煙のリスクが正しく認識されていないからに他ならない。
 有害物質規制基準は10万人あたりの生涯リスク1人以下であるが、松崎によればタバコを吸う人の2人に1人はタバコに関連した病気で早死にし、職場や家庭で受動喫煙にさらされ続けると、20人に1人が受動喫煙のために死亡する。すなわち受動喫煙は環境基準の5000倍もの死に至るリスクであり、立入禁止アスベスト汚染ビルに1000年間住むリスクと同じである5)。タバコについても他の有害物質と同じく規制が必要なのは当然である。

4.受動喫煙は一瞬でも危険
 タバコの煙は、単に不快というだけでなく確実に健康被害を起こしている。他人のタバコの煙を吸うと、急性影響として流涙、鼻閉、頭痛、眩暈、嘔気等の諸症状や呼吸抑制、心拍増加、血管収縮等が生じ、屋外の一瞬の受動喫煙であっても、気管支喘息発作、狭心症、脳卒中などの重大な病気を惹き起こす恐れがある。ただ一度の受動喫煙をきっかけに心筋梗塞が起こることがある。逆に法的喫煙環境規制により心筋梗塞の入院患者が平均15~20%減少したことが世界各地から報告されている6)
 また慢性影響として、肺癌や心筋梗塞など循環器疾患のリスクを上昇させ、IARC(国際がん研究機関)は、証拠の強さによる発癌性分類において、環境タバコ煙(副流煙および喫煙者の呼出煙)を、グループ1(グループ1、2A、2B、3のうち、グループ1は最も強い分類、動物実験と疫学調査で十分な証拠あり)と分類している。IARCの分類ではグループ3に相当するマラカイトグリーンが中国産うなぎから検出され、瞬く間に店頭から姿を消したことは記憶に新しい。
 1本のタバコの煙から出るタバコ煙を目や鼻の刺激症状が起こらない濃度まで薄めるにはどのくらいの空気が必要だろうか?スイス連邦技術研究所の調査によると、1本のタバコから出るタバコ煙を、目や鼻の刺激症状が起こらない濃度まで薄めるには3000㎥の空気が必要で、非喫煙者の鼻で気づかない濃度まで薄めるには1万9000㎥の空気が必要である7)。狭いタクシーの車内空間は、せいぜい3.5㎥程度であろう。タバコの煙のにおいが気にならない程度にするには実にタクシー5248台分の空気が必要になる。

5.タクシー乗務員の喫煙
 運輸交通業のなかでも最も憂慮されているのが、タクシー乗務員の健康である。タクシー乗務は、労働時間が不規則なうえに、長時間同じ姿勢で、身体を動かさず、神経を使う。それに時間を気にしながらラーメンやホカ弁を掻きこむ食生活で、おまけにタバコを吸うとなると身体に良いわけがない。東京でいち早く禁煙タクシーを導入した大森交通の郭成子社長は、タクシーの乗務員の定期健康診断結果に目を通して、ほとんど全員が「要精密検査」であったことに、非常にショックを受けたと述べている8)
 タクシー乗務員の喫煙率は60~80%といわれており、成人男性の喫煙率40%からしても、かなりの高率である。その結果、タクシー乗務員には癌や虚血性心疾患、呼吸器疾患などのタバコ関連病が高率に発生する。個人タクシー協会の調査によると、2002年1年間における個人タクシー運転手の死因の第1位は肺癌(12%)であった。また、タクシー乗務員は胃の弱い人が多い。タバコを吸っていると、ただでさえ運転のストレスで弱っている胃の血流をさらに低下させ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こす。
 ストレスが多いしタバコでも吸わないとやってられないと喫煙者はいう。だが、タバコはストレス解消どころか逆にストレスの原因になる。タバコを吸う直前の状態が「ニコチン切れ」である。タバコを吸って小一時間もすると、なんとなく落ち着かず、そわそわ、イライラし、集中力がなくなる。時に眠気が生じることもある。これらの症状はタバコを吸った結果生じるニコチン離脱(禁断)症状である。
 渋滞に巻き込まれ、イライラしてタバコを吸うとなんとなく落ち着く気がする。しかしよく考えればタバコを吸ったからといって、交通渋滞が解消するわけではない。そしてほっとするのもつかの間、ニコチンの血中濃度は吸い終わった瞬間から低下し始め、またニコチン切れにさいなまれ、イライラしてタバコが吸いたくなってしまう。ニコチン切れの無間地獄に陥ってしまうのである。タクシー乗務員自身をこのタバコの罠から救い出す必要がある。

6.タバコと安全運転
 「助手席のタバコを取ろうとしてマイクロバスに追突、2人死亡、19人が負傷!」「落としたタバコを拾おうと、運転中に下を向いてひき逃げ!」タバコによる交通事故の見出しである。タバコに関連した交通事故は枚挙にいとまない。タバコを取り出す、タバコの火をつける、タバコを吸うなどの行為自体が、わき見運転などの危険行動を惹き起こし、交通事故死など重大な事故を招く恐れがある。
 「改正道路交通法」によって、運転中の携帯電話使用が取り締まりの対象になったが、携帯電話が規制されるのなら、喫煙も規制されてしかるべきである。工場なら、危険な機械を操作する時に喫煙しないのは当たり前である。
 また、タバコの煙そのものが車の運転へ悪影響を及ぼす。タバコを吸うと頭がスッキリすると喫煙者は言うが、これは錯覚である。ニコチンの血管収縮作用で脳の血流は低下し、タバコの煙に含まれる一酸化炭素のため低酸素血症に陥る。その結果、脳の判断力や反応性が低下する。喫煙者の光や音に対する反応は明らかに遅延することが証明されている。しかし喫煙者でも、ニコチン切れになっている喫煙前より喫煙後のほうが、わずかながら反応が早くなるので、喫煙者はそれをタバコの効果と思い込んでいるのである。当然車の運転にも支障をきたす。
 実際、非喫煙者より喫煙者のほうが1.5倍から2倍交通事故を起こしやすいという複数の報告がある9,10)。元々、喫煙者は交通事故だけでなく、外傷や事故、自殺の確率が非喫煙者より明らかに高いという多数のデータがあることは周知の事実である。
 イギリスでは2007年9月から道路交通法規が改正され、万が一運転中に事故を起こした際、ドライバーがタバコを吸っていたことが判明した時には、喫煙による不注意運転としてより重い罰則(最高2,500ポンド(約55万円)の罰金と3~9点の減点、もしくは運転免許取り消しという罰則)が科される可能性があり、喫煙ドライバーに注意が促されている。
 欧州安全衛生機構でもトラックの事故防止のためのファクトシートにおいて、安全運転のためのチェックリストの一つに「運転中の喫煙は、車内の酸素減少と二酸化炭素の増加を招くほか、運転者の血液中の一酸化炭素増加にもつながり、結果的に眠気を誘う可能性があることを十分承知しておくこと」と記載されている。
 運転者以外のものがタバコを吸っても運転者に大きな影響を及ぼす。同乗者のたった一本のたばこの煙が運転者の視界をさえぎり、流涙、咳、呼吸困難、ストレスによるイライラの症状を招き、運転に集中できなくする。しかも、これらの症状は数時間続く。安全運転の面からも、自動車の車内では禁煙が当然である。

7.政府・国土交通省の重大な責任
 タバコによる犠牲者は世界で毎年540万人、日本で11万人以上と推定されている。WHO Report on the Global Tobacco Epidemic, 2008によれば、今後10年間で世界のタバコによる死亡の80%以上が発展途上国において発生すること、今すぐ対策を講じなければ21世紀には10億人がタバコによって殺されると警告している11)
 受動喫煙についても2004年の国際癌研究機構(IARC)モノグラフ12)、2005年のカリフォルニア州環境保護局(Cal/EPA)報告書13)、そして2006年の米国公衆衛生長官報告14)で受動喫煙の健康に対する有害な影響について明確で揺るぎのない結論が述べられている。
 日本における交通事故による死亡者数はここ数年、年間約6000~7000人(警察庁)であるが、受動喫煙による犠牲者はその約3倍、年間約1万9000人に上ると推定されている15)
 このようなタバコによる莫大な損害を防ぐために、2003年WHO初の国際条約である「タバコ規制枠組み条約」(FCTC)が締結され、2005年2月に発効した。FCTCの目的は、「タバコの消費及びタバコの煙にさらされることが健康、社会、経済及び環境に及ぼす破壊的な影響から現在および将来の世代を保護する」ため、各国が国内外で実施すべき規制の枠組みを提供することである。世界的にタバコの消費を減らすことで、タバコによる喫煙者、非喫煙者の被害を防ぐことができる。先日ロシア、イタリアなども条約を批准し、批准国は2008年9月現在160か国となった。批准した諸国は発効5年後を目標にそれぞれの国でタバコ規制対策を着々と実行しつつある。
 日本でも2003年、受動喫煙防止を定めた健康増進法が制定され、2005年10月には喫煙関連疾患9学会による禁煙ガイドラインが発表され、喫煙は「病気」として保険治療の対象となった。また2008年3月には日本学術会議が「脱タバコ社会の実現に向けて」をまとめ、タバコの害から国民の健康を守り、その環境汚染から地球を守るために7つの提言を行っている16)
 2007年6月にタイのバンコクで第二回締約国会議(COP2)が開催された。この会議では、FCTCの第8条(受動喫煙の防止)を実行するためのガイドラインが日本を含む全会一致で採択された。ガイドラインには、「第8条は、すべての屋内の公衆の集まる場所、すべての屋内の職場、すべての公衆のための交通機関そして他の公衆の集まる場所を完全禁煙として『例外なき(受動喫煙からの)保護を実施する義務』を課している」と述べられている。また「受動喫煙からの保護は、職場として使用する自動車(たとえばタクシー、救急車、輸送車など)を含むすべての室内のあるいは囲まれた職場において実現されなければならない(下線著者)」とされている。
 日本政府は、2010年2月27日(FCTC発行後5年)までに日本国内で、公共の場及び職場の全面禁煙の法的措置を進める責務がある。国際条約を履行するのは締約国の国際的な約束であり、政府は日本国憲法第98条第2項を誠実に遵守すべきである。そうでなければ、タバコ対策において日本は世界の孤児になるであろう。ガイドラインにも「受動喫煙から市民の健康を守るには、自主規制でなく、法律が必要であり、かつ法的規制は単純明快で施行可能なものにする必要がある」と明記されている。タクシーについても法律による車内禁煙が最も簡単かつ有効な方法である。海外では、イギリス、アメリカ、フランス、カナダ、オーストラリア、イタリア、中国、台湾、韓国、タイなど多くの国がタクシー車内での喫煙を禁じている。
 国土交通省は、タクシー車内での喫煙規制を一貫してタクシー業界の自主規制に任せてきた。むしろタクシー車内での喫煙を、乗客サービスとして容認してきた。受動喫煙被害の重要性に鑑みると、これは行政機関としての責任放棄である。FCTCを批准している日本政府の機関である国土交通省が国際条約を守るのは当然の責務である。
 水俣病、薬害エイズ事件、アスベスト問題など行政の不作為が結果として重大な健康被害を起こし、多数の犠牲者を出したことを忘れてはならない。今現在もタバコによる犠牲者は次々と出ているのである。

