2013年8月12日掲載 2013年8月17日更新

映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて(要望と見解)
NPO法人日本禁煙学会のホームページはこちら  タバコと映画Q&Aのページはこちら
参考:映画の喫煙シーンの影響力 (2013年6月3日 apital.asahi.com記事)
日本禁煙学会の見解 要望書
2013年8月16日掲載
PDF版(3ページ、258KB) WORD版(3ページ、170KB)
NPO法人 日本禁煙学会は2013年8月12日、以下の要望を提出しました
  1. 「風立ちぬ」のテーマは、戦争はやってはいけない=命がいちばん大事だ、と言うことだと思います。私たちも心から共感します。

  2. しかし、戦争はやってはいけないという素晴らしいメッセージを発信している「風立ちぬ」の中で、タバコを吸うことがあまり悪いことではないどころか「魅力的に」描かれている事に、私たちはとても当惑しています。

  3. 原作の主人公のモデルとなった方が、実はタバコを吸わない人だったと言われています(注1)。もしそうならば、吸っていなかった人をむりやりヘビースモーカーに仕立て上げたことになり、歴史をねじ曲げていることにほかなりません。
    (注1)この作品は実在の零戦設計者を主人公としていますが、喫煙をめぐるエピソードが実話に忠実に基づいているわけではないと思われます。堀越氏が酒もタバコもやらない人だったという記述もあります:小池さとる作「黄色い零戦」。
    http://www.amazon.co.jp/dp/4418985158
    http://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/98515.html


  4. たとえ、その方が喫煙者であったと仮定しても、「風立ちぬ」で喫煙が幾度となく肯定的に表現されていることは、命が最も大事だというこの作品の一番大事なメッセージを損なう、とても残念な点になっています。なぜなら、からだに悪いことがいろいろある中で、タバコは、今の日本で最も人の命を縮めているからです(Ikeda他.plosmedicine.2012 )。


  5. 喫煙シーンを多く見た子どもほどタバコに手を出すようになることがわかっています。
    喫煙シーンを見る回数が多いほど、子どもがタバコに手を出すようになるかどうかを調べた調査が多数あります。ここで二つの調査の結果を示します。調査法は次のようです。まず、数百点の映画ビデオタイトルから無作為に50点を選び、こどもに、観たことがあるかどうかをアンケート調査します。次に、それらの映画中の喫煙出現シーンをカウントします。回答したこどもがその後タバコを吸うようになったかどうか調査します。その調査結果と、見たビデオの喫煙シーン総数の関係をまとめました。
    その結果、映画ビデオで喫煙シーンをたくさん見た子どもほど、タバコに手を出す率が有意に増えていることが証明されました。この場合喫煙が肯定的に扱われたか否定的に扱われたかの区別はなされていません。とにかく、タバコを吸うシーンの有り無しが、それを見たこどもたちのその後の喫煙行動に大きく影響したのです。


     
  6. SNS上では、この映画を見てタバコを吸いたくなったという人が多数おられます(注2)。この作品が大人の喫煙を促進し、禁煙を阻害する役割を果たしていることは明らかです。
    (注2)例えば、「風立ちぬ」+「吸いたく」のキーワードでYahooのリアルタイム検索をしてみますと、このアニメを見てタバコを吸いたくなったとツイートしている方が多数おられることがわかります。

  7. このことを心得ているタバコ産業は、「プロダクト・プレイスメント」と言う手法(映画などの映像作品に喫煙シーンやタバコを露出させるために資金を支出する)で、映像作品にタバコ使用場面を増やしてきました。それは、もちろん子どもの喫煙開始を促進するためです。

  8. 「風立ちぬ」は、製作者の意図したものであるにせよないにせよ、結果的に「プロダクト・プレイスメント」の効果をもたらしています。

  9. 今回の日本禁煙学会の要請を、表現の自由の侵害だと批判する向きがありますが、それはまとはずれです。「表現の自由の侵害」とは、強制権力を持った政府が市民の言論を抑圧することを指すものであり、強制権力のないNPO法人である日本禁煙学会が行う批判活動は、正当な市民的権利の行使に過ぎず、まったく表現の自由の侵害に当りません。 日本禁煙学会が、「風立ちぬ」の表現を批判することも、日本禁煙学会の「表現の自由」です。それは、このアニメの制作者の表現の自由を侵害していることにはなりません。論評や意見表明を行うことは、「対抗言論の原則」に基づいた「表現の自由」社会の現れなのです。

  10. 日本禁煙学会は、「風立ちぬ」の制作会社に限らず、今後映像作品を制作するすべての方々に対して、タバコ製品および喫煙シーンの露出が子どもと若者に与える影響を熟慮されるよう要望いたします。
映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて(要望)
要望書(PDF1ページ、163KB)

参考:FCTC(タバコ規制枠組み条約)ポケットブック


参考:映画の喫煙シーンの影響力
(2013年6月3日 apital.asahi.com記事)
クリックするとリンク先の記事が開きます
映画の喫煙シーンの影響力 (2013年6月3日 apital.asahi.com記事)



主婦の方からのメール
主婦の方から以下のメールを頂きました。「風立ちぬ」の喫煙シーンが、如何に子どもたちに悪影響を与えたかの証拠になりますので、ご本人の承諾を得て、紹介をさせて頂きます。(日本禁煙学会理事長・作田学)


 映画「風立ちぬ」の喫煙シーンについて、禁煙学会が、苦言を呈したとのニュースを聞いて、そんな大げさな・・・と思っていた者です。
 私も妊娠前までは喫煙していましたが、妊娠してからは一切喫煙しておりません。たばこの有害に関しても、子供たちに、くどいほど言い聞かせてきました。
 しかし、なんということでしょう。家族で「風立ちぬ」を見に行った後、子供たちが、紙でたばこを作って吸っている真似をしているではありませんか!上の子にいたっては、それに火までつけた有様です。もちろん厳重に注意をしました。ちなみに小学校6年生と中2ですが、影響力の大きさを実感いたしました。
 やはり、こういった影響力を知らない人も多いのでは?と思います。
 禁煙学会様の活動に、期待いたします。



プロダクト・プレイスメントの事例
シルベスター・スタローンは、ゴッドファーザーやロッキーIV、ランボー等でタバコを吸った、その見返りに、タバコ会社から一本あたり50万ドル(当時のレートで約1億2千万円)の報酬を得ていたことを告白しています。
クリックすると拡大表示します



タバコと映画Q&A
アメリカでは、タバコに手を出した子どもの44%が
映画の喫煙シーンを見て喫煙者になっている
〜なぜ映画の喫煙シーンが問題なのか〜
日本禁煙学会はこう考えます
アメリカでは、タバコに手を出した子どもの44%が映画の喫煙シーンを見て喫煙者になっている 〜なぜ映画の喫煙シーンが問題なのか〜 日本禁煙学会はこう考えます
(別のページにリンクしています)