2013年 8月27日掲載

【タバコと映画Q&A】
アメリカでは、タバコに手を出した子どもの44%が
映画の喫煙シーンを見て喫煙者になっている

~ なぜ映画の喫煙シーンが問題なのか ~
日本禁煙学会はこう考えます

PDF版はこちら(9ページ、697KB)
 問1 映画の喫煙シーンを見ると子どもはタバコを吸うようになるのですか?
 答1 吸いやすくなります。タバコに手を出す率が2~3倍となります。

 アメリカでの調査では、映画の喫煙シーを見た回数で子どもを4等分して調べると、喫煙場面を見る回数が多くなるほど、喫煙を始めるようになることがわかりました。
 人口動態学的特性、社会的影響、子どもの性格、親のしつけなどを調整したデータです。
【出典】サージェント博士PPT45枚目









 問2 子どもがタバコに手を出す原因はたくさんあります。これは映画以外の原因を考えに入れた結果なのですか?
 答2 映画の喫煙シーン以外の喫煙促進要因も考慮して、この結果が出たのです。

 様々な要因の違いをそろえて計算した結果、映画の喫煙シーン見れば見るほど、子どもがタバコに手を出す率が2,3倍に増えることが分かったのです。
【出典】Sargent JD, Beach ML, et al. (2004) Effect of parental R-rated movie restriction on adolescent smoking initiation: A prospective study Pediatrics 114:149-156.












問3 子どもがタバコを吸うようになる原因は他に沢山あります。映画の喫煙シーンを完全になくしても、子どもの喫煙はあまり減らないのではないですか?
答3 このアメリカの調査では、もし映画で喫煙シーンを見ることがなければ、子どもの喫煙開始は44%減るはずだということが明らかになりました。映画の喫煙シーンは子どもの喫煙を促進する最大の原因のひとつなのです。

【出典】 (MMWR) Smoking in Top-Grossing Movies --- United States, 2010
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6027a1.htm















問4 子どもの喫煙は親の責任が大きい。親がしっかりしていれば、いくら映画で喫煙シーンを見ても、子どもの喫煙は防げるのではありませんか?
答4 その調査では、親のしつけの影響も調べています。それによると、子どもの心に寄り添うが、社会ルールは守れと言うしつけや態度の親(受容+命令的)であっても、その子どもは映画の喫煙シーンを見るほど、タバコに手を出すようになります放任主義的な家庭であっても、映画の喫煙シーンを見ない子どもは、ほとんどタバコに手を出していませんでした。

【出典】サージェント博士PPT
















問5 親が吸えば子どもも吸うようになりやすい。映画の喫煙シーンよりも、親の喫煙の方が問題ではないですか?
答5 親がタバコを吸わなくとも、映画の喫煙シーンを見るほど、子どもはタバコに手を出すようになっていました。子どもがタバコを吸うようになるかどうかについては、映画の影響はとても大きかったのです。

【出典】Charlesworth A, Glantz SA.  Smoking in the movies increases adolescent smoking: a review. Pediatrics. 2005 Dec;116(6):1516-28.














問6 映画でタバコを吸う場面を見ることよりも、学校の成績がおもわしくないとか、危険なことを好むタイプだということが、タバコに手を出す原因として大きいのではないですか?
答6 学業成績別、刺激を好む性向別にみても、映画の喫煙シーンを見るほど、タバコに手を出しやすくなっていました。映画の喫煙シーンを見る頻度が減るほど、成績や性格にかかわらず、タバコに手を出す子どもを減らすことができることになります。

【出典】サージェント博士PPT


問7 アメリカ以外の国でも、映画の喫煙シーンを見るほど子どもがタバコを吸うようになるというデータはあるのですか?
答7 ヨーロッパの6カ国における調査でも同じ結果が出ています。

【出典】Morgenstern M, et al. Smoking in movies and adolescent smoking initiation: longitudinal study in six European countries. Am J Prev Med 2013; 44(4):339-44.
 タバコに対する社会的通念や文化的背景、法律による規制が様々でも、映画でタバコを吸うシーンを見れば見るほど、子どもがタバコに手を出すようになることが示されています。日本での調査データはないのですが、日本でもアメリカやヨーロッパ諸国の調査結果が大いに参考になると考えます。











問8 映画の喫煙シーンが子どもの喫煙を促進することはわかりましたが、日本禁煙学会がスタジオジブリの作品を批判するのは、表現の自由に反するのではないですか?
答8 今回の日本禁煙学会の要請を、表現の自由の侵害だと批判する向きがありますが、その批判には誤解があります。

 「表現の自由の侵害」とは、強制権力を持った政府が市民の言論を抑圧することを指すものであり、強制権力のないNPO法人である日本禁煙学会が行う批判活動は、正当な市民的権利の行使に過ぎず、まったく表現の自由の侵害に当りません。 日本禁煙学会が、「風立ちぬ」の表現を批判することも、日本禁煙学会の「表現の自由」です。それは、このアニメの制作者の表現の自由を侵害していることにはなりません。論評や意見表明を行うことは、「対抗言論の原則」に基づいた「表現の自由」社会の現れなのです。
日本禁煙学会は、「風立ちぬ」の制作会社に限らず、今後映像作品を制作するすべての方々に対して、タバコ製品および喫煙シーンの露出が子どもと若者に与える影響を熟慮されるよう要望いたします。


 映画の中の喫煙シーンに関して、「登場人物たちの設定・シーンからたばこを除いてしまったら、時代背景がリアルに伝わらない」、「過去のあらゆる作品には、良かれ悪しかれ人々の生活や世相を映した喫煙シーンが出てきます。…時代描写を曲げることには反対です」などの意見があります。

 確かにこの作品の時代だけでなく、江戸時代以降、小説・映像や実生活にタバコや喫煙シーンがあるのは事実だとしても、現在制作の映画・アニメ・テレビドラマ作品などに、これらを登場させるのが不可避・不可欠というものではありません。タバコや喫煙そのものが作品のメインテーマである訳ではなく、作品テーマそのものは別なのですから、殊更にタバコや喫煙シーンを入れなければ作品が成り立たない訳では決してありません。

 例えば、2013年春に上映の、三浦しをん原作のベストセラー小説の映画「舟を編む」(石井裕也監督)☆では、辞書編集が始まった1990年代前半の男性喫煙率は60%くらいでしたが、主な登場人物は喫煙していません。出版社での喫煙がまだ当たり前の時代でしたが(紙一杯の辞書編集室は禁煙だったと小説では書かれているとしても)、出版社の営業部でもタバコは出てきておらず、居酒屋でも離れた席の喫煙シーンが少し出てくるだけぐらいで、タバコが迷惑との表示カットもあるなど、映画製作者・原作者のお考えが反映されているようでもありました。
http://blog.goo.ne.jp/kaeruyama5151/e/844eaed12ccd0aabe857880418a44f50

 また、2013年6月上映の木下恵介監督がモデルとなった「はじまりのみち」(原恵一監督)☆は1945年が舞台ですが、この作品にもタバコは使われていません。
それでも物足りなさや不自然さは全く感じられませんでした。
http://blog.goo.ne.jp/kaeruyama5151/e/a66538dce34c16ccba01948b03f066f5

 タバコや灰皿という「小道具」がなくても、その時代を反映する方法は様々にあり、世界的に評価される作品となるためにもタバコのない映画の制作をお願いしたいと思います。


PDF版はこちら(9ページ、697KB)
NPO法人 日本禁煙学会(理事長 作田学) 〒162-0063 東京都新宿区市谷薬王寺町30-5-201