参考文献
1) 中田ゆり:実際の乗務における受動喫煙調査 禁煙学.南山堂, 東京、2006;p174
2) 大和浩:車内受動喫煙曝露濃度意見書
http://www.tobacco-control.jp/documents/0505taxi-recommendation.pdf
3) 厚生労働省労働基準局安全衛生部長:「職場における喫煙対策のためのガイドライン」に基づく対策の推進について
http://www3.ocn.ne.jp/~muen/kenkozoshinho/rodokijuntutatu050601.htm
4) 平成16年(ワ)第15532号損害賠償請求事件判決要旨
http://www.tbcopic.org/pdf/hanketsu_yoshi.pdf
5) 松崎道幸:受動喫煙は環境基準の5000倍の致死リスクを持つ
http://www.anti-smoke-jp.com/x5kdoui.htm
6) 藤原久義、飯田真美:公共の場・職場の法的喫煙規制は心臓病を減少させる-わが国でも法的に全面的受動喫煙禁止地区を設定し、疾患発生が減少するかを調査する時期ではないか?- 禁煙会誌2007;2(8)
7) Junker MH, Danuser B, Monn C, et al: Acute sensory responses of nonsmokers at very low environmental tobacco smoke concentrations in controlled laboratory settings. Environ Health Perspect. 2001; 109(10):1045-52
8) 大森交通株式会社HP
http://www.oomorikoutu.co.jp/no_smoking_car.html
9) Sacks JJ, Nekson DE.: Smoking and injuries: an overview. Prev Med. 1994; 23(4):515-20
10) Leistikon BN, Martin DC, Jacobs J, et al: Smoking as a risk factor for injury death: a meta-analysis of cohort studies. Prev Med 1998; 27(6):871-8
11) WHO Report on the Global Tobacco Epidemic, 2008
http://www.who.int/tobacco/mpower/en/
12) International Agency for Research on Cancer (IARC), 2004. Monograph on the evaluation of carcinogenic risks to humans. Tobacco smoke and involuntary smoking. Lyon, France: WHO International Agency for Research on Cancer, Volume 83. Summary available online at http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol83/volume83.pdf
13) Proposed Identification of Environmental Tobacco Smoke as a Toxic Air Contaminant Part B: Health Effects As approved by the Scientific Review Panel, June 24, 2005
http://www.oehha.ca.gov/air/environmental_tobacco/pdf/app3partb2005.pdf
14) The Health Consequences of Involuntary Exposure to Tobacco Smoke: A Report of the Surgeon General June 27, 2006
http://www.surgeongeneral.gov/library/secondhandsmoke/
15) 朝日新聞記事:受動喫煙 空気清浄機だけでは限界も 分煙対策に落とし穴.朝日新聞2001年12月19日朝刊「くらし」欄
16) 日本学術会議「脱タバコ社会の実現に向けて」(2008年3月4日)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t51-4.pdf



A smoking ban is necessary and effective to restrict smoking in taxis.

Narito Kurioka, MD.
Johoku Hospital, Kyoto, Japan

Throughout Japan, there is a recent trend towards making all taxis non-smoking. However, taxi groups in almost one third of the prefecture in Japan have yet to adopt guidelines regulating smoking in taxis and there remain many hurdles to be overcome. There is no risk-free level of exposure to secondhand smoke. Even brief exposure is dangerous. Furthermore the harm done by secondhand smoke in taxis is especially serious because of the small enclosed space.
The most important goal in prohibiting secondhand smoke in taxis is to protect the life and health of taxi drivers whether they smoke or not. In addition, drivers who smoke have not only the risk of smoking related diseases but also twice the risk of being in traffic accidents. Supporting drivers to quit smoking promotes public safety as well as their personal safety and health.
Parties concerned with taxi industry and medical service should therefore endeavor to make all taxis in Japan smoke free. A smoking ban is the simplest and the most effective policy. The Japanese Government and the Ministry of Land, Infrastructure and Transport, who have a duty to follow the Framework Convention on Tobacco Control (FCTC) faithfully, should enact legal restrictions on smoking in taxies as soon as possible.


Key words:secondhand smoke, non-smoking taxi, taxi driver, smoking ban, safe driving



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《特別寄稿》
 
第3回日本禁煙学会学術総会 特別講演1(2008年8月9日)
タバコ産業とCSR(企業の社会的責任活動):挑戦と新しい問題、そして最良の解決法

オーストラリア対がん協会、タバコ規制枠組み条約同盟、タバコ規制東南アジア同盟
メアリー・アスンタ Ph.D.

【抄録】
 タバコ規制枠組み条約(FCTC: Framework Convention on Tobacco Control)の第13条は、全ての締結国にタバコの広告や販売推進、スポンサー活動の包括的禁止を求めている。規制の強化により、「企業の社会的責任活動(CSR: Corporate Social Responsibility)」が、タバコ産業にとって、最後のフロンティア(活動分野)として残っている。CSRの概念は、タバコ産業に、今なお許されている活動を推進し、同時に「善意」(の会社であるとの評判)を買い、その公のイメージを確立する努力を、最大限可能にしている。このことは、(次にあげる)幾つかの問題を発生し、FCTC第13条をどのように解釈し、実行していくかの議論を呼ぶこととなった。


● (タバコ会社による)「企業の社会的責任活動(CSR)」は、最も挑戦的である。
● タバコの商品名ではなく、会社の名前がしばしば使用される。
● 活動がタバコ会社ではなく、財団(組織)を通じて行なわれる。

 この発表では、なぜタバコ産業がCSRを行なうのか、そしてタバコ産業と「企業責任」の結びつきが、いかに絶対矛盾であるかについて言及する。アジアの国々が、タバコの広告や販売推進活動を禁止する法律を制定し始めた際に、タバコ産業はCSRをアジア全域に亘って強化した。(タバコ産業による)CSR(の問題)に取り組むためには、タバコ産業の活動を監視し、記録しておくことが重要である。例えば「CSRに、誰がお金を払っているのか?学生の奨学金に使われたお金は幾らで、未成年への販売から得た利益は幾らかの比較。地域の計画に手渡されたお金は幾らで、その国での儲けは幾らかの比較」などの問題点が、考えられる。

 次のステップは、アドボカシープラン(市民参加の活動計画)を引き出すことである。これは少ない人数で出来ることであるが、(タバコ産業の)非倫理的な企業活動を阻止し、協力出来る人々を見定め、そして他の産業と提携しようとする企みを阻止することにより、タバコ産業に「まともではない」評価を与える活動を含む。
 このCSR問題に有効に取り組むためには、FCTCの他の条文にも考えを巡らすことが重要である。例えば、第5条3項は、締結国にタバコ規制(政策)をタバコ産業からの干渉(妨害)から擁護するよう警告している。それ故、タバコ会社が「未成年喫煙防止プログラム」を企画することを禁止しなければならない。第6条はタバコ製品への高い課税(率)を求めており、小売価格の65~80%が、最良の実施策である。その税金の一部を健康増進や地域の活動に割くべきである。(宮崎恭一・薗潤 訳)

【注釈】CSR:企業は社会的存在として、最低限の法令遵守や利益貢献といった責任を果たすだけではなく、市民や地域、社会の顕在的・潜在的な要請に応え、より高次の社会貢献や配慮、情報公開や対話を自主的に行なうべきであるという考えのこと。タバコ会社がCSRの名目で、会社の宣伝活動をする事への警告がこの論文講演の主旨である。(編集委員会)


Tobacco Industry and CSR: Challenges, Emerging Issues and Best Practices
Dr. Mary Assunta
Cancer Council Australia, Framework Convention Alliance, Southeast Asia Tobacco Control Alliance

ABSTRACT
The Framework Convention on Tobacco Control (FCTC) in Article 13 requires all Parties to implement a comprehensive ban on tobacco advertising, promotions and sponsorship. With tightening up of regulations, corporate social responsibility (CSR) remains the last frontier for the tobacco industry. The CSR concept enables the industry to maximise its efforts to promote what it is still allowed to do, and simultaneously ‘buy’ goodwill and build its public image. This raises several issues which warrant discussions on how to interpret and implement Article 13:
— CSR, by far is the most challenging
— Tobacco company names are often used, instead of cigarette brand names
— Activities are carried out through foundations instead of tobacco companies

This presentation will address why the tobacco industry conducts CSR activities, and how linking the tobacco industry with “corporate responsibility” is an inherent contradiction. As Asian countries start to put in place legislation banning tobacco advertising and promotions, the tobacco industry has increased its CSR activities across Asia. To tackle CSR, monitoring and documentation of the industry activities are important. For example ask: “Who is really paying for the CSR activities?” How much does the industry spend on scholarships for students Vs how much profit the industry make from minors? How much does the industry hands out to community projects Vs how much profit the industry makes in that country?
The next step is to draw up an advocacy plan of action. It only takes a few persons to stop an unethical industry activity, identify allies willing to cooperate, and include actions to “denormalise” the tobacco industry by stopping its efforts to associate itself with other industries.
To effectively address CSR, it is important to think across several articles of the FCTC. For example Article 5.3 warns Parties to protect tobacco control measures from interference from the tobacco industry. Hence tobacco companies should be prohibited from conducting youth smoking prevention programs. Article 6 calls for high taxation of tobacco products where best practice recommends 65% – 80% of retail price. Set aside a small portion of dedicated tax for health promotion and community activities.



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《特別寄稿》
 
第3回日本禁煙学会学術総会 特別講演2(2008年8月9日)
タバコ依存症の最新治療

米国メーヨークリニック医科大学内科教授、同ニコチン依存症センター長
リチャード・ハート M.D.

 近年、タバコ依存症は、それが引き起こす重篤な医学的問題のために、以前よりも注目を集めているが、重篤な依存症それ自体もまた注目を集めている。このため医師や医療関係者が、より集中的な行動科学的カウンセリングや薬剤治療で、喫煙者をより積極的に治療するようになった。2008年の米国公衆衛生サービスガイドラインは、行動科学的治療に用量反応効果があることを認め、適応があれば、併用療法を含む薬剤治療を、すべての喫煙者に勧告している。日本で最近バレニクリンが導入されたことに伴い、日本の医療では3つの異なった薬剤、バレニクリン、ニコチンパッチ、ニコチンガムが、タバコ依存症治療に使われる機会ができた。
 最近、タバコ依存症の神経生物学的な基盤が、より理解されるようになった。特にアセチルコリンのα4β2ニコチン受容体は、喫煙による動脈血中の高濃度ニコチンに頻回にさらされ、正の相関関係で親和受容体の数を増加させる。タバコの喫煙は、存在する最も有効なニコチン運搬形態であり、ニコチンは肺循環から、数秒の間に動脈系に運ばれる。事実、わずか3本のタバコを連続喫煙することで、喫煙者の脳内アセチルコリンのα4β2ニコチン受容体は80%以上が飽和される1)。 医学的に使用されるニコチンや他の薬剤が、限られた成功率しか上げていないのも不思議ではない。
 喫煙に比較して、(吸収量)21mgのニコチンパッチ(*訳注;日本でのニコチンパッチ大に相当)は、ニコチンやコチニンの静脈血中濃度中央値の約50%しか供給していない2)。 従って、喫煙者の喫煙中におけるベースラインのコチニン濃度、又は1日の平均喫煙本数にマッチした、高濃度のニコチンパッチ療法を、我々は長年に亘り提唱してきた。1日20~30本の患者には、(吸収量)21~35mgのニコチンパッチを使い、ニコチンの禁断症状をコントロールするために、ニコチンガムのような短時間型のニコチン代替薬物で補う。より重度の喫煙者には、通常(吸収量)42mgのニコチンパッチを毎日定期的に使用する。
 バレニクリンは、アセチルコリンのα4β2ニコチン受容体の特異的作動薬および拮抗薬として開発された。ニコチン受容体にニコチンよりも高い親和性をもち、喫煙者がバレニクリンを服用している場合、喫煙による報酬系をブロックするのに役立つ。バレニクリンは、推奨されている用量の1日0.5mgから1mg 2回まで増やした際には、用量反応効果が示されてきた3)。 もっとも良くある副作用は、嘔気と生々しい夢の2つである。これら2つの副作用の頻度は多いが、服用者に内服を中止させるほど重症ではないことが多い。バレニクリンを使って禁煙しようとしている喫煙者の気分の落ち込み、うつ、自殺念慮や他の精神症状を含む精神状態の変化が、最近報告されている。これらは、現在、米国FDA(食品医薬品局)で調査されているが、因果関係は確定されていない。気分の落ち込み、うつ、自殺念慮や自殺は、非喫煙者よりも喫煙者に多いことを、まず最初に指摘しておかねばならない。バレニクリンが何故そのような現象を引き起こすのか、についての生物学的に妥当と思われる理由はない。しかし喫煙者には、精神科疾患や内科疾患の合併が多いので、治療に当っては注意すべきである。
 メーヨークリニックのニコチン依存症センターでは、医師の監督下にタバコ治療専門士がサービスを提供する。我々の治療プログラムの原則は、行動科学療法、依存症治療、薬物療法と再喫煙防止に則っている。薬は、しばしば併用する。特に、ニコチンパッチ治療の場合、患者の喫煙状態や血中コチニン濃度によって決定された量を使い、ニコチンガムのような短時間作動性のニコチン代替治療薬を禁断症状のコントロールに使っている4)。 治療期間は、患者の状態によって決定する。我々は患者に、薬の効果が最大限に得られ、タバコ依存症から安定した回復に至るだけの、十分に長い薬物療法を勧奨している。バレニクリンも基本的な薬として使われ、必要に応じて12~24週間又はそれ以上続けることが出来る。臨床試験では、52週間でも安全ということが証明されている5)。 特にバレニクリン使用中の早期には、患者はしばしば、ニコチンガムのような短時間のニコチン代替療法薬を、禁断症状のコントロールに必要とする。ニコチン依存症センターでは、今まで4万人以上の患者を治療し、(他疾患でメーヨークリニック)入院中患者へのベッドサイドカウンセリングや、外来カウンセリング、重症タバコ依存症患者のための8日間センター入所治療プログラムも提供している。
 1年後の禁煙成功率は、外来カウンセリングで22%、入院中患者のベッドサイドカウンセリングで32%、センター入所プログラムで45%である。(薗潤・薗はじめ 訳)

参考文献
1. Brody AL, Mandelkern MA, London ED, et al. Cigarette smoking saturates brain alpha 4 beta 2 nicotinic acetylcholine receptors. Arch Gen Psychiatry. 2006;63:907-915.
2. Dale LC, Hurt RD, Offord KP, Lawson GM, Croghan IT, Schroeder DR. High-dose nicotine patch therapy. Percentage of replacement and smoking cessation. JAMA. 1995;274:1353-1358.
3. Jorenby DE, Hays JT, Rigotti NA, et al. Efficacy of varenicline, an alpha4beta2 nicotinic acetylcholine receptor partial agonist, vs placebo or sustained-release bupropion for smoking cessation: a randomized controlled trial. JAMA. 2006;296:56-63.
4. Ebbert JO, Sood A, Hays JT, Dale LC, Hurt RD. Treating tobacco dependence: review of the best and latest treatment options. J Thorac Oncol. 2007;2:249-256.
5. Williams KE, Reeves KR, Billing CB, Jr., Pennington AM, Gong J. A double-blind study evaluating the long-term safety of varenicline for smoking cessation. Current Medical Research and Opinion. 2007;23:793-801


Treating Tobacco Dependence - State of the Art
Richard D. Hurt, M.D.
Professor of Medicine, Mayo Clinic College of Medicine; Director, Nicotine Dependence Center

In recent years tobacco dependence has received more attention for the severe medical problems that it causes, but also as the severe addiction that it is. This is led physicians and healthcare professionals to more aggressively treat smokers with more intensive behavioral counseling and pharmacotherapy. The 2008 US Public Health Service Guideline acknowledges that there is a dose response for behavioral interventions and recommends pharmacotherapy for each smoker including combination therapy when indicated. With the recent introduction of varenicline in Japan, Japanese healthcare providers now have the opportunity to utilize three different medications, varenicline, nicotine patch therapy, and nicotine gum therapy, for the treatment of tobacco dependence.

The neurobiological basis for tobacco dependence has become more understood in the recent past. Specifically the α-4, β-2 nicotinic acetylcholine receptor is up regulated by the frequent administration of high arterial concentrations of nicotine from smoking cigarettes leading to an increased number of these high affinity receptors. The cigarette is the most efficient delivery form of nicotine that exists and delivers nicotine to the pulmonary circulation whereby it is delivered to the arterial circulation in just a matter of seconds. In fact, as few as three cigarettes smoked in succession will saturate 80% or more of the α-4, β-2 nicotinic acetylcholine receptors in the brain of smokers.1 Little wonder that medicinal nicotine and other pharmacotherapies have had limited success.

Compared to smoking, a 21 mg nicotine patch dose delivers only about a 50% median venous concentration of nicotine and cotinine.2 Therefore, we have advocated for many years the use of high dose nicotine patch therapy matched either to the smoker’s baseline cotinine concentration (while smoking) or the baseline number of cigarettes smoked per day. For patients smoking 20-30 cigarettes a day, we use a nicotine patch dose of 21-35 mg per day and supplement that with a short-acting nicotine replacement product, like nicotine gum, for nicotine withdrawal symptom control. For heavier smokers, we regularly use a nicotine patch dose of 42 mg per day.

Varenicline was developed as a specific α-4, β-2 nicotinic acetylcholine receptor agonist/antagonist. It has a higher affinity for the nicotinic receptor than does nicotine, therefore, it helps block the rewarding effect of smoking when the smoker is taking varenicline. Varenicline has been shown to have a dose response with the recommended dose up titrated from 0.5 mg a day to 1 mg twice daily.3 The two most common side effects are nausea and vivid dreams. Both of these side effects, though frequent, are often not severe enough to cause an individual to stop taking the medications. There have been recent reports of changes in psychiatric symptoms in smokers who are trying to stop smoking using varenicline including depressed mood, suicidal ideation, as well as other psychiatric symptoms. These are currently being investigated by the US FDA and no causal relationship has been established. It should be pointed out that depressed mood, depression, suicidal ideation and suicide are more common in smokers than in nonsmokers to begin with. There is no biologically plausible reason why varenicline should cause such a phenomenon, but caution is advised when treating smokers because of their preponderance of psychiatric and medical co-morbidity in this population.

At the Mayo Clinic Nicotine Dependence Center, our services are provided by Tobacco Treatment Specialists under the supervisor of a physician. The principles of our treatment program are based on behavioral treatment, addictions treatment, pharmacotherapy, and relapse prevention. We often use medications in combination. Specifically, we use nicotine patch therapy in a dose determined by the patient’s smoking rate or serum cotinine and use short-acting NRT such as nicotine gum for withdrawal symptom control.4 Duration of treatment is determined by how well the patient does. We encourage the patients to use the medication long enough to get maximal effects and to develop a stable recovery from tobacco dependence. Varenicline is also used as a base medication and can be continued for 12-24 weeks or longer if need be. It has proven to be safe in a 52-week clinical trial.5 Patients often need short-acting NRT such as nicotine gum for withdrawal symptom control especially during the early phases of varenicline therapy. At the Nicotine Dependence Center we have now treated over almost 40,000 patients and provide a range of services from bedside counseling in our hospitals, to outpatient counseling, to an 8-day residential treatment program for patients with severe tobacco dependence. Smoking abstinence rates at one year range from 22% for the outpatient counseling, to 32% for bedside counseling in the hospital, and 45% for patients entering our residential treatment program.


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《資 料》

平成19年度千葉県委託・喫煙防止出前健康教室事業
市民団体と地方自治体との共同活動 2年目の実践報告


タバコ問題を考える会・千葉
大谷美津子、中久木一乗、丸山恵梨子、丸山 純、 紅谷 歩、粟飯原靖司、杉山精一、島崎洋一、星野啓一、大国義弘、金子教宏、田那村雅子

連絡先
〒162-0063 東京都新宿区市谷薬王寺町30-5-201 日本禁煙学会気付
タバコ問題を考える会・千葉 代表世話人
  大谷美津子
  TEL: 090-4435-9673 FAX: 03-5360-6736
  e-mail:desk@nosmoke55.jp

キーワード:喫煙防止教育、幼稚園児と低学年限定、出前健康教室、市民団体、行政委託

はじめに
 平成18年度に実施された千葉県委託・喫煙防止出前健康教室事業1-2)が、平成19年度も当会への委託継続となり、実施されたので概容を報告する。
 平成19年度は、事業の目的が「低年齢期から、将来喫煙者とならないようタバコの害への理解を深め、親子でタバコの害について話し合う機会作りをする事で、保護者等の禁煙をも促進する」とされ、小学校低学年と幼稚園児限定となり、前年度とは違った局面があった。
 当会への委託経緯は前稿で詳細に述べたが、タバコ問題にのみ特化し、多職種(医療職、議員、教職員等を多く含む会員95名))による非営利の市民団体であり、毎月の定例会開催及び会報の定期発行(現在119号)・各種啓発活動を、10年近く続けてきた会の実績が認められたものと考えている。

対象と方法
 平成19年度事業における前年度との変更点は、表1のように対象年齢を小学校低学年児童ならびに幼稚園児に限定し、対象地域を習志野市、八千代市に限り、総数50校以上とし、教室実施の前後で、意識調査(表2)を実施すること等であった。


表1.事業比較
  平成18年度 平成19年度
 対象学年 小・中学生 幼稚園児・小学校低学年
 対象地域 千葉県内全域
(会で出前先開拓)
八千代市内全小学校及び
習志野市内全幼稚園と小学校
 委託対象学校数 40校以上 50校以上
 契約月 6月上旬 10月下旬
 出向学校数  42校 53校
 開催教室数 46教室 81教室
 教室開校期間 平成18/9/27~ 平成19/3/15
(半年間弱)
平成19/11/7~平成20/2/29
(4か月間弱)
 1回の授業時間   通常45分間から最長2時間 10~45分間 最長1時間
 受講者総数 7059名 (329名)7448名
 受講園児・児童・生徒数 6455名 (329名) 6855名
 教職員数 267名 308名
 保護者等 373名 285名
 事業予算 1,000,000円以内 同左
 事業精算額 959,575円 1,000,000円
主だった県委託概要及び実績の、年度別比較である。平成19年度においては県からの委託時期の関係上、前年度以上に短期間での取り組みとなり、市民ボランティア集団である当会としては限界に近い状況であったが、教室数や受講者数も多く成果をあげることができた。


表2.出前教室事業実施前・後における意識調査

 実施前調査
  ・質問項目1:皆さんは大人がたばこを吸うことはよいことだと思いますか。
  ・質問項目2:皆さんのおうちのかたでたばこを吸うかたはいますか。
 実施後調査
  ・質問項目1:皆さんは大人がたばこを吸うことはよいことだと思いますか。
  ・質問項目2:皆さんのおうちの方に今日聞いたお話しについて、お話ししてくれますか。

千葉県より、出前教室事業の実施効果を確認する為にこども達への意識調査協力を求められ遂行した。


 対象地域の限定や学校数の増加は、工夫により対応しやすいが、「低年齢層対象」という事は、高学年・中学生が対象であった平成18年度の教材は使えず、新たな教材製作と講話技術の習得が必要となった。そこで、全国の先人のお知恵を拝借すべく、6つの文献3-8) を参考に勉強させていただき、ときにはお断りの上、画像を借用させて頂いたものもある。
 なお、千葉県にも情報提供を行い、低学年児童・園児用教材(図1))が県により作成され配布された。さらに保護者に対しては、平成18年度同様に千葉県作成リーフレット「赤ちゃんをたばこから守ろう」が配布された。出前教室事業実施前・後における意識調査(表2)については、県より実施依頼があったもので、「喫煙防止出前教室の評価を行うとともに、今後の喫煙防止教育のあり方についての検討材料とする」とのことであった。
 また、参考までに幼稚園児用の講話の一例を以下に記しておく。
 まず街中にある禁煙マークを映し「なぜ禁煙マークはあるのでしょう?」という問い掛けから開始した。子ども達は幼稚園・小学校低学年など年齢は関係なくほぼ同様に、「火事を出さない為」「火傷しない為」「喘息が起きない為」等々の声が上がる。その後自然と家庭における受動喫煙の苦しみや喫煙家族への心配などの思いを次々と話し出す。子ども達の思いを受け止め共感し、知識や家族への思いやりを褒めつつ、県作成教材(図1)に原則として大まかに沿って進行させた。
 注意点として「悪いのはタバコであって、喫煙者や販売店が悪いのではない」「喫煙は病気であり、禁煙外来でニコチンパッチやニコチンガムによる治療ができる」「正しい知識を得た皆さんは、絶対に喫煙しないで下さい」「煙から逃げて下さい」などのメッセージを盛り込んだ。


図1.千葉県作成教材
図1.千葉県作成教材図1.千葉県作成教材
A4の大きさで1枚であり、表裏両面印刷されている。受講した全ての園児・児童に配布された。
これは本人の理解を深めるとともに、家庭に持ち帰り話し合う機会とし、保護者への啓発も視野に入れ作成された。


結果
 表1の如く正式契約が10月下旬となり、冬休みを含め僅か4か月弱の開催期間となった。開講日数54日間に81教室を開催し、総数7,448名が受講した。それだけ講師陣の負担は大きなものであったが、事業継続のためにも全て予定通りに順調に終了した。なお、表1の受講者数欄で (329名)という括弧内の数字は、学校が高学年対象と思い込み、防煙教育を受けた高学年の人数である(もちろん低学年にも行なった)。
 出前教室事業実施前・後における意識調査の結果については、県からは概ね次のように報告を受けている。「出前教室により意識の変化が見られタバコの害への認識が高まった。全体的に幼稚園児のほうが出前教室による効果は高い上、幼稚園での体験を家庭で話す傾向が強く、子供が小さい頃から喫煙防止教育を行うことの効果はより高いと思われる」
 また、以下にそれぞれの立場からの声を記載する。
・現場からの声:
ある4歳児は「いやー、今日は本当に良い話を聞いた。それにしても何で売るんだろう?
本当に知っているのと知らないのとは大違い。有難うございました。親にも聞かせたい」と言い、低学年の子供達からも「もっと、いっぱい聞きたかった。時間がほしい。また聞かせてね」という声が聞かれた。
教職員からは、「寝た子を起こしてしまう事を危惧したが、終了してみると有益な授業であることがわかった。低学年からも重要だ」「家庭における受動喫煙によってタバコ臭い子ども達がおり、非喫煙家庭の子ども達がその臭気で体調不良になることがあり、非常に困った事態が起きている。このような事業は親子とも対象に今後も続けてほしい」といった声があった。
保護者からも、「幼い年齢からでも防煙教育が必要なことがよくわかった」「このような具体的な話は聞いた事がなかった。子ども以上に大人が聞きたい。親子ともに受講できる機会を増やしてほしい」等々の声が聞かれた。
・県としての評価:
県は今年度の結果報告を概ね以下のようにまとめている。「実施した各幼稚園、学校及び両市教育委員会から高い評価を頂き、大きな成果を上げることができた。低年齢対象の為、当初は現場において疑問の声もあったが、終了後は実施して良かったという意見が多数を占めた。実施した2つの市では喫煙防止教育の成果を地域全体に広げることができた。」
・講師陣の声:
「一人でも子どもたちをタバコ地獄から救ってあげたい」という講師陣全員の熱意により、無事に終わることが出来た。県からの委託時期により、短期間に多数の教室開催となったが、よく出来たと感慨無量である。(スケジュール調整その他のマネージ方法については前稿2)を参照されたい)

考察
 低年齢層への防煙教育は、理解力に不安を持たれる事も少なくなかったが、受動喫煙による不快感を日常で経験しているだけに、子ども達の関心が高く理解を得られやすく感じた。また保護者の参加が上級学年よりも得られやすく、親子一緒の啓発の機会となる可能性が高いと思われる。
 さらに、幼稚園・低学年からの啓発教育は、小学3年生以上の大人も含めた年齢層にとっては驚きでもあり、幼い内から啓発教育を受けた世代とのギャップを生じまいと、タバコ問題を意識するきっかけともなった。
 この2年間の取り組みの波及効果として、当会会員ならびにその周辺の方々におけるタバコ問題への意識が高まりにより、2つのアクションに結びついた。1つは、流山市民活動団体公益事業補助金公開審査会において、「小中学校への出前タバコ講座と成人の禁煙教室」実施が認められ、平成20年度実施予定となっている。2つ目は県会議員メンバーの支援で「TMKCタバコ自販機調査委員会」が発足した。行政へのタバコ問題意識付けのきっかけとして、千葉県内自治体本庁舎にあるタバコ自販機設置状況調査を実施し、結果発表は県政記者室の記者会見の場で行なわれた。
 また、防煙教育=高学年という思い込みによって、図らずも高学年にも啓発授業ができた事は幸運であったが、その折に幼稚園や低学年にもタバコの害を話している事を伝えると、全員の背筋が伸び真剣に聞く体制がさらに出来上がる事を目の当たりにした。これは社会人においても同様の反応が見られた。

まとめ
 平成18年度・平成19年度と2年間続いた千葉県委託喫煙防止出前健康教室事業は、地域への有効な啓発事業であったといえる。今後とも、この事業が継続される事を願っている。
 そのためには、県への働きかけが必要であろう。「私達の会から要望する」「議会で質問・要望してもらう」などが考えられるが、可能なところから、子どもたちのために取り組んでゆきたいと考えている。

謝辞
 NGOと地方自治体との画期的な取り組みと言われるこの事業を、千葉県が2年間継続し、しかも当会に委託下さったことに心より感謝申し上げます。

参考文献
1) 松崎道幸;こどもの喫煙開始を防ぐ包括的取り組みのきっかけとなるNGOと地方自治体の共同. 禁煙会誌 2008;3;11 
2) 大谷美津子、中久木一乗、紅谷 歩ほか: わが国初の行政と市民団体による多数校対象の大規模かつ計画的な防煙教育. 禁煙会誌 2008;3;12-14
3) 平間敬文:子供たちにタバコの真実を. かもがわ出版. 2002
4) 平間敬文:タバコってなんだ? . インタープレス.2005
5) 禁煙推進の会・愛媛:喫煙防止教育指導書. 改訂追補版. 2006 : CD2枚付き
6) 山形県喫煙問題研修会:がんばれ! はむっち. 第4版改訂版. 2005 : CDROM
7) 日本禁煙学会:禁煙学. 南山堂. 1版. 2007
8) 日本循環器学会:今から始める喫煙防止教育. 2版: DVD


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《資 料》

近隣からの受動喫煙に対する対応例

嫌煙権確立をめざす法律家の会 会員弁護士
岡本光樹

連絡先
〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-2-1 日本プレスセンタービル6階
小笠原国際総合法律事務所
  弁護士 岡本 光樹
  TEL: 03-5501-7211(代表) FAX: 03-5501-7212
  e-mail : okamoto@ogaso.com

キーワード:受動喫煙被害、浮遊粉じん濃度、近隣、内容証明郵便、大学敷地内禁煙

1.事案の概要
 都内の私立大学が、マンションに隣接する場所に喫煙所を設置したため、マンションにタバコ煙が流れ込む状況となった。マンション住人は、大学に対して、文書・内容証明郵便等により何度も苦情を申し立てたが、大学は適切な措置を一切講じることなく、約半年間にわたって当該喫煙所の状況は改善されなかった。
 マンションの住人から被害の相談を受けて、当会の作田学理事長と筆者が現地に赴き、浮遊粉じん濃度を測定し、当該測定結果に基づいて、筆者がマンション住人の代理人弁護士として内容証明郵便を送ったところ、大学は直ちに当該喫煙所を撤去した。
 訴訟等に至ることなく、受動喫煙被害を改善できた成功例として報告する。

2.近隣マンションの受動喫煙被害と交渉の経緯
 平成19年12月、学校法人産業能率大学が、新校舎の建設に伴い、その喫煙所を移設した。当該喫煙所は大学の敷地内に設置されたのだが、隣地マンションにまさに隣接しており、マンションの真下ともいうべき位置に設置された。その結果、喫煙所のタバコ煙がマンションを直撃する状況となった(写真1~5)。

写真1.2階居室内から窓越しに見た喫煙所


写真2.2階居室内から窓越しに見た喫煙所

写真3.3階居室ベランダから見た喫煙所


写真4.喫煙する学生

写真5.喫煙する女子学生

写真6.浮遊粉じん濃度測定器

 マンション住人は、窓を開けるとタバコ煙が部屋に流入してくるため、安心して窓を開けることができない生活となった。また、建物の構造上、各居室の窓を閉めた状態でも、マンションの共用部廊下部分等にタバコ煙が流れ込む状態となった。マンション住人は、窓を閉め切っても、共用部廊下からの、また、外からのすきま風により流入してくるタバコ臭に悩まされることとなった。また、洗濯物をベランダに干すこともまた室内の風呂場等に干すことも、洗濯物にタバコ臭が染み付いてしまうため、できなくなった。
 耐えかねたマンション住民が中心となって、マンション管理組合から大学に、平成20年2月11日、3月3日、3月20日、4月、5月25日に内容証明郵便又は配達記録付郵便を送り、当初より当該喫煙所の撤去を要請し続けたが、大学は特段の対応策を講じなかった。
 マンション管理組合からの内容証明郵便及び書面の内容は、概ね以下の理由を挙げていた。
・喫煙所の移設以後、マンション住民は受動喫煙の被害を受けていること。
・受動喫煙によりマンションの評価価値が下がること。
・喫煙所における話し声・笑い声による騒音被害があること。
・喫煙所の入り口に目隠しが作ってあるため、夜間等は喫煙所からマンションへ侵入のおそれがあり、防犯上の問題があること。
 これに対して、大学側は、表面的には大学敷地内の全面禁煙を検討する考えがあるなどとしつつ、他方、敷地内全面禁煙には周辺近所でのポイ捨てが増えるなどと述べ、また全面禁煙に踏み切ることについて長期間を要するなどの言い訳をして、当該喫煙所の撤去には一切応じなかった。大学は敷地内全面禁煙を検討していることを持ち出すことによって、かえって、現に喫煙所に隣接して被害を受けているマンション住民の状態を放置するものとなっていた。
 大学は、マンション管理組合からの内容証明郵便が届くと、当該喫煙所に掲示物を掲示していたが、その掲示の内容は、「声」や騒音についてのみであり、受動喫煙による健康被害については全く理解していないようであった。

3.筆者らの粉じん濃度測定
 このような状況が続き、マンションの住民が筆者らに被害を訴えて、相談に来た。そして、作田理事長と筆者が、5月30日に現地に赴いて、状況を視察するとともに、TSI社AM510型粉塵計(写真6)を使用して浮遊粉じん濃度PM2.5を測定した。
 マンションの2階の居室内において居室の窓を開けて浮遊粉じん濃度を測定したところ、大学の昼の休憩時間には多数の学生が当該喫煙所に集まり、0.15mg/m3(厚生労働省ホームページ「分煙効果判定基準策定検討会報告書」http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/06/h0607-3.html参照)を、常時超える数値が測定された。さらに、ピーク時には0.22mg/m3という高い数値が測定された。
 これを基にして、筆者が内容証明郵便を作成し、それを大学に送付した。
 現地を実際に見て感じたことは、未成年者に見える若い学生達が多数集まって、辺りを白く煙らせながら、喫煙していたのが印象に残った。また、若い女子学生も非常に多かった。大学による積極的な喫煙対策や禁煙教育が講じられていない現状を非常に遺憾に感じた。

4.弁護士による内容証明郵便の送付
 筆者が送った内容証明郵便は、資料1の通りである。
 筆者が、特に注意したのは以下の点である。
 大学側は、当該喫煙所を騒音等の問題としか認識できていないようであったため(マンション住民は再三にわたり受動喫煙の健康被害を書面で伝えていたにも関わらず、大学は理解していないようであった。)、受動喫煙による健康被害が一番の問題であることを強調した。
 また、その説得力を増すために、上記厚生労働省の「分煙効果判定基準策定検討会報告書」を引用し、実際に測定した粉じん濃度の結果も記載した。
 文の末尾では、大学側に期限内に必ず喫煙所の撤去をさせるべく、記載の期限が過ぎた場合には法的措置等を講じるとの最後通牒としての文言を記載した。
 結局、大学は上記内容証明郵便に記載の期限である6月30日に当該喫煙所を閉鎖した。

5.本件解決のポイント
 大学は、住民が苦情を訴え続けた約半年間一向に改善の措置を講じなかったが、本内容証明郵便が届くとすぐにその期限内に喫煙所を撤去した。
 それまで全く動こうとしなかった大学が、途端に動いた理由として、筆者としては以下の点が挙げられるのではないかと考えている。
1) 医師による、浮遊粉じん濃度の客観的な測定数値と厚生労働省の基準を示したこと
 本件大学の対応を見ると、大学側は、喫煙所の問題を騒音の問題としか理解しておらず、受動喫煙の健康被害を十分に認識していないようであった。受動喫煙の健康被害を相手に説得するためには、単なる臭いの快不快といった問題ではなく、健康被害の問題であることを理解させる必要がある。特に、喫煙者は、受動喫煙の健康被害を過小評価する傾向にある。また、非喫煙者であっても、受動喫煙の健康被害を理解しようとしない者もいる。
資料1 弁護士による内容証明郵便
資料1 弁護士による
内容証明郵便
 臭いについてはその感じ方は個人差が大きく、証明が困難である。
 そこで、単なる臭いの問題に終わらせないよう、浮遊粉じんの濃度測定という客観的な数値測定が有効であると思われる。
また、健康問題であることを理解させるため、厚生労働省の基準値を示すことによりさらに説得力を増すことができるものと思われる。
(なお、受動喫煙には安全レベルはなく、0.15mg/m3以下であっても危険であることを忘れてはならない。また、0.15mg/m3は喫煙室内の基準である。本事案のように0.15mg/m3を超える数値の場合には、喫煙室内の基準をも上回る異常な数値と言うことができるであろう。)

2) 弁護士名での内容証明郵便であり、法的手段、マスコミ、公的・私的各関係機関に対応する旨の最後通牒を行ったこと
 本件の大学の対応からは、肩書を偏重する権威主義的な思考パターンや訴訟を起こされることを嫌う思考パターンがうかがわれる。
 本件大学は、個人が言っても聞く耳もたなかったにもかかわらず、弁護士がついた途端、急に態度を変えることとなった。弁護士としてしばしば経験することであるが、このように「個人」なのか「弁護士」なのかといった肩書によって、対応を変える者は多いようである。
 マンション住民は、筆者と同趣旨の内容を言い続けていたのであり、正当な内容を言っていたのであり、それを無視し続けてきた本件大学はその態度を恥ずべきである。
 また、本内容証明郵便には、大学が期限内に喫煙所を撤去しない場合には、訴訟等をすることを記載した。大学は、訴訟を起こされてその事実が世間に知られた場合に、大学の評判が下がることを嫌って、喫煙所を撤去したのではないかと思われる。 

6.訴訟になった場合の若干の法的考察
 訴訟になった場合の法律構成について若干の検討を加えておく。
 本件は大学の敷地内において、大学が喫煙所を設置したことの問題であり、大学がその敷地内に喫煙所を設置すること自体はまずは大学の自由な裁量に属するものと考えられる。
 しかしながら、たとえ敷地内の行為といえども、他人の権利を害するような行為をしてはならないのは、当然のことである。 これについての判例の基準は、「社会観念上被害者に於いて認容すべきものと一般に認められるか否か」が基準であり、それを超えれば不法行為となるとした(大判大正8年3月3日及び受忍限度論)。
 こうした判例及び受忍限度理論からすれば、裁判所における立証においても、浮遊粉じん濃度の測定は重要と思われる。浮遊粉じん濃度によって、受動喫煙の被害の程度を具体的に立証することができる。
 (もっとも、受動喫煙に安全レベルがないことが医学的に言われていることに鑑みれば、0.15mg/m3数値以下であっても受動喫煙は危険であることが十分に認識されるべきであり、被害者は少量の受動喫煙についても受忍する必要がない旨の、見識ある判決がなされるべきであろう。)

7.まとめ
 受動喫煙による被害が現に発生している場合に、医師及び弁護士が協同して早い段階で関与し、客観的かつ説得力ある交渉を行って、早期に問題を解決することが重要である。
 本事例報告が、今後の受動喫煙被害解決の参考になれば幸いである。
以上


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《資 料》

千葉県内主要地区飲食店の無煙環境調査結果

紅谷 歩
1, 2、中久木一乗1、大谷美津子1

1. タバコ問題を考える会・千葉
2. (株)友愛メディカル 友愛薬局下館店

連絡先
〒275-0001 千葉県習志野市東習志野3-7-16
  紅谷 歩
  TEL: 047-471-4019 FAX: 047-471-4019
  e-mail:abmeso189@yahoo.co.jp

キーワード:千葉県、飲食店、受動喫煙防止、無煙、タバコ煙

1.目的
 多くの有害物質を含むタバコ煙による受動喫煙の被害は深刻で、その被害を世界的規模で防ぐため、2005年にタバコ規制枠組み条約(FCTC)が発効し、第8条では受動喫煙からの効果的な保護が求められている。FCTC発効後、海外では受動喫煙を防止するための様々な施策がとられるようになり、その中でも、多くの人の働く職場であると同時に、多くの客が利用する「食事」をする場で、空間が狭いといった特徴をもつ飲食店においては対策が進み、イギリス、フランス、イタリアなどでは、居酒屋を含むすべての飲食店の無煙化が法律で定められている。
 日本では、2003年に施行された健康増進法第25条の中で、施設などにおける受動喫煙の防止について定められていて、飲食店もその対象に含まれている。これは努力義務ではあるが、その後2005年に厚生労働省から各都道府県の労働局に出された通達1)では「十分な受動喫煙対策ができない場合は全面禁煙による対策を推奨する」としていて、施設の管理者に効果的な受動喫煙防止策をとるよう求めている。しかし、健康増進法から5年が経過したが、飲食店の無煙化は遅れていて、大きな問題を抱えているように思われた。
 そこで、まずは現状を把握する必要があると考え、千葉県内の飲食店の無煙環境を調査し、一般市民の利用者の便宜を図るとともに、「受動喫煙のない社会」の実現の方策を考えるための資料とすることとした。

2.調査対象と調査方法
1)調査対象
 2008年2月から4月にかけて、千葉県内の以下の地域における飲食店の無煙環境について調査を行った。調査は、千葉県の県庁所在地である千葉市の中心部である千葉駅周辺(千葉地区)と、国際会議などの多く行われる幕張メッセ周辺(幕張地区)、東京に近く、ベッドタウンの一つでもある船橋駅周辺(船橋地区)の3地区で行い、各地区の商店街、デパート等の大型施設のレストラン街、ホテル内の飲食店を対象とした。(表1
 商店街については、JR船橋駅北口・南口それぞれのメインストリートに面した、1階にある計25店舗を調査し、居酒屋は調査対象から除外した。また、ホテルはビジネスホテルを除いた。
2)調査方法
 調査は各飲食店を直接訪問して行った。千葉駅周辺の一部の施設については案内書及びHPを参考にした。船橋駅周辺では、従業員に自分の店舗のタバコ煙環境について調査用紙に記載してもらう形式をとった他、禁煙席・喫煙席の数についても調査を行った。調査用紙には、タバコ煙環境、禁煙席・喫煙席の座席数についての記載をお願いした。責任者不在により回答を不可とした店舗については郵送による回答をお願いし、それも不可とした店舗については、調査員がタバコ煙環境について判断を行った。
 また、飲食店のタバコ煙環境に関する分類は「中久木等の分類」を用いた。(表2、文献2

表1.調査地区と店舗数
調査対象
  1) 商店街飲食店
   ・船橋:25店舗
  2) 大規模レストラン街飲食店
   ・船橋:4施設、51店舗
   ・千葉:4施設、62店舗
  3) ホテル内飲食店
   ・千葉:2施設、10店舗
   ・幕張:6施設、32店舗

1つの商店街と16の施設を対象に調査
表2.飲食店の「タバコ環境」分類

店舗のタバコ煙環境を無煙・有煙に分類
3.結果
1)商店街飲食店の無煙環境
 船橋地区の商店街にある飲食店25店舗で調査を行い、そのうち8店舗(32%)が無煙であった。(表3

表3.商店街飲食店のタバコ煙環境
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
JR船橋駅前商店街 25 8(32%) 2(8%) 10(40%) 5(20%)
JR船橋駅の駅前商店街で調査

2)大規模レストラン街飲食店の無煙環境
 大規模レストラン街の飲食店全体では、8施設、113店舗のうち、37店舗(33%)が無煙であった。各地区、各施設間で大きな差がみられた。(表4
 船橋駅周辺では、4つのすべての施設で無煙店舗が20%以下で、総店舗数51のうち9店舗(18%)が無煙であった。施設間の差はあまり見られなかった。
 千葉駅周辺では、4施設のうち2施設では無煙店舗が50%以上、他の2施設では無煙店舗は10%以下であった。総店舗数62のうち28店舗(45%)が無煙であった。施設間で差がみられた。

表4.大規模レストラン街飲食店のタバコ煙環境
船橋地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
船橋東武 17 3(18%) 1(6%) 13(76%) 0
船橋西武 11 2(18%) 0 9(82%) 0
FACE 16 3(19%) 0 11(68%) 2(13%)
イトーヨーカドー 7 1(14%) 0 4(57%) 2(29%)
合計 51 9(18%) 1(2%) 37(73%) 4(8%)
千葉地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
千葉三越 11 10(91%) 0 1(9%) 0
千葉そごう 24 16(67%) 0 8(33%) 0
ペリエ千葉 21 2(10%) 1(5%) 12(57%) 6(28%)
千葉パルコ 6 0 0 2(33%) 4(67%)
合計 62 28(45%) 1(2%) 23(37%) 10(16%)
船橋地区と千葉地区で調査


3)ホテル内飲食店の無煙環境
 ホテル全体では、8施設42店舗のうち、19店舗(46%)が無煙店であった。レストラン街同様に、各地区、各施設間で差がみられた。(表5
 千葉地区のホテルでは、2施設10店舗のうち無煙店は1店舗もなかった。
 幕張地区のホテルでは、6施設のうち4施設で、無煙店が50%以上であった。総店舗数32のうち19店舗(59%)が無煙であった。
表5.ホテル内飲食店のタバコ煙環境
千葉地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
ミラマーレ 6 0 0 5(83%) 1(17%)
三井ガーデンホテル 4 0 0 2(50%) 2(50%)
全体 10 0 0 7(70%) 3(30%)
幕張地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
スプリングス 6 5(83%) 0 0 1(17%)
ニューオータニ 9 6(67%) 0 3(33%) 0
グリーンタワー 3 2(67%) 0 1(33%) 0
フランクス 3 2(67%) 0 0 1(33%)
マンハッタン 5 2(40%) 0 2(40%) 1(20%)
アパホテル 6 2(33%) 0 4(66%) 0
全体 32 19(59%) 0 10(31%) 6(9%)
千葉地区と幕張地区で調査



4)調査全体の結果
 商店街、レストラン街では、無煙の飲食店は全体の30%程度であった。
 ホテル内の飲食店では、無煙の飲食店が全体の46%であった。
 調査した180店舗のうち、無煙店は64店舗(36%)であった。(表6

表6.調査全体の結果
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
商店街飲食店 25 8(32%) 2(8%) 10(40%) 5(20%)
大規模レストラン
飲食店
113 37(33%) 2(2%) 60(53%) 14(12%)
ホテル内飲食店 42 19(46%) 0 17(40%) 6(14%)
全体 180 64(36%) 4(2%) 87(48%) 25(14%)
千葉県内の飲食店計180店舗を調査

5)禁煙席・喫煙席に関する調査結果
 船橋地区の店舗については、店舗の無煙、有煙のみならず、禁煙席・喫煙席といった座席数に関する調査も行った。
 船橋地区で調査した商店街、レストラン街の計76店舗、総席数3916のうち、禁煙席は2051席(52%)であった。(表7
 全体では禁煙席は50%程度だが、レストラン街の4施設のうち2施設においては、禁煙席が75%近くを占めていた。
 また、船橋地区のレストラン街飲食店について、施設間で比較すると、表4の無煙・有煙店の割合では差の見られなかった施設でも、表7の禁煙席・喫煙席の割合では大きな差がみられた。

表7.飲食店の禁煙席・喫煙席の割合
  総席数 禁煙席 喫煙席
商店街 978 469(51%) 454(49%)
船橋西武 947 469(75%) 160(25%)
イトーヨーカドー 923 322(73%) 117(27%)
船橋東武 439 468(49%) 479(51%)
FACE 629 323(33%) 655(67%)
全体 3916 2051(52%) 1865(48%)
座席数に関しては船橋地区で調査


4.考察
 今回の調査結果は飲食店の無煙化の遅れを示している。その原因を、調査結果と、訪問調査により得られた飲食店従業員の意見等から考察する。
 結果1)の商店街における調査からは、2つの傾向がみられた。まず、無煙店8店舗のうち7店舗が、客の回転を重視するスタンド式の小店舗であった。調査の中で「店が広ければ分煙にした。喫煙者の事も考えなくてはいけない」と答えた無煙店の従業員もいた事からも、このようなスタンド式の店舗では、必ずしも受動喫煙防止に関して理解があるために店舗を無煙としているわけではない事が推測される。次に、いわゆるチェーン店のカフェ・ファストフード店に無煙店は見られず、対策の遅れが目立った。これについては、調査をする中でその原因の一部を垣間見ることができた。今回の調査は店舗を直接訪問し、店員に調査用紙に記載してもらう形式をとったが、あるチェーン店の店長の中に、自分の責任では調査に協力できないとした方がいた。簡単な調査に協力する権限さえ与えられていない店長が、自分の判断で店を無煙にできるとは考え難い。世間で問題となっている「雇われ店長」という社会問題が、飲食店の無煙化の遅れの一因となっていると考える。
 結果2)のデパート等のレストラン街については、施設により受動喫煙防止への取り組みが大きく異なり、差がみられた。場所によっては、受動喫煙防止を目的として9割以上の飲食店を無煙化した施設や、不十分ではあるがランチタイム無煙を全店舗で行う施設があった。このようにレストラン街では施設単位で対策が進んでいるところがあったが、一方では無煙としたくても施設管理者の方針で不完全分煙にするよう指示された店舗もあり、店舗単位では対策を取れないケースもあった。レストラン街飲食店の無煙化を進めるには、各店舗への啓発も必要であるが、同時に施設管理者への啓発が必要であると考える。
 結果3)のホテル内飲食店の調査では、無煙店が46%で、商店街やレストラン街の結果を上回った。千葉のホテルでは無煙店がなかった事から、一概にホテルで無煙化が進んでいるとは言えないが、幕張周辺のホテル内飲食店では全体の60%以上が無煙となっていて、対策が進んでいると言える。これは幕張には国際会議場があり、外国人利用客も多いため、無煙化の要望が他の地域に比べると多い事や、外国人利用客への配慮からホテル側が無煙化を進めている事が理由として考えられる。日本において無煙化が進まないのは、一般市民への受動喫煙の危害情報が十分に周知されていない社会環境に一因があるのかもしれない。
 結果5)の座席数調査では、無煙・有煙店の比率では差がみられなかった施設でも、座席数で比較すると大きな差がみられた。今回の調査で禁煙席の少なかった「FACE(船橋地区)」は、他の商業施設と異なり、駅ビルで、多くのオフィス・企業が入っているため、他施設に比べるとサラリーマンに利用が多いと推測される。この施設において禁煙席が少なかったことから、飲食店・施設が受動喫煙防止策や座席数を考える上で、店舗を利用する客層を考慮している事が伺えるが、本来は、利用するすべての人を受動喫煙から守るため、客層に関係なく飲食店を無煙化すべきである。
 今回の飲食店の無煙環境を評価するに当り、比較対象として当会(タバコ問題を考える会・千葉)が2006年に同地区で実施した調査結果があるが、結果を比較すると、受動喫煙防止策の進展は僅かなものであった(表8)。現状のままでは飲食店の無煙化が進展しない事が懸念される。

表8.2006年の調査結果との比較
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
2008年 76 17(22%) 3(4%) 47(62%) 9(12%)
2006年 56 10(18%) 2(4%) 33(58%) 11(20%)
2年前にも調査を実施した船橋地区で結果を比較

 また、飲食店の無煙環境を調査した報告は少ないが、今回の千葉における調査以外に、2007年に名古屋2)、2008年に東京3)で行われている。カフェを除く飲食店の無煙店の割合を比較すると、名古屋では224店舗中80店舗(36%)、東京は444店舗中106店舗(24%)、千葉は99店舗中31店舗(31%)であった。各地区で多少の差がみられたが、どの地区においても無煙化が遅れている事がわかる。
 このような無煙化の遅れをかんがみ、神奈川県では、受動喫煙から県民を守るためには徹底した対策を早急にとる必要があると考え、公共的な空間の禁煙化を定めた「受動喫煙防止条例(仮称)」が検討中である4、5)。この条例の骨子案では、利用者に選択の余地のない施設や多数の者が集合して利用する施設を第1種施設とし、例外なく禁煙(無煙)とするよう定め、第一種以外の施設は第2種施設とし、無煙か分煙を選択するよう定めている。この条例では飲食店は第2種施設に含まれているが、FCTCの受動喫煙防止ガイドラインでは、受動喫煙防止のため、立法上、行政上の措置により2010年2月までに公共の場、職場、レストラン等を例外なく無煙にするよう求めている6)。屋内完全禁煙化の有用性については、国際ガン研究機関(IARC)のHandbooks of Cancer Prevention第13巻作業部会で検証され、屋内完全禁煙化は、心疾患、呼吸器疾患の罹患率を減少する他、喫煙率を減少させる効果が有ることを明らかになっている7)。また、飲食店業界が懸念している禁煙化による経済影響については、松崎が過去10数年間のバーやレストランの完全禁煙がもたらすサービス業への経済影響について検討した論文について検証し、サービス業を法律で禁煙としても売り上げが減らなかった事を明らかにしている8)。今回の神奈川県の禁煙条例は、全国で初の県レベルで受動喫煙防止を定めた条例となるが、このような包括的な施策が全国レベルで必要である事は明らかで、FCTCのガイドラインに沿った、全施設を例外なく無煙とする効果的な施策をとるよう努力する必要がある。

5.結論
 千葉県内の飲食店の受動喫煙対策を調査した結果、無煙の店舗は全体の4割に満たず、健康増進法違反である店舗が6割以上にのぼることがわかった。飲食店の無煙化が進まない原因は様々であったが、店舗や施設ごとに対策を任せていている現状のままでは無煙化は進まず、受動喫煙による客と従業員への健康被害が続く事が懸念される。市民の健康増進と、従業員の受動喫煙防止の観点から、行政や飲食店に関する業界団体は、早急に飲食店の無煙化に取り組む必要がある。
 今後の研究課題としては、一定期間経過後の再調査の実施が挙げられる。今回の調査は飲食店への啓蒙を図り、各店舗に対して直接訪問による調査、調査結果の報告を行った。また、県政記者クラブに結果を報告し、一部の新聞で内容が取り上げられた事から、一定の啓蒙効果が得られたといえる。
 再調査により、今回の調査がどれだけ啓蒙効果があったかを測る必要がある。

 本稿の要旨は、第3回日本禁煙学会学術総会(2008年8月9日、広島国際会議場)にて発表した。

参考文献
1) 「職場における喫煙対策のためのガイドライン」に基づく対策の推進について:厚生労働省労働基準局安全衛生部長、基安発第0601001号、平成17年6月1日(http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-46/hor1-46-18-1-0.htm
2) 子どもをタバコから守る会・愛知(http://www.no-kidsmk-ai.com/):名古屋市内のデパート等における飲食店の禁煙調査
http://www5d.biglobe.ne.jp/~seagull/t-q-restaurant0705.htm.2007年5月31日。)
3) 中久木一乗:東京都内主要駅周辺デパート等の飲食店街の無煙環境調査結果.禁煙会誌 2008;3(5).
4) 松沢成文:ストップザ受動喫煙 神奈川県が禁煙条例制定に立ち上がった理由、中央公論、2008;123(8);102-113.
5) 神奈川県:「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例(仮称)」骨子案:2008年9月
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/kenkou/gan/pubcom/tobacco_kosshi.html
6) FCTC:受動喫煙防止ガイドライン、2007年7月 http://www.nosmoke55.jp/data/0707cop2.html
7) Tony Kirby:屋内完全禁煙化政策の有用性(国際ガン研究機関、Handbooks of Cancer Prevention第13巻作業部会の特別報告)、Lancet Oncology7月号、翻訳版:日本禁煙学会http://www.nosmoke55.jp/data/0809okunaikinen.html
8) 松崎道幸:サービス業(バー・レストラン・ホテル等)を法律で完全禁煙にしても売り上げは減らなかったー海外経験のまとめー.禁煙会誌 2008;3(4):66-71.


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《短 報》

東京都内主要駅周辺デパート等の飲食店街の無煙環境調査結果

タバコ問題首都圏協議会 (調査担当:分煙社会をめざす会)
中久木一乗、竹村 薫、平賀典子、紅谷 歩

連絡先
〒273-0031 千葉県船橋市西船4-12-1
  中久木一乗
  TEL: 047-434-0064 FAX: 047-432-2128
  E-Mail: nakakuki.dental@nifty.com

キーワード:都内主要駅、飲食店タバコ煙調査、無煙、有煙、常煙

はじめに
 対策の遅れている日本における飲食店の無煙化促進策を考えるにあたり、日本の首都:東京の 多くの人が利用する「デパート等の大型商業施設内飲食店街の無煙環境についての実態調査」を行なったので報告する。

調査方法ならびに対象
 2008年2月から5月にかけ、東京、新宿、渋谷、池袋の4つ駅周辺の、デパートなどの20の大型飲食店街施設を直接訪問し、施設内飲食店街案内書、並びに各施設のホームページ(HP)を参考に、施設内飲食店街526店舗のタバコ煙環境(無煙環境)について調査した。案内書やHPが不十分な場合は、直接店舗を訪問し聞き取り調査を行なった。
 飲食店街以外の、独立したレストラン・カフェは調査から除外した。なお、飲食店のうち、食事を主とするところをレストラン、喫茶を主とするところをカフェとした。
 飲食店内のタバコ煙環境は「無煙 」「有煙」の2つに分類し、次のように定義した。
「無煙」とは、タバコ煙が、全く存在せず、受動喫煙のない環境。
「有煙」とは、タバコ煙が存在し、どこかで、何らかの受動喫煙のある環境。これを「いわゆる分煙」「不完全分煙」「常煙」の三つに分けた
「いわゆる分煙」:専用喫煙室(所)を設け、煙を分けただけの「いわゆる分煙」で、喫煙室(所)から無煙飲食店内に煙は漏れないが、喫煙室(所)内で従業員や喫煙者が、あるいは喫煙室(所)からの排煙口付近で他の部屋や他の施設が、受動喫煙被害をこうむる可能性のある環境。
「不完全分煙」:「時間分煙」、「空間分煙」など、タバコ煙に配慮するものの、「いわゆる分煙」ではない環境。
「常煙」:タバコ煙に対してなんらの配慮がなく、常に受動喫煙被害をこうむる環境。

調査結果
1. 東京地区の全6施設における無煙店舗率は、1施設が100%、2施設が40%台などで、常煙店舗率は、5施設全てで10~22%であった(表1)。
2. 新宿地区の全5施設における無煙店舗率は、1施設が52%、2施設が44%などで、常煙店舗率は2施設で4または7%であった(表1)。

表1.東京・新宿地区の結果
東京地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
大丸東京店 21 21(100%) 0 0 0
新丸ビル 52 22(42%) 0 25(48%) 5(10%)
丸の内オアゾ 27 11(41%) 0 12(44%) 4(15%)
丸ビル 48 10(21%) 2(4%) 27(57%) 9(19%)
八重洲地下街 64 13(20%) 1(2%) 36(56%) 14(22%)
東京ビル トキア 24 2(8%) 1(4%) 16(67%) 5(21%)
新宿地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
新宿タカシマヤ 33 17(52%) 3(11%) 13(35%) 0
伊勢丹新宿店 27 12(44%) 0 14(52%) 1(4%)
小田急百貨店新宿店 27 12(44%) 0 13(48%) 2(7%)
京王百貨店新宿店 17 2(12%) 0 15(88%) 0
ルミネ 14 0 0 14(100%) 0
半数の施設で無煙店舗が40%以上見られた

3. 渋谷地区は他地区より飲食店舗数がやや少ない傾向があったが、全4施設における無煙店舗率は、1施設が33%、2施設が10%台で、常煙店舗率は、1施設で67%、1施設で10%であった(表2)。
4. 池袋地区の全5施設における無煙店舗率は、1施設で78%、1施設で24%、3施設は10%台で、常煙店舗率は、1施設で24%、1施設で3%であった(表2)。

表2.渋谷・池袋地区の結果
渋谷地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
東急東横店 12 4(33%) 0 8(67%) 0
渋谷西武 14 2(14%) 0 12(86%) 0
東急百貨店本店 10 1(10%) 0 8(80%) 1(10%)
渋谷パルコ 9 0 0 3(33%) 6(67%)
池袋地区
  店舗数 無煙 有煙
分煙 不完全分煙 常煙
池袋三越 9 7(78%) 0 2(22%) 0
メトロポリタンプラザ 29 7(24%) 0 21(72%) 1(3%)
西武池袋本店 21 3(14%) 0 18(86%) 0
池袋東武 51 6(12%) 0 45(88%) 0
池袋パルコ 17 2(12%) 0 11(65%) 4(24%)
殆どの施設で、無煙店舗が20%以下である

5. 4つの地区のレストラン445店舗とカフェ81店舗を比較すると、大きな差がみられた。レストランの無煙店は106店舗(24%)で、 カフェの無煙店の48店舗(57%)の半分以下の比率であった。 逆に、レストランは常煙店が49店舗(11%)あり、カフェの3店舗(4%)の3倍近い比率であった。

考察
 飲食店は、働く人にとっては生活のための「糧」を得る職場であると共に、訪れる人にとっては、「食」という生命維持に直結するエネルギーを補給する家庭に近い場でもある。どちらの立場でも、受動喫煙の健康被害を受けないことが、基本的人権として認められるべき場である。しかも、訪れる人は、不特定な要素もあるが、仲間・家族的つながりを持つ人も多く、家庭の延長線上の要素も強い。従って、「飲食店の無煙化」は、将来的に、あらゆる職場の無煙化につながるだけでなく、対策が急がれながらも、解決の困難さが指摘されている家庭の無煙化への糸口にもなると考え今回の調査を行なった。
 各施設の案内所を訪問し「タバコ環境調査目的であることを」を伝えて、飲食店街案内書をもらい、案内書に不備ある場合は店舗を訪問し聞き取り調査などを行なった。これらを集計後、郵送で結果確認とアンケート、資料配布を行なった。このように「タバコ煙について」働きかけたことだけでも、施設、店舗のタバコ煙に関する意識に少なからず影響を及ぼし、意義あったと考えている。
 タバコ煙環境を表すにあたって、その空間におけるタバコ煙成分の存在状況による分類とし、「無煙」と「有煙」に分け、さらに有煙を[いわゆる分煙]「不完全分煙」「常煙」とに分けた。「禁煙」・「規制なし」・「喫煙自由」のような行動を表す言葉、さらに、「完全分煙」という非現実的と考えられる言葉は、使わないことにした。
 調査結果を見ると、全店舗が無煙の施設から、無煙店舗のない施設まで、地域間、施設間で大きな差がみられた。しかし、常煙店の割合は全体では約10%と比較的小さく、殆どの施設・店舗で、不十分とはいえ、何らかの受動喫煙防止策を実施していることは、今後の対策を考える参考になると思われる。
 レストランとカフェでは、大きな差が見られた。レストランは「食の摂取」という生命維持に直結する場でありながら、無煙店舗率がカフェの半分以下で、常煙店舗率が3倍近かったことは、「飲食店の無煙対策は店舗だけに任せて置ない社会問題である」ことを示唆していると思われる。
 飲食店街の無煙環境に関する過去の報告は少なく、我々の知る限り、名古屋の報告1)のみであった。この名古屋市のデータと比較してみると、東京は無煙店舗がさらに少ないことが分かった。
 全体的にみると、大きな差があるものの、多くの店舗が不完全ながら何らかの受動喫煙防止策をとっている。必要性を理解しながら全面禁煙に踏み切れない施設や店舗のために、「市民の健康保持増進の視野に立って」神奈川県2)のように、行政が早急に飲食店の無煙化に取り組むことを強く望む。

結論
1.東京駅、新宿駅、渋谷駅、池袋駅周辺のデパートなど大型施設内飲食店街店舗の無煙環境(タバコ煙環境)調査を行なった。
2.全店舗が無煙環境にある施設から、無煙店舗が全く無い施設まで、大きな差が見られた。
3.レストランの無煙店舗率は、カフェの無煙店舗率の半分以下で、逆にレストランの常煙店舗率は、カフェの常煙店舗率の3倍近かった。
4.市民の健康保持増進の視野に立って、行政が早急に飲食店の無煙化に取り組むことを強く望む。

 本稿の要旨は2008年8月9日(土) 広島国際会議場にて開催の、第三回日本禁煙学会学術総会にて実務を担当した「分煙社会をめざす会」が発表した。

参考文献
1) 子どもをタバコから守る会・愛知(http://www.no-kidsmk-ai.com/):名古屋市内のデパート等における飲食店の禁煙調査(http://www5d.biglobe.ne.jp/~seagull/t-q-restaurant0705.htm.2007年5月31日。
2) 松沢成文:ストップザ受動喫煙 神奈川県が禁煙条例制定に立ち上がった理由.中央公論、2008;123(8):102-113.

Tobacco smoke environment at large food restaurant strips in Tokyo

Kazunori Nakakuki, Kaoru Takemura, Noriko Hiraga, Ayumu Benitani
Metropolitan Association on Smoking or Health

We tested the tobacoo smoke environment at 526 shops within 20 large food restaurant strips around Tokyo station, Shinjuku station, Shibuya station, and Ikebukuro Station.The shops were classified as either smoking or non-smoking. The smoking shops were questioned whether their eating areas were properly separated into non-smoking sections and smoking sections by some sort of barrier, whether they were separated with no barrier, or whether it was all smoking. Many shops had a variety of different rules on the subject of smoking.To reduce the health damage of second hand smoking, a lawful regulation is needed to prohibit smoking in public restaurants.

Key words: main rail-stations in Tokyo, tests about tobacco smoke environment, non-smoking restaurants, limited smoking restaurants, usually-smoking restaurants



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《WAT特集》

WALK AGAINST TOBACCO
2006
WEEK 12 REVISITED

Mark Gibbens

 なぜ、歩こうと思ったか
 鹿児島の佐多岬から、北海道の宗谷岬までの約3000kmを歩いて、このメッセージを伝えていきたいと考えています。

 あなたの健康を大事にして下さい。
 あなたの家族を大事にして下さい。
 あなたの友達を大事にして下さい。
 あなたの国 を大事にして下さい。
 禁煙は愛です!


 なぜ私がこのキャンペーンを計画したか、それは私はオーストラリアから来ています。オーストラリアは喫煙率の低い国です。でも、昔からではありません。人々が喫煙、受動喫煙の危険を知り、今の数字になっていったのです。政府はとても明確な喫煙の害のCMを流し、タバコの表示も写真付きでわかりやすくしています。タバコ税も高く、建物、バーであっても禁煙エリアは何%と法律で決まっています。
 今、世界の多くの国が禁煙の動きになってきています。政府の広告も日本に比べ、とてもはっきりと喫煙の危険を警告しています。
 ところが、日本は成人男性の47%が喫煙者と、驚く数字です。
 また、若い女性の喫煙率は増えていっているようです。
 これは、喫煙、受動喫煙の危険性の認識がそれほど重要視されてないからではと思いました。ただ、体に悪いとは知っていても、どう悪いのかといった知る機会がない。三度の食事より口にするのに何が成分でそれはどう体に影響する、またその煙の方が害があるのに、その影響もあまり知られていない。吸う人も吸わない人もそこを知る機会もなく、禁煙、分煙と言われてもただ困惑し、憤慨すると思います。それを知るべきだ、知ってもらいたいと歩く事にしたのです。
 また、私自身が主にICUの看護師でした。多くの医師、歯科医師が禁煙を推進しています。吸い続ける事がどんな事になるか、知っている私達が教えてあげなくてはいけない。治す事だけが、医療ではなく予防をする事も医療だと思います。こうして、歩くことも私の日本においてできる看護師としての仕事の一つと考えています。
 こうして、歩く事ははたして意味があるのかと思われるかもしれません。でも、何もしないよりした方がいいと思っています。このメッセージが一人でも多くの人に伝わるきっかけになればいいなと願い、遍路姿で歩きます。


前号からの続き―

 The first day of Week 12 began as a rest day, created by increasing the daily walking distance from 40km to 50km between Hakodate and Sapporo. However rest days are never rest days and we managed to find a coin laundry to do our washing, then returned to the hospital for an interview with a TV news crew and prepared power point slides for tomorrow’s major presentation. In the evening we met our symposium organiser, Dr Kitada and went through the presentation for a couple of hours and then back to our room to finalise our speech.
 Day 79, June 30th was event day in Sapporo and began in relaxed style with an 11am newspaper interview followed by lunch in the hospital cafeteria with our host Dr Hata and Dr Kitada, then a brief speech at the annual Hokkaido Nurses Federation branch leaders meeting. From the Federation’s building, another “no smoking taxi” ride to Sapporo City Office and a meeting with Mayor Ueda, a pleasant, casually dressed man whom I took an instant liking to. We had a wonderfully informal and friendly meeting even with two TV news crews present. I also liked his staff members, Mr Yamamoto and Dr Ukei who would also speak at the symposium. After a brief walk for the TV news cameras and handing out anti-smoking leaflets in Sapporo’s Odori Park we made a short walk to the Hokkaido Prefectural Office for a meeting with members of the Public Health Section to encourage their efforts. From here it was another short walk to the Hokkaido Medical Association and a meeting with the Vice-President Dr Akakura who humbled me with a special medallion presentation for my services to preventive medicine. The medallion is particularly precious because it is one of only four originals which were made to support a memorial plaque containing the words of Dr Yamazaki who in 1975 opened an interactive preventive medicine museum in the hope that people who knew more about their bodies would take more care of their bodies.
 With 6pm fast approaching Reiko and I with our supporters moved to the University’s Presentation Centre to deliver to a crowded auditorium our one hour keynote speech, about our walk and our thoughts on the state of anti-smoking initiatives in Japan as compared with the rest of the world. This was followed by speeches by Dr Ukei on the City’s efforts to reduce passive smoking by creating “no smoking” zones; Mr Kuroki, a lawyer who has been an anti smoking advocate for 30 years and of course our chairperson Dr Kitada. The day was completed with a small private dinner for the key event members to unwind, although for me no alcohol. A promise I have kept since the beginning of the walk.
 The next morning a delayed start to say goodbye to Dr Kitada and Dr Ukae who saw us off from the Sapporo Social Insurance General Hospital had me return to the walk at 9:40am. After two days rest my legs felt lethargic and the walking uncomfortable so I ran to the next street corner to loosen up. When I got to the corner I decided to continue running to the next traffic lights. When I reached there I decided to keep running to the end of town and when I got there I decided to keep running to the next town. When I got tired I rested. When I got thirsty I bought a drink. Then after running a half-marathon (21km) I decided that was enough running and walked for the rest of the day.
 The landscape was certainly becoming more and more natural as I followed a river north towards the mountains hanging on the horizon, some covered in pockets of slowly thawing snow, looking like lazy Holstein cows.
 With 6km left to walk to reach my target for the day I was joined by Dr Shimizu, a dentist who has been very involved in planning our Hokkaido walk. We finished the days walk of 50km from Shin Sapporo to Bibai then travelled 20km ahead to Takikawa and the home of Dr Yanagi (dentist) and our homestay for the night. We also met his daughter Hiromi and her husband Dr Masanari Tohdoh also both dentists and together we all enjoyed a bath and dinner at the local onsen.
 You may be wondering why dentists are so anti-smoking. Well, it’s because smoking causes about 60% of all mouth disease from simple bad breath to life threatening oral cancers.
 The next day Dr Shimizu and I returned to Bibai and were joined by Mr Toyama and the three of us walked the 25km to Takikawa, stopping for lunch at the homestay after which I continued alone for an hour before being joined by Dr Tohdoh, his wife and three of their nurses with hand made banners for the final walk to Fukagawa. The sight of a gaijin followed by four attractive young women all carrying anti-smoking banners certainly had motorists turning their heads and we are probably lucky that we didn’t cause any traffic accidents.
 Another surprise for me had been two days before when Dr Kitada had asked me what I thought about whilst walking. A question which had not been asked on the entire walk until now. The answer to which is quite complex.
 My thoughts run the whole gamut from light to dark, always varied according to my mood and always scattered. I think about life and death, tobacco issues of course and more bizarre questions. For example, do ants feel fatigue when carrying heavy burdens? Over the past 2700km I have certainly built up quite an affinity for ants. Probably because I spend much of my walking day trying to avoid stepping on them.
 This walk has indeed given me a new perspective on the world around me, seen at a slower pace. I have gained a new mindfulness of the nature that is easily overlooked. As we gain ever more rapid means of connecting cities we are becoming more disconnected with the natural landscape between them.
 Anyway, as we did yesterday, we ended the day slowly soaking away the fatigue in Takikawa’s onsen, and dinner in the restaurant with the Tohdohs and staff.
 On Day 82 we said goodbye to our thoughtful 3 day homestay host Dr Yanagi who had also arranged through friends, tonight’s stay in Rumoi. Starting today’s walk from Fukagawa under a hot sun across the open farming plains I made good speed through the morning. But after lunch the road climbed into a low mountain valley and as the afternoon wore on my pace became slower as the road meandered and the sun became oppressive in the confines of the valley. A fish shop owner and his wife stopped to give me some cold drinks and words of encouragement, despite him being a smoker, which helped push me on to Rumoi, where Dr Tanaka at the request of Dr Yanagi had organised our stay at a much too nice ryokan. Given my level of fatigue, having walked 51km in the heat of the day, I must apologize to Dr Tanaka for the fact that the included 16 course dinner was somewhat wasted on me as I sleepily wolfed it down and retired to bed at 8pm.
 On day 83, despite the 11 and ½ hours sleep and the included hotel breakfast, I still started the morning feeling tired, with my walking rhythm interrupted after only 3km by a roadside interview with a newspaper reporter. Following this I rounded a bend and found myself connected with an old friend from Kyushu, the Japan Sea, and with it a fresh breeze to combat the persistent heat and slowly I found my strength returning. Continuing the sentimental journey back to Kyushu, on this night we again returned to camping and sleeping in the support vehicle after a major re-arrangement of our accumulated equipment.
 On the last day of Week 12 I walked 48km from Tomamae to Enbetsu starting at 8:30am again along the coast, past giant wind towers propelled by a strong morning sea breeze. The scenery continued to be pastoral with large fields of hay, recently cut, rolled into bails and wrapped in white plastic and left to dot the landscape like a crop of giant marshmallows. Along with the Holstein cows who eat these marshmallows we are again started to see wildlife again, in the form of deer, yet another reminder of our time in Kyushu. Tonight we stayed in a small Spartan two bed log cabin on a pleasant grassy hillside on the edge of Enbetsu town and followed our usual course of onsen, dinner and sleep with dreams of reaching our goal, Cape Souya in the next few days if all went well.

To be continued・・・

写真1 札幌社会保険総合病院(秦院長)前の禁煙タクシー
北田先生と看護協会へ



写真2 札幌市役所、上田市長さんを表敬訪問


写真3 向って右から宇加江先生、北田先生、秦先生、
上田市長さん



写真4 北海道医師会にて


写真5 札幌学院大学で講演




写真6 札幌学院大学で講演

写真7 上左から北田先生、谷口先生、請井先生、宇加江先生
下右は黒木弁護士さん


写真8 北田先生と伴走車の前で

写真9  7月2日、美唄から滝川へ
遠山さんと清水先生がお供に


写真10 滝川から深川まで藤堂デンタルオフィスの皆さんが
歩いてくれました


写真11 滝川でホームステイ。柳先生と娘さんの藤堂先生

参考サイト:Walk Against Tobacco 2006 (Galleryにいろいろな写真があります)
※WAT:WALK AGAINST TOBACCO


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日本禁煙学会の対外活動記録
(2008年8・9月)
8月 8日 喫煙科学研究財団の解散勧告を喫煙科学研究財団理事長およびすべての役員・評議員に送付
8月10日 映画「スカイ・クロラ」の喫煙シーンについての質問状を送付
8月25日 ニコチン依存症管理料報告照会書の抜本的改善と検証を求める書面を送付
8月26日 映画「西の魔女が死んだ」の喫煙シーンについての日本禁煙学会の見解を送付
9月 5日 日本母乳の会に要望書を送付
9月 8日 秦野たばこ祭りについて秦野市へ要望書を送付


日本禁煙学会雑誌
(禁煙会誌)
ISSN 1882-6806

第3巻第5号 2008年10月10日

発行 特定非営利活動法人 日本禁煙学会


〒162-0063
新宿区市谷薬王寺町30-5-201 日本禁煙学会事務局内
電話 090-4435-9673
ファックス 03-5360-6736
メールアドレス 



